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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部:樹都フォール脱出
28/107

第七月:冗談って難しい




「……ゲームクリア? ……つまんな」


 吐き捨てた言葉は、林にそよぐ風に溶かした。


 あたしの眼に収まる樹都フォールで行われていた内戦みたいな騒動は、権力者の声を最後に終息したようだ。

 とても面白いモノを観れると思っていた時間を返せと憤るように──それか、どさくさに紛れて話をややこしくして遊ぶのも有りだったと後悔するように、強く舌打ちした。


 だったら、もうこんな所に用はないから。

 渡すものは渡したんだし、日が落ちる前に『次』へ行く事が大事だ。さっさとしないと、『明日』になってしまう。


 周りに誰も居ないのを良いことに、堂々と日に晒していた顔を大きなフードで力任せに隠す。


 絶対にそれだけは阻止しないといけない。


(『独りのままで・・・・・・、明日なんか迎えられないでしょう』!)


 であるなら、こんな仕事は早く終わらせるべきなのだ。

 道草食って油売ってる場合じゃないのだよ。


「よし……! 急いで『ひと』に行……?」


 全速力で駆けて行こうとした。

 ところが。──ところがだ。

 また、『ところが』なんだよ。


「……ふっ……ぅ?!」


 感じた人の気配。話し声。大勢の男の集団が、あろう事か獣道を通っていた。それも、身を潜めなければ見付かってしまいかねない程、近い距離に。


(…………賊? なんでこんな所にいるのさ……!)


 咄嗟に木の影へと移った。──気付かれてないみたいだから良かったけれど、動物を剥いて・・・作ったような……みすぼらしくも『闘い』に重視した格好からして、彼らはタチの悪い『奪う者』みたい。

 今、あたしが出会いたくないモノ『ナンバーワン』である。


 あいつらを目に収めてしまい、流石に肝を冷やす。

 『奪われたくないモノ』を持っているから、尚更だ。


 無意識に、ローブの内ポケットにしまってあるモノを押さえるのと同じタイミングで、奪う者達は何故か二つのグループに分かれた。

 一方は道のまま進み、もう一方は足を止める。

 信じられない。

 そんな所に居られたら、動けなくなるじゃないか。


 あり得ない事態。過剰なストレスに歯を食い縛る。

 いっその事、打ち倒すか。

 思って腰に吊るした片手斧に意識を向けた。でも。


(……いや、駄目だよね。特に『あの亜種』は、何するか分からないし)

 集団の中でも、一番重装備で、異質な雰囲気を漂わしている者がいる。──それが亜種。顔を持たない黒い者。周りの人間種を束ねている主のようにも見えた。


 彼らの目的がなんなのかは想像もつかない内は、下手に姿を見せない方が良いとは、思うけども……。


(それって、いつまで……?)


 いつまでも居られると、此方にも『事情』というものがあるんだ。あまりに長く居るようなら、思い切って飛び出そうか。



 しかし、決意は揺らぐ。

 何をすれば正解?

 どう進めば、ここを切り抜けられる?

 悩む時間が長引く程、日は傾く。

 柄にもなく震える手は、行く先も定められないままにローブを潜る。


 そして、あたしの『武器』の柄を掴み……情けなく──固まった。







 『サラセニア領域』樹都フォール南局正門施設。


 通称、『学了の門がくりょうのかど』前にて。







 BGMはピアノと木楽器を主体とした平穏な曲調で、これまでの騒動を忘れられるものが合いそうな……そんな昼下がり。



「──はー。『やり直し』っすか」



 樹都を囲む数十メートルの高い壁は改めて見ると、中腹から上部まで段を成して設計され、その果てまでウネウネと波打つバルコニーがあった。

 人の往来も多数見える事から、その奥の通路は観光道か何かだろう。そんな豪華設計な壁を背に、僕とハウは領外部の土地まで架けられた西洋橋を歩きながら、『会議』と称して話し合っていた。



