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大いなる風  作者: オフトンスキー
1/1

《ソルテ》

 「行ってきまーす!!」


そう口にして家を飛び出してきたこの少年の名前は『ソルテ』イラリア半島の端っこにある港街に住む、極普通の男の子。


「こらっー!!あんた今日は勉強をするって約束したじゃないか!!」


ソルテを追って出てきたのは彼のお母さんである『リステット』ソルテを女手一つで育てている、たくましいお母さんです。


「明日するよー!!」


そういって逃げ出したソルテ。リステットはその背中を見ながら叫びます


「あんた昨日もそういって逃げ出したじゃないかい!!」


そんな母親の声を聞こえないふりをして走って逃げるソルテ。どうやらこの少年、なかなかのわんぱく坊主のようだ。そして、ソルテの後ろ姿が見えなくなり、彼女はやれやれといった感じで呟きます


「まったく、あの子は...誰に似たんだか。」





 そんな母親の気持ちはつゆ知らず、勉強から抜け出してきたソルテはというと


「たくよー母さんもしつこいなあ...勉強なんてみんなやってないよ...そんなことより今日は『アダン』さんいるかなぁ?」


そんなことを言いながらある場所へと向かっておりました。




 「おーいソルテーおはよう!!」


表通りを歩いていたソルテを見つけ声をかけてきた一人の少女

「ああ『リーニョ』か...おはよう。」


ソルテがリーニョと呼んだ少女、彼女はソルテの幼馴染です。彼女の家は八百屋さんで、今もそのお手伝いをしている時に、歩いているソルテを見つけたようです。


「どうしたの?元気ないじゃない。今日もアダンさんの所に行くんでしょ?」


「うん...でも昨日も一昨日もアダンさんいつもの場所に居なかったんだ。」


少し落ち込んだ様子で喋るソルテに、幼馴染のリーニョは心配して


「ちょっと待ってて。...ねえ!!お父さん!!ソルテと遊びに行ってもいいー!?」


開店の準備をしていたリーニョのお父さんの、いいぞーという返事を聞くとすぐに


「ねえ!私も行ってもいいよね?」


「いいよって...どうせ断ってもついて来る気満々じゃないか...。」


「へへーあったりー。いいでしょー?だって私もアダンさんのお話好きなんだもん。」


「別にいいけどさ...邪魔だけはするなよ!」


「しないわよー失礼ね。」


そんなこんなでついて来ることになったリーニョと共に再びソルテはこの港街の表道を歩き出しました。



 この港街の名前は『サグレッシュ』元々は小さな漁村の一つでしかなかったといいます。しかし、数十年前、新大陸『リアメカ』が発見され、その新大陸に建設された植民地との貿易で、大いに発展し栄えた街となったのだ。

そして、今、ソルテとリーニョが会いに行こうとしているアダンという男、彼もまた数年前まで新大陸で活動していた冒険家の一人という話であったのです。




「アダンさーん!!いますかー!!」


アダンの住む家の前に辿り着いたソルテとリーニョは、扉の前に立ちアダンの名前を呼びます。しかし、いつまで待とうと反応はありません。我慢ならずソルテは扉に手をかけ押します。


「開いてる...。アダンさーんいますかー?」


鍵が開いてることに気づいたソルテは家の中へと足を踏み入れました


「えっ開いてるの?アダンさん...不用心ね...。」


あきれ顔のリーニョも、ソルテの後に続きます


「アダンさーん!はいりますよー?って酒臭さっ!!」


「うわぁ...なにこれ...酷い有様ね...。」


そこらじゅうに散らばる酒瓶から発せられるアルコールの臭いが部屋を充満しており、思わず鼻をしかめる二人。部屋を見渡すとボロボロ家具に割れた食器や割れた空き瓶の破片がそこら中に散らばっています。そして、その中に倒れる一人の男性


「ってアダンさん!?大丈夫!?」


「ちょっと!!それアダンさん!?生きてるわよね...?」


倒れているアダンに駆け寄る二人。


「アダンさん!アダンさん!!起きろって!!」


頬をたたいたり、揺すったりして、必死に起こそうとする二人に対して、ようやく目覚めたアダン。上半身だけ起き上がり、大きく体を伸ばすと寝ぼけた様子で二人に


「ウーン...誰だぁ?サラちゃんかぁ?」


「何寝ぼけてんすか!俺だって!ソルテだよ!!」


「なんだぁ...ソルテにリーニョか...はぁぁああ...。」


期待外れだと言わんばかりに大きなため息をつくアダンに、あきれる二人


「で、どうしたの?この状況、女にでも捨てれたのか?」


「ウッ!!」


どうやら図星のようだったのか、手を胸に当て苦しそうに悶えるアダン

「女に振られて、お酒に溺れた結果が、この有様ってわけね...。」


「うぐぅっ...。」


さらに追い打ちを食らいよろめくアダン。


「お前ら...中々言うようになったじゃねえか。」


「そんな事よりアダンさん!!今日こそリアメカでの冒険談を聞かせてくれよ!!」


「そんな事って、お前...。」


「はいハーイ!!私も早く聞きたーい。」


自らの失恋をなんとも思ってくれない、二人の子供の言葉に、傷つきながらもなんとか立ち直ろうとするアダン。彼はすっと立ち上がると、また大きく体を伸ばし、家の中を見渡した、そして自分の頬をたたくと


