理想郷への進路
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──あの空は掴めそうにないか。
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「へぇ……理想郷とな?」
自転車の荷台に乗る友人が言う。
「ああ、僕の理想郷っ。僕を、僕たらしめる世界! もしかしたら作れそうなんだっ」
漕ぐペダルは重かろうが、声は弾む。
「そぉ。……良かったな、キズキ。それなら、もうお姉さんに馬鹿にされずに済むんじゃね?」
「名前が『築』なのに、何も築けてない。だから、お前の名前は『キキ』だー……なんじゃそらだもんな」
俺にもキキって呼ばせろよと笑う荷台の人は、それで? と続けた。
「なにをして作るんだ? その理想郷」
キキと呼ぶのは一人で十分だ。僕は友人の問いかけの後、空を見上げる。
「──秘密。でも、僕の空気力を証明する方法だよ。存在の希薄さを逆手に取って作る世界……理想郷……!」
自分が持っているモノに気付いて、ソレを生かせる場所があると知って、ようやく開けた道。
その先にある『僕──卯片築』がいる舞台へ行くのだ。そうしたら、姉さんは築を認めざるを得ない。あの偉そうな態度を改めさせてやるのだ。
「なるほど。どこに行っても影が薄いキズキにお似合いの進路って感じだ」
お姉さんへのネガティブな執着心は頂けないけど等と、ポジティブな執着心を持つ友人は言う。
「……ところでシュン、さっきからそれ何してるの? 雲は手を伸ばしても取って喰えないぞ?」
「いや気にすんな。今、キズキのお姉さんの意識を受信中だから」
「……え、意味不明過ぎて気持ち悪いが?」
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