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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部終章:『月に筆を』
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第六十八月︰気になった清楚な女の子が戦闘狂に堕ちて性癖を爆発させる子の話 【前置き】

───




 秘都クレイトに属する生きたユーザー数は、サラセニア内の全宮地の中で一二を争う。

 ピラミッド機をいけないサイトからゲットしてくるような人間しかいないもの。秘密主義や陰を拗らせた人が好きそうな『権力』を糧にする場所があると知れば、わらわらと集まってくるよね。

 そうなって宮地の空気が澱んでいき、隠しきれない悪意によって街が荒らされていくのが面白くて、当方はそれら『愚』が可視化された場所にアトリエを建てた。


 秘都クレイト第二街機──二つに引き裂かれたゆで卵みたいな構造をした街もどき。その一画。

 いつもは人の気配など無い場所も、今回起こった騒動を受けて、不安に駆られた誰かの慌ただしい物音が響いている。

 それらで耳を孕ませながら、当方は愛しのアトリエの戸を開けた。


「──ハァああああああぁあぁあぁあ……。現況から楽しいですねぇ!」


 熱い頬をさすりながら、画材道具の入ったケースを流し台の隣に置く。

 数秒開けたままにした入口から人の気配を感じられない事を確認した後、何食わぬ顔で閉め……施錠。

 しばらく戸に背を預けて目を閉じ、何の音も届かなくなってから、潤う瞳を覗かせアトリエの奥へ。

 幾つものキャンバスと試色画、雑絵紙が積まれた個室。その更に奥。

 揶々んは酷く汚れた厚い一枚布を被った大きな物体の前で止まると、一呼吸。

 そして、壊れたカートリッジを胸に抱き……カーテンに潜り込むように布の中へ入り込んだ。



────



 ノノギさんの秘都初体験は、ひと月半前になるか。

 妙にインパクトのある大男に添い歩く様子に、案内人を請け負った揶々んは思った。

 ダークウェブにダイブするような子には思えないな……と。清楚というか大人しそうというか、何歳になっても誕生日を祝うのが当然で幸せな事だと思い込んでいる純真そうな女の子。

 とはいえだ。やはりこんな所に潜ってきてしまう以上、心のどこかに闇を抱えているのだろう。──それだけが、彼女に対する印象であり、興味の程だった。


 当方は言わば『間に合っていた人』なので、そんな獲物感丸出しの子にちょっかいをかけてやろうなんて思わなかったけど……秘都の狩人連中がねー……。

 大男が秘都上層部へと単身で向かった後、一人取り残されたのをいい事に早々とひん剝かれそうになっていた彼女を助けた。もちろん揶々んがエスコートしているお客様だったのから当然の行動。

 しかたなくだ。面倒だとしても、連れが戻ってくるまでの間、しかたなく傍にいてあげた。


 色んな話をしたものだ。

 闇を落とし始めたサラセニアの情勢から、誕生日が近いって解釈一致な話題まで。

 ああ。この人はこういう人なんだ……なんて、自分の中でノノギさんという像が組み上がるくらいには言葉を交わした。

 その像を絵に起こして、当方はこういう事が出来る人だと自己紹介したら、その絵を誕生日プレゼントに欲しいとか云われて、光に当てられた気分になった。

 純真云々の前に、事前情報を入れずに来たのは明らか。だったら、秘都の民に物をねだると何を要求されるかを、その身を以て教え込んであげた。


 つまりは、面倒事の代役な。

 揶々んが保護した鏡赤龍の幼体かぅばんのお世話をさせた。するとどうだ。

 かぅばんを頭に乗せて獣衣装ごっこしてたら、他のかぅばん達も集まってきてモフモフな塊にされて悶絶してたり。

 成体カゥバンクオルに轢かれて、どんくさい姿を晒して半べそかいていたり。

 なんだかんだ言って散々な目にあっても、かぅばんの匂いを嗅ぐと幸せになれそうとかイミフを宣い、『吸い』なる行為に走る彼女の阿保な表情が面白くて、ついつい当方もノノギさんの絵を描いていた。

 率直に楽しくなっていたんだ。


 ……揶々んの中で、ノノギさんが『気になる子』になっていったのは、そういうことがあったから。

 ……揶々んの中で、ノノギさんに対してムラっとし始めちゃったのは、そういうことがあったから。

 

 大男が戻ってきた辺りだったろうか。

 どうやら彼は勇者の地雷を踏み抜いたらしく、案内に上がったお客様は追われる身になっていた。

 その割には愉快そうに笑っていた大男だが、秘都側は結構ガチ。勇者の側近たる獣族と亜種を後方に据えた追撃隊を放つほどの騒動になった。

 秘都は案内人がいなければ入ることはおろか、出ることすらままならない。それだけに、おふたりは袋のネズミといっても差し支えない状況に落とされた。


 戦うつもりはない。戦いに訪れたわけではない。

 顔を隠して、走って飛んで逃げ続けて。それでも追い込まれる。話もさせてくれない。絶体絶命だ。

 今思っても、あの状況を打開できたのは、揶々んが良い人で……悪い人だったからだな。



 なにをしたかは単純。当方の得意技。

 かぅばんを片手斧で斬り殺して狂ったように笑うノノギさんの絵を、彼女の視界に入れてやった。

 暗に言う。ここで幸せなんて求めるな。



 ……ホント、揶々んに壁役になる勇気がなかったせいだと思う。

 そのせいでノノギさんが自ら目を覚まし、扉を開くきっかけを作ってしまった。

 否。扉はこう開けるんだよと、当方が教えてしまったのか。そうすれば、丸く収まるじゃないかと。



 結果、おふたりは暴力的な方法で秘都を無理矢理に脱出。

 流石にもう会えないかなと思っていたけど、このあいだノノギさんが単独でいらっしゃると連絡を受けた時は、呆れる以上に嬉しかったものだ。

 当方、喜んで案内人役を請け負った。そして相談される物騒な話。今後の秘都と滝都の展開。

 それらに驚いたと同時に感じ取れた、彼女から香る戦臭さにムラムラした。



 揶々んは思った。


 己に強さを見出しちゃった可愛い女の子をボコボコにしたい。いじめたいって。


 痛めつけて、液まみれのボロ雑巾みたいになった彼女を見下ろした後に抱きしめて、ちゃんと愛でてみたいって。


 この揶々んの性癖の扉が全開になったって話。



 それが、ようやく現実のものになるんだよ。



 そう思ったら普通、頬が赤く染まるほど……笑うでしょ?




───

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