「そうだな!!いつまでも昔の女に囚われるなんて俺の質じゃあねぇ!...よしっ、お前ら部屋の掃除を手伝え!!そしたら、話しを聞かせてやる!!」


その言葉を聞いた二人は顔を見合わせ大きく頷くと共に大きな歓声を上げ、目にも止まらぬ速さで部屋の掃除を始めるのであった。その姿を見つつアダンはポツリと一言


「顔でも洗うか...。」





それから暫くして、ようやく部屋の掃除を終えた少年と少女の二人


「ふぅ...やっと終わったー!!」


部屋の掃除を始めたのはいいものを、ふたを開けてみれば、次々と出てくるゴミや、よくわからない骨董品、挙句には女性の裸体が描かれている絵などが出てきて、思っていたより時間が食われたのである。

ソルテは、部屋の主を睨みつけて


「俺たちがこんなに頑張ってるのに、なにしてるんだよ!?」


ソルテの目線の先には、リーニョによって、バラバラに引き裂かれた女性の絵を集め、泣きべそをかきながら、無謀なパズルを行っているアダンが居た。


「ひでぇよ...こんなのあんまりだ...高かったんだぞ、これ...。」


「そんなの持ってるから、女の子に捨てられるんじゃないんですか?」


まるで、ゴミ屑でも見るような目でアダンを見つめながら、アダンの心の傷をえぐるリーニョ。


「とにかく!約束は守ってくれよ!!」


ソルテは、自分たちが終えた掃除の成果を見せびらかすように、部屋を指さした。色々な物が散乱し、なんともいえない異臭がしていた部屋も、ソルテと、リーニョの尽力のお蔭で、きちんと整理され、清潔感溢れる部屋へと変貌を遂げていた。


「おぉう、確かに綺麗になった。まるで俺の家とは思えねぇくらいだ。」


アダンは、無謀なパズルをやめ、立ち上がり部屋を改めて見渡す。その変貌ぶりから、少し驚いたようにそういった。


「ここまでやられたらぁ、約束を破るわけにはいかんだろう。よし!!いいだろう聞かしてやろう、俺の新大陸での冒険談を!!」


アダンの、その言葉を聞き、待ってましたと言わんばかりの二人。アダンは、二人に急かされながらも、ゆっくりと、自らが新大陸リアメカで体験してきた出来事を話し始めました。

アダンの、その軽快な口調と流暢な喋りから紡ぎだされる物語は、二人を物語の中に引き込み、大いに楽しませます。リアメカでの先住民との間で起こったいざこざを身振り手振りで解決した話や、仲間達と共に、ジャングルの奥地に入り、猛獣や魔物と戦う話なんかは、手汗かかずしてでは聞けません。


 そんなこんなで夕方までこのアダンの冒険談は続きました。アダンは、区切りのいいところで話を切り上げ、子供を帰そうとします。


「えー!もう、終わり!?もっと話を聞かせてよー!!」


ソルテは、まだ話を続けてほしいと駄々をこねます。


「駄目だ。これ以上遅いと親御さんが心配するだろう?」


それに対して、これ以上、話はしないと言い切るアダン


「そうよ、ソルテ。早く帰らないと暗くなっちゃうよ?」


「えー...だってさあ...。」


「だってじゃない!!帰るわよ!」


二人に促されたソルテは渋々といった感じで腰を上げ、帰る準備を始めました。


「まあ、そう拗ねるなソルテ。話ならまた明日いくらでもしてやる。」


アダンは拗ねるソルテをなだめるような口調でそう言いました。


「えっ!!本当!?なら明日は海の上で海賊と戦った話をしてくれよ!!」


その言葉を聞き、飛び上がって喜ぶソルテ。アダンは、それを、肯定しつつ笑います。


「そうよソルテ、アダンさんは女に捨てられて、明日からずぅっと暇なんだから。」


アダンの心にストレートパンチを食らわせ、家を出るソルテとリーニョの二人。

二人は肩を並べて、夕焼けで赤く染まった港街を歩いて帰りましたとさ。












このような駄文を、お読みになって下さり、本当にありがとうございますm(__)m

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