「……そ。なんでか、俺だけに適用されてるっぽいぞ。……あ、駄目だ。この髪留め、硬い。取れね」


 先程の状況にあった僕の様子──『ステルスチート』を発動させていた状景を語ってくれていたハウが、僕の後ろ髪を纏め上げていた蒼色の髪留めをペシンと叩いた。


「取れないなら、もう良いよ。意味不明なフラグは放置に限るって」

「そう、なんか? ……なら放っとくさ」



 怪しげな髪留め弄りを止めて、僕の肩に戻ってきたハウ。取り敢えず、彼の話を聞く分には、やはりと言うべきか。

 ステルスチートの効果を阻害していた可能性として、この白い綿毛の獣が要因に挙げられた。


 ハウを傍らに置いておくと、隠密性が減退する。


 魔法樹の魂塊に追われたり、反権力者のF.I.に目をつけられたりした中で、もしかしたらと感じた可能性だ。

 だから僕は、それを確かめる為にハウを遠くに投げて、ステルスチートが発動するかどうかを試したわけだが。



(結果は、限り無く黒……か)



 ハウと一緒に走ってる間は、あれだけゴーレムから逃れられなかったのに、一転して実験は成功。僕の隠密の才は、遺憾無く発揮してくれたようだ。

 これを受けて思うのは……間違いなくこの案件。



 『獣衣装を纏った状態ではステルスチートは発動しない事』。



 結論付けるには……まだちょっと抵抗はあるが、その事については僕の中でほぼほぼ落着していた。


 このきっかけを作ってくれたF.I.には感謝せねば。彼女が獣衣装を纏った状態と纏っていない状態とで、あからさまな反応の違いを見せてくれたからこそ、僕もあの時、もしかしたらと思えたのだから。


 反面、双方の良い部分だけを合わせると、高速移動で隠密行動と言う、正にステルスチートな話になってくれるが……世の中そんなに甘くないなと、肩を落とすのであった。


 この件はもうこれで良いとして、僕はそれよりも興味を引かれた『ハウの権利』について、掘り下げたいと思う。



 ここまでの騒動の最中、彼は確かに初見とは思えない台詞を言い、行動力を示していた。

 先を案じた積極的な発言に、獣衣装時の触角を用いた立体運動。それらが、ハウが一度経験した上での模索、問題回避のソリューションだったのなら、言わずもがな納得である。


「──んぃで、俺がヤられそうになった時に『あまねくもの』ってのが──」


 ハウは開拓テーブルを開いてキャンバスに見立てると、四角い枠の中に絵を描き始めた。


 あの案内人(人?)の二等辺三角形と、三つの六角形。それらを指しながら、死約事項──改像内致死適応時間について、手短かに教えてくれると、「どう思う?」なんて、感想を求めてきた。


「──どう思うって……。そだなぁ」


 死亡を回避する為に、死亡確定ルート、またはフラグが立つ瞬間──謂わばターニングポイントに戻ると、死亡が確定した時間帯から戻ってきた時間帯の間の時分は、やり直しを受けられない。加え、その時間内で死亡した場合は、通常通りの死亡処理がされる。

 しかし、その時間さえ消化してしまえば、また『やり直し』が可能……と。


「──えぇ……と」


 残機制ってルールでもなく、ゲージ制回帰でもなく……要はワンチャンス死亡回避。


 確実に死亡する物語に則って行動し、その瞬間だけ流れを変えて死亡を回避する安全策と、最初から別の行動をして時間を潰す不透明なルートでは、やはりリスクが違う。

 更には、やり直す場面が死亡する時間から遠退く程、渡る綱は細く、緩まっていく。

 

 となると、さっきまでの逃走劇の中でハウが行っていた『やり直し』は前者で、『全ての死亡フラグを回避した』とする件が、頭の中を無作為につついた。


 前にやった死にゲーの賜物だって言えるのかは分からないが、シュンの精査、判断は結果的に、僕らを樹都フォールの外へ導いたのは事実。

 ゲーム自体苦手だと言って殆ど手を出してこなかった友人が、ひょんな事から己の潜在能力を覚醒させる。

 そんなの、主人公の物語みたいだな。……なんて、思ってみるが、それは敢えて触れないでおいて、僕はこれを訊く。


「ハウは『準』ゲストなんだ?」

「そうは言われたけどさ……。定義も知らんし。キキは『ゲスト』って言われてたんよな」


 クク側にいる者が言う『ゲスト』とは、恐らくサラセニアに入ってきたプレイヤーを差しているのだろう。では、これに『準』が付けられるゲストとは、どういう枠組なのか。

 『死亡回避』なんて特権を与えられているのは、なんの意味が……?


