第六十九月:秘都の勇者と野良魔王④
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救世主の一撃は、窮地の底を深めた。
一人の男の出現をきっかけに、クヴァリエル共はこぞって妖精さんを起こす。
──黒と白の新たな花が咲いたわけだ。
僕様はザドの隣へ降り、すぐに我らの道を明かす。
「ザド、突っ切るか。それとも戻るかっ?」
「若にとっての、今日のおすすめは?」
問いに問いとは、余裕ありやがる。
ならば、窮地を突き進むのも悪かない。
だが──。
「見ろよ。妖精さんらは、我々の注文を待たんそうだ」
妖精さんを起こしたクヴァリエルは、他の個体を次々と取り込み──巨体を練り上げる。
「──アレが統率か?」
「さあ……。けど、合体は浪漫よな」
そうして現れたるは、
一見して──白いウサミミをつけた黒い大蛇。
それだけなら遊びようもある。ウサミミに模した妖精さんが司令塔なら、我らのみで翻弄も容易。
しかし、背骨から生えたのように並ぶ妖精共は……本能的に頂けないな。
「決めた。立て直す」
言うと同時に、ザドの剛腕を引く。
財布を忘れたから、一旦店を出るぞと促す、あのノリで。
「先行け。しんがりを務める」
「待ちおれ、若。……どさくさに紛れて倒す気か?」
「倒さん倒さん。──倒したらごめん」
僕様はザドのケツを叩き、さっさと救世主を連れて元の場所へ行けと指し示す。
「……フン。シバコイヌ、ついて来い!」
「あ、了解。あの、報告あるんですが」
「走りながら喋りなー。二人とも急げよ」
筆ノ亜をモード変更。
空中戦もイケる、八機ブースターを筆本体に生成。
ザド達がスタートを切ったのを見て、僕様は──喰らいかかる大蛇を嘲笑った。
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