二人の策謀は完遂する
◇
「──本日の生徒集会は、我々──琴乃葉高等学校文化祭実行委員会起案の出催告知並びに、追加予算決議を主題に進行して参ります。代表は私、生徒会長柊乃玲奈が、僭越ながら務めさせて頂きます。さあ、みんな拍手!」
僕らが体育館に入ってからほどなくして始まった生徒集会。
ステージ上に設けられた壇上には、さっきの藍目の少女が立っていた。
(生徒会長だったんだ……人の顔はあんまり覚えないからなぁ、僕は)
けど、失礼な態度を取らなくて良かった。やはり、姉さんの教えに従って正解だったのだ。
「うーがーたーきーずーきーくん」
僕が生徒たちから少し離れた所に座っていると、手前のグループから抜け出して声を掛けてきた女子生徒がいた。
「奈波葉月か。おはよう」
「はい。おはよう卯片築くん。遅めの到着だったね。トラブルでもあった?」
──奈波葉月。
大人びたショートレイヤーボブは茶系の淡色。素顔を隠さない程度に化粧された顔は、相変わらずの無表情。
見た目的には、ヤンチャグループに混ざっていたとしても違和感はないけど、素行は至って優等生寄りだと思う。
そして、僕の知る限りシュン以外の人間で、卯片築という存在を見つけられる希少な人物だ。
「別に。個人的な用事を済ませてたら遅くなっただけ」
「友井君も巻き込んだんだ」
葉月は他クラスの女子グループに混ざっているシュンを眺めて言う。
シュンの白髪ツンツン頭が目立つので、体育館の後ろ側からでもよく見える。
「別に、僕がやることに付き合わなくてもいいのにさ。現実に引っ張り上げてくるんだよ」
「それはそれは。大事なお役目を担っておりますな」
それで会話は終わり。彼女は元居たグループに戻り、自分は空気に徹せられる……と、思ったのだが。
「…………」
「…………?」
何故か、この女子は僕の隣から移動しようとはせず、そのまま無言で前を見据えていた。
……まだ、何かあるのか?
妙な沈黙タイムが流れる前に、僕がその真意を問おうとしたら葉月は、
「……卯片築くんは、さ。……まだ、理想郷を作ろうとしてるの?」
そう、うかがいを立ててきた。
「まぁ……」
「……そ」
理想郷の話をしたのは、シュンと葉月だけ。
でも、理想郷をどうやって作ろうとしているのかを話した事があるのは、葉月だけである。
あの方法を打ち明けた時、彼女は明らかに難色を示した。だからこそ、まだあんな手段を続けているのかと訊いたようだった。
そこから再び始まる沈黙タイム。
周りの音がワキャワキャしようとも、身動き一つしない我等二人。
もう、僕を咎めようとしたいのか違うのか、葉月の意図を明らかにせねば不安で吐きそうだ。
「──奈な」
「卯片築くん──ッ」
僕を向くわけでもない。
葉月は変わらず騒がしい前を眺めながら、穏やかな口調で呟いた。
「じゃあ……ごめんなさい」
「……え?」
「──以上、我等生徒会と演劇部との合同製作で開催されるアクションエンターテイメント、『インリアル☆バトルゲーム ~悪の組織フォールを打倒せよ!~』の説明でした!」
拍手が起こる。
僕は葉月に声を投げかけたが、彼女は口元に人差し指を添えた後、前を見ろと言う感じでステージを指差した。
そこには生徒会長。あの人は拍手を収めると高揚した空気を宥めるように語り続けた。
「──さてさて。ここからは、イベントを大成功に導く為の注意事項も述べておきますね♪ まず基本的NG行為から。──『指定外アイテムの使用』。『ゲーム参加者以外からの支援』。『敷地外への離脱』。『他者に怪我を負わせる等の過度な行動』など、インモラル的だとイベント主催者側で判断される行為が確認された場合、厳重なるペナルティーを課す事にしています。……なので参加者は、設けられたルールに則ってゲームクリアを目指してくださいね」
つい数秒前まで、満面の笑顔を咲かせていた柊乃玲奈が、『厳重なるペナルティー』との言葉を放つ際、目つきが明らかに変わった。
「……ん? 皆、厳重なるペナルティーって何だろうって顔してるね。……ふむ。この詳細は早めに公表して対策を練られるのも癪なんだけど、特別に一例だけ、どんな事をされるのかを見せてあげましょう♪」
そう言うと彼女は、降りてきたスクリーンに皆の視線を促した。
すると、ある映像が映し出される。
それは、なにかしらのゲームの画面。
「先の注意事項では伏せてましたが、私達がインモラルだと判断する決定的な行為があります。──それは、【正規外取得目的のポイント操作や武器改造を始めとするチート行為】です」
口調から抑揚が消えた。
表情は色味を失い、柊乃玲奈は淡々と述べている。
僕が……。僕が、見たことのある、見覚えのある、『理想郷』に酷似した映像を全校生徒に晒しながら。
「なん、で……」
「………」
腹の底で蠢く嫌悪感が、言い知れぬ……謂い表せられぬ程の虫唾を伴い、視界が霞む。
「この映像は、とあるプレイヤーによる無差別PK映像です。詰まる所、ゲーム環境上に設定された、他ユーザーが操作するアバターへの殺傷行為。……でも、この行為はゲーム内の仕様である為、決してルール違反だと断言出来るものではありません。双方合意の下でない限りは、単純な迷惑プレイに過ぎず、ゲームの運営側もプレイヤー同士で解決させる放置事案として処置するでしょう。ただ、私自身、疑問に思う映像があります。……これは、何でしょうか?」
映像が、別のゲームの映像に変わる。
それは、僕が最も優れた、摩天楼に比する絶景と称していた作品で……。
ゼロ再生のまま、全ての目を潜り抜けてきた、チートプレイ動画で……。
「この映像には、通常プレイであれば開示される筈の無いモノがあり──」
デバッグ操作を行って、僕の空気の才を実証させた最初の成果……!
「私には、ゲーム内設定の改竄が行われているように見えるのですが。……これが何を意味しているのか、貴方ならば、当然答えられますよね? ── 『 卯 片 築 君 !』 」
◇