「……あの娘らが僕を『ゲスト』って呼んでたってだけ。ハウは、ファイユさんから『君は準ゲストだね』って言われなかったのか?」

「んんんん?」


 「どうだったろ?」と、ハウは俯いて記憶を捻る。けど、それは一瞬で終わり、


「や。無いね。ファイユもサクラって子も、樹都の人も『ゲスト』って言葉自体言わなかったよ」

「……うん。そか」


 思えばそれもそうか。

 ククでさえも、僕が『ゲスト』であると認識したのは、言動も然ることながら、僕が所有する『資材』の数が決め手だったようだ。

 一目見たところで察せられる事じゃないのだな。


 単に、ハウが訊かれなかっただけだろう。……となると。



「これじゃあ、僕にも『死亡回避の特権』が与えられているかは、分からないな……」


「んぁ?」



 肩から変な音が聴こえた。ではもしも、僕が謎を突こうとしている言葉を理解したら、今度はどんな音になるかな。

 と言う事で、僕はくそ真面目な顔をしてひとつの冗談・・・・・・を言ってみた。



「──よし。【死んでみよう】」



「」



 …………絶句されてしまった。


 一応、僕の常識から言えば、新しいゲームを始める上で『死』を見るのは通過儀礼であって、突拍子もない発言って程でもないのだよハウ君。ただでさえ丸い目を、よりまん丸にして僕を凝視しても此方は変な台詞を吐いたとは思わないぞ?

 例え冗談であってもな。


「……ぃぃやいやいや。それ、どうゆうこ…ってオイ!」


 因みに橋の下は『踏地マップ』を見るに、東方面に崖があるようで、崖下まで下りられる鋪装された階段道となっている。

 それでもこの橋は下までの高さが六階建てのマンションくらいあるし、ここからでも十分……。


 とかなんとか思いながら、てくてくと歩いては高欄に辿り着く。


 周りには正門が閉まった事で入れなかった人々がチラホラ居るが、そこは此方が気付かないふりをしよう。僕が空気なのではない。お前たちが空気なのだ的な。


「ああ、そうだ。ハウ、これ持ってて」


 友人に差し出したのは小刀『笹流し』。

 死んでアイテムロストのペナルティーが発生したら最悪なのですよ。


「はッ?! いや持たねぇよ意味わかんね!」

「預かってろって。僕はRPG系のゲームを初プレイする時は、必ず失う物が無い初期の状態でGAMEガメ OVERオベラの仕様を確認するのが常だ。今回はちょっと遅くなったが」

「そうだとしても喰らうのは『普通の死亡』かもだぞ!? 死約にもあったろ! 読んでねんか!」

「? ああ、つまりログアウトってコトな? なら丁度良い。再ログインの仕様も確認がてら……」


 橋から身を乗り出し、高欄に脚を掛ける。ハウもこんな常軌を逸した少年を止めるのに必死。僕の服に獣の爪を食い込ませ、力任せに引っ張ってくるので、襟元がメチメチと鳴った。


(──力が強いな。そのちっこい手のどっから出してるんだ?)


