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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「ギャラは違っても」

「一回戦対策としては······」

「互いに微妙にズレてるわよね」


 向き合う涼と香澄。

 別の面子と違って練習でも道着をキチンと着ることが多い二人。

 手には試合で使うものと同じオープンフィンガーグローブを着け試合での格好とまったく変わらない。

 涼の相手は柔術家メルシナ。

 香澄の相手はキックボクサー春日彩。


「柔術家といっても香澄は純の付く日本発の柔術でメルシナはブラジリアンだし」

「同じ打撃系といっても涼は空手、春日彩はキックボクサー」


 ブツブツと言い合い構え合う。

 拳を握り左を前にした半身。

 胸の前に挙げた開手で正面。

 対照的な構えから······


「参考にならんな!!」

「そうねっ!!」


 二人は互いに距離を一気に詰める。

 涼の右の前蹴り。

 つま先を立てたその脚はまるで槍。

 その槍は香澄の道着を揺らして横腹をかすめる。

 至近距離。

 香澄は右手で涼の道着の胸元を掴む。


「くっ······!」


 ブンッ。


 繰り出される涼の右拳が顔面を襲うがそれを香澄は左手で受け止めた。


「しまった!?」


 焦る涼。


 グルンッ!!


 次の瞬間に涼の身体は一回転、背中から道場の床に叩きつけられる。

 陣内流柔術。


「んぶっ!!」


 全身が叩きつけられる衝撃。

 肺の空気が一気に噴き出す感覚。

 苦悶の顔を浮かべる涼。


「いただく!」


 倒した上から更に攻撃を仕掛けようとする香澄。

 だが下から涼の右足裏が香澄の腹に触れた瞬間、香澄の身体はいきなりロケットのように後方に吹き飛ぶ。

 突き放す蹴り。


「くううううっ!」


 ゴロゴロと身体を回転させた後、香澄が片膝を付いて構えると既に涼も同じ様に立ち上がっている。


「············止めとくか」

「ええ、怪我しちゃうわ、香澄と組手するとどうもこうなりがちよね?」

「ああ、そうだな、面白いし練習にもなるが危ない」


 構えを解く香澄と涼。

 時間にすると10秒少しの組手であったが······


「お見事です!」

「すげぇな、流石だわ」


 手を叩く倉木にオオとなる唯。

 時間は関係ない、互いの実力が解る組手であった。


「よぉし、じゃあ次はウチや! 相手は謎のファイターXやから誰でもいいわ」

「じゃあ、倉木がいきます! 宜しくお願いします、真依さん!」


 立ち上がる真依にテンション高く応じる倉木。

 互いにジャージ姿。


「じゃあ、いくでぇ!」

「了解しました!」


 綺麗な形の真依の飛び蹴りと倉木のドロップキックが空中で交錯した。





「お昼だよ〜!」

「お待たせ~」


 数時間の練習後。

 盆に載せた沢山のお握りを持った琴名と優太が道場にやって来る。


「ようやくか」

「そ、そうだな、もうバテバテだ」


 打撃なしで組手をしていた香澄と唯、ウエイトや打ち込み練習などをしていた他のメンバーも待っていた時間だ。


「コロッケと唐揚げ、卵焼き、わかめスープもあるからね〜」


 床の上にレジャーシートを敷き、その上にお握り、おかずの皿、わかめスープを入れた魔法瓶を置く琴名。


「美味そうや、こういうのがええんや」

「まぁね」


 タオルで手を拭きながら座る真依。

 他のメンバーも続いて練習の合間の昼食が始まる。

 お握りを食べながら琴名が呟く。


「いよいよ試合まで10日だね、ネットでも結構盛り上がってるよ」

「予想以上だそうですよ〜、ウチの興行でも頑張って、ってよく言われます」


 ニッコリ笑う倉木。

 涼が皿からお握りを取る。


「倉木さんの団体もお客さん増えたら良いわね、私もモデルのお仕事依頼増えたわよ、流石に試合までのは断ったけどね」

「あら、涼ったら勿体ないですわ、わたくしは幾つか受けちゃいましたわよ!?」


 唐揚げをつまみながらナディアが話に入ってくる。


「もったいないも何も私の本業は大学生で格闘家なの、そっちで結果を出せばモデルは別にやらなくてもいいんだから」

「まぁ、一日中練習してるわけじゃありませんし······いろんな服に着替えて撮られるのもいい気分転換にもなりますわよ、お金も貰えますしね」

「私もお金は欲しいけどアンタほどタフじゃないわ」


 ふぅと呆れたように息を吐く涼。 

 そういうタフネスさはナディアは國定道場女子の中でも群を抜いている。 


「でも優勝賞金があればやりたい放題や、半年は遊んで暮らせるで!」

「あの優勝賞金2000万なんで、もう少しは持たせてください」


 張り切る真依にツッコむ優太。

 琴名がそれに反応して裕太に振り向く。 


「そういえば賞金総額上がったんだよね? やっぱ盛り上がってるから?」

「ああ······スポンサーの神女かんなぎ財閥がもう少し出して良いという話になって準優勝、3位と1回戦突破のファイナルステージ参加者への賞金が上がったらしいよ」

「やったねぇ!」

「せやな、大会参加のギャラだけじゃウチの欲求は果たせへんからな」

「ぼくら予選組は招待選手よりもギャラ安いからね、仕方ないけど」


 喜び合う琴名と真依。

 大会賞金以外の出場ギャラはもちろん出るがそれは個人別。

 國定道場の選手の中でも招待選手である香澄、涼、ナディアよりも予選参加組である琴名や真依は安い。


「こちらが高いといっても男子に比べたらまだまだだけどね」

「ですわよねぇ〜」


 涼とナディアも頷き合う。

 優太は知っているが招待組の三人は一律同じ金額だ。


「でも、きっと赤垣ちゃんとかは出場ギャラだけでも高いんだよ? きっと」

「だろうなぁ、そういうのは仕方ねぇんじゃねぇか、金メダリストがいるのといないのとじゃ違うからな、なぁ優太?」


 琴名の推測に答えながら唯は優太に振る。

 運営に近い優太ならわかるだろ? 

 そんな様子だが実際には優太にもそんな事はまではわからない。


「オレは皆が貰ってる額しかわかんないな、でも杏子ちゃんにはかなりの金額が出たみたいだよ、多分優勝賞金に近いくらいの額だという噂もあるよ」


 優太が知ってる情報を素直に話す。

 人気絶頂金メダリストがプロ転向して総合格闘技挑戦のギャラだ。

 それくらいでも不思議ではない。

 いや、もしかしたらもっと高くてもおかしくないのだ。

 それを聞いた琴名は、


「金メダリストだもんねぇ······でもギャラは違ってもリングでは対等だよ! 試合はボクが勝って杏子ちゃんが更に賞金持っていくのを阻止してやるからね」


 むぅ~と頬を膨らませてから、手元のお握りを口の中に放り込んだ。


 

続く 

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