 ……とまあ、総じて冗談であり、最初から投身自殺なんざするつもりはない話でござる。


 ハウもここまでして止めるのだ。

 僕らは『ゲスト』同士とは言え、『準』と『正』に分けられている事が、必ずしも『死亡回避の適応』と言う同じ結果をもたらすワケではないと、彼も考えていたのだろうな。


 さぁさ。であるなら、僕もこんな真似は「HAHAHA冗談さベイビー」の一言でも付けて、とっとと辞め──。



≪ パリポルン♪ パリポルン♪ ≫



 と、思った時、ハウの目の前に二等辺三角形が出現し、唐突にスマホのアラームのような、変な呼び出し音が鳴り響いた。


「……なに?」

 あまりにマヌケな音に脱力し、肩の後ろにぶら下がっているハウを訝しんでしまった。


「あ、あの子だ。サクラ」

 現れた二等辺三角形に表示されていた文字列を見て、ハウも一旦引っ張るのを止める。


(通話か。そう言えば、去りしな「しよぅ」って言ってたな)

 

 けど、丁度良いタイミングで鳴らされた為に、僕は狐の娘の呼び出しで投身自殺を辞めたみたいになった件について。

 冗談だって言うタイミングが流れたじゃないか。


 ……もう、渋々身を翻し、高欄の上に腰をおろすのと同じく、ハウを膝に移動させて通話の開信を促す。


「えー……と。こうか」

 ハウが二等辺三角形に触れると、これを囲む白い六角形の枠線が拡がり、短いながらも目一杯伸ばされた彼の手が下へ振られた。

 ──すると。



《 ハウ! キキ! 聴こえる!? 》



 二つの図形と『サクラ』の字が重なった模様から狐の娘──キサクラの声が流れてきた。

 ──でも、なんか、焦ってるような口調……?


「聴こえるよー。そっちも聴こえる?」


《 あ、聴こえる! 大丈夫? さっき、そっちに『メイノワ』が飛んでったケド! 正門爆発してたケド!! 》

 メイノワ……?

「キサクラ。それって、大きな鎌?」


《 キキー! うんソレ、『冥乃輪』! ……なんだ、大丈夫そーぅ。良かったぁ 》


 安堵の息を漏らすキサクラは、どうやら今さっきの正門施設での惨事を見ていたようだ。《 外との連絡網が切れたかと思った 》などと呟いた狐娘にとって、メタい方向に傾きやすい僕みたいなものは『命知らず』だと映るかもな。

 現にハウが「今キキが自殺しようとして止めてた所」だと言ったのに対し、《ばかじゃない?》と返ってきた。


 非難囂々。「冗談だって……」なんて台詞も、あまり説得力を持たせられなかった。ホントに冗談って難しいなと思いましたまる。



「あー……。はい。そんな物騒な話は置いておこう? いいね? それよか、ちょっとキサクラに訊きたいんだけど……」

《 ん。ククお姉ちゃんの見える所に置いとく。何訊くの? 》


 置き場所よ……。

 ファイユさんに見せて喜怒哀楽に踊らせるよりも、ククに見せて『異様なモノを見る目』にさせようとする辺り、キサクラの聡さにサディスティック染みたものを感じる。


「僕ら今、フォールの外に居るんだけど、『拠点』って作った方がいいのかな?」

《 『拠点』……か 》


 クク曰く。

 開拓を行う者は、まず探索の為の拠点を作る。次に、拠点を中心に採掘場所を確保し、行動範囲を拡げて探索レベルを上げるが吉。


 この事が、まだ開拓を目的としていない僕ら放浪者にとって、必要な作業なのかを知りたい。



《 サクラは……外に『拠点』作ったコト無いから、たぶん大丈夫じゃない? 言っちゃえば『拠点』って、採った資材を整理整頓したりする休憩所みたいなものだし 》


 そしてもうひとつ。二人は獣衣装で強くもなれるから、作らなくても別の宮地まで辿り着けるよ。──だそうだ。



「じゃあ……。作っても作らなくても同じ……と」

 なるほど。


「『拠点』も資材を使った『開拓』で作るとか?」

《 皆そうしてる。でも、その辺に落ちてる木の枝を地面に立てて、金魚のお墓みたいな拠点を作ったファイユと言う人をサクラは知ってるよ 》


「……な、なるほどね」


 拠点は作らなくても別の宮地に行ける。としても、そこに着くまでに『冒険』のひとつもせずにダラダラと道を歩いていくのは……些かあくびの出る事案である。


 遥か先まで続く一直線の街道を眺め、少しばかり、ゲーム好きの血を騒がせた言葉を投げてみた。



「……キサクラ。この辺りに『採掘、採取』が出来る場所ってある?」

《 ん? あ、うん。ちょっと待って。『踏地』開く…… 》


「……おいキキ……」


 ハウが振り向く。


「知れば実践危うなかれってね。折角の仕様だ。使って遊んで損は無いだろ?」

 

 獣衣装に装換した僕らは、キサクラとククの話からすると、脱初心者開拓者レベルの目安で四日かかる道程を、拠点無しで容易に踏破可能らしい。

 だったら、『開拓』の実践も兼ねた旅にしてみるのも『冒険』である。



 余裕があるなら埋めてみよう。の、精神だ。



「……お前の事だから、採取っつってもお花畑でキャッキャうふふするワケじゃないんは分かる」

「『花の冠は木に吊るせ』な野郎をやってますからな」


 と、こんなアンチリア充みたいな戯言を吐いていると、キサクラに引き戻された。


《 キキ達がいるのって、南の正門だよね? ……なら、『ネクロの洞穴』って言うのが近くにあるよ 》


「……『ネクロの洞穴』?」


《 そー。鉄鉱石とか採れる所。……サクラがソコ行ったの、ずぅーーっと前だから、今はどうなってるのかは分かんない 》



 ネクロの洞穴……。


 死体ネクロ……ね……。



「名前からして大丈夫か? 僕らでソレ大丈夫か??」

《 そこはアレだよ。……その……。あのォ……ウサギちゃん的になれば…… 》


「逃げろと諭している時点で危ないって事な?」


《 ケド! サクラが行ったの小さい頃だし、計り間違えてるかもしれないから、正確な適正のレベルは知らない! もしかしたら、二人なら無双出来るかもだし!? 》

「……うん。行ってみないと分からないってコトっすね」


 キサクラが妙に食い下がって来たのはなんだろうな。例の『誉められたい精神』か?

 自分の指針が役に立ったと思ってもらい、ご褒美を貰おうとしているのかな。


 ……とまぁ、色々と勘繰ってしまうのは悪い癖だ。

 キサクラが勧めるのなら、まずは、その『ネクロの洞穴』と言う所に行ってからどうするかを考えよう。


「ありがとうキサクラ。……じゃあ、ちょっとソコを覗きに行ってみるよ」

「マジか」


 別にゲームの経験知識が乏しくても、『ネクロ』の意味くらいハウだって承知。

 友人の顔に「お前やっぱり死ぬ気か?」と書いてあるのを、僕は頭を撫でるかのように拭った。


《 ぁは……。でも、キキ。……行くのは良いんだけど、あそこね……。ベ 》

《 狐ちゃん。取り込み中かな? 》

《 ──ッてぃ!? ────────── 》



「……え?」


 唐突。

 急に何だか死のかほりがしそうな女性の声がキサクラの言葉を遮った瞬間、息を詰まらせた彼女の音を最後に、通話が切れた。


「……なん……?」

「さぁ……?」


 キサクラと声を繋げていた図形が、通話の終了と共に消え去った。

 キョトンと顔を見合わせた僕らだが、あちらの事情なんて考えもつかないし。


「ネクロの洞穴。とりあえず、行ってみるか」

「……マジか……」


 高欄から降りた僕はハウを再び肩に迎えた。


 いざネクロの洞穴へ。正確に言うなら、いざネクロの洞穴の入口へ。かな。

 そこで僕らが行うのは『開拓』と『採掘』の実践だ。

 チュートリアルを終えた身には、おあつらえ向きだと思うのだ。


 目を伏せて、露骨に行きたくないでござるオーラを醸す友人に気付かないフリをして、僕はフォールを背に歩き出す。


 狐の娘が立てた道しるべが何の役に立つか。

 僕としては、それはそれで良し悪し関係無く、楽しめれば問題ないよねと、肝を座らせていた。



「……つか、『キサクラ』って呼んでんの何?」

「狐のサクラだから。だってさ」

「へぇ……。狐の? ……アレ狐か?」

「え……? さ、さあ?」




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