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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「勝てんな······こりゃ」

「帰りました、少し次の打ち合わせが入ってきて遅く······」


 知里が居間に顔を出したがそこには誰もいなかった。

 午後8時。

 各々が風呂に入ったり部屋でくつろいだしている者はいるだろうがこの時間に居間が無人なのは珍しい。


「記者会見とか、疲れちゃったのかな?」


 小首を傾げる知里だったが、廊下を箱を抱えた涼が歩いてきた。


「あ、チーちゃんおかえり〜、電車の私達の方がずいぶん早かったね?」

「いえ、知り合いのプロデューサーに偶然に会って、そこで軽い打ち合わせになっちゃったんです」

「そうなんだ? 何かと大変ね」

「いえいえ、それよりも皆さんは? 今日はネット記者会見とか慣れない事で少し疲れちゃいましたか?」


 いつもなら何人かは居間にいる皆がいない理由を聞くと、


「あ~、残念ながら私も含めてそんな繊細な連中じゃない、これから道場で夕食をパクつきながらこれからの対戦相手の試合動画を皆で観てヤイヤイやろうという話になったのよ、それでこれをね」


 涼は笑顔を見せながら持った箱を知里に見せたのだった。





「あっ、チーちゃんも帰ってきてたんだ!」


 涼と一緒に道場に現れた知里に琴名の表情が明るくなる。

 そこには國定道場の面々が揃っている、皆が会見の時の外行きの服ではなく普段着に着替えていた。


「ええ、チーちゃんも観たいって」


 涼は持っていた箱から何やら機器を取り出してセッテングを始める。


「あ、これ?」

「そう、プロジェクター、皆で見るなら壁に映した方が大きく見れるんじゃないかって話になってね、ちと寒いけど道場で、って話になったの、動画サイトの動画を映すだけだから簡単にできるとおもうけどね、ちょっと待っててね」

「それで道場ですか」


 知里は涼の説明に頷き琴名の隣に座る。

 面々の前にはピザやフライドポテト、ジュースなどが置かれている。


「よし、これでオッケーね」


 涼が繋げたスマホをいじるとプロジェクターから光が照らされて壁に動画サイトの画面が大きく映された。


「おお······これは凄いわ、今度大好きな巨乳ビデオもこうやって見たほうが迫力出るやん、是非やってみな優太くん」

「あのですねぇ」


 真依に肘で突かれて半目で返す優太。

 そんな間に画面には柔道の国際試合の様子が映し出される。


「はい、ちゅーもく! まずは決勝大会の第一試合から琴名ちゃんの相手の柔道の赤垣杏子ちゃんから、総合初挑戦だから柔道のオリンピックの試合をちょっと観てみようか! 結構大騒ぎになったヤツ」


 操作する涼が言うと、流されるのは赤垣杏子のオリンピックの試合。

 動画サイトでは準々決勝から決勝の3試合があり赤垣杏子はそれを全て違う技で一本勝ちしていた。


「まず引きが強い、48kg級と決まっているとはいえ14歳とは思えない引き込みの強さだな、歳上の選手も容赦なく引きずり回して相手の勢いを削いでる」

「同じ体重でもパワーが圧倒してますわ、結構な筋力をつけてるんじゃありません?」


 香澄とナディアが彼女を明らかに感心した様子を見せた。

 確かに試合の杏子は同じ階級の選手相手でも容赦なく引き込み、相手をぶん回すような柔道を見せている。


「道着を着るわけじゃないからそこまで引かれるとは思わないけど、力は相当にありそうだね、腕力じゃ無理かも」


 参ったなとばかりに琴名はショートボブカットの後ろ頭を掻く。

 同体重でもオリンピック参加選手達の歳上たちにパワーで勝るというのは驚異。


「琴名ちゃんはよんじゅう?」

「ボクはベスト44kg、相手の方がかなり重たいよ、身長は変わんないもん」


 涼が聞くと琴名が答える。


「相手も48kgで試合を合わせていた選手だからこの4kg差はパワーの差という形で出るかもね」


 心配する優太。

 格闘技では4kgの差は相当な差だ。

 琴名と杏子にはほとんど身長差は無いので単純に観れば杏子の方が有利。


「内股、外掛け、背負いか······それぞれの投げのバリエーションやタイミングと流石に金メダリストになるだけあって天才と言ってもいいな······力だけじゃなくて技もいい、まぁ当たり前だろうが······」


 三試合の勝ち方も鮮やかで多彩。

 そして華がある。

 香澄はそれぞれをブツブツ言いながら見終えると、


「勝てんな、こりゃ······」


 琴名に真顔で振り返った。


「か、香澄さん、ちょ、ちょっとぉ!?」

「こらこらこらこら! あんたねぇ!」


 あまりもの言いように崩れる琴名と思わずツッコむ涼。


「まぁまぁ、早合点するな」


 そんな二人に手の平を向けながら香澄は改めて説明を始めた。


「これは柔道をやったら逆さまになっても勝てん、という意味だ······確かに彼女は柔道の天才かもしれないが、総合では14歳どころか新生児なんだからな、そこをつけば私はまず琴名がやや有利だと思う」

「せやな」


 真依が紙皿の上のピザを口にパクリと運んだ。


「おそらく打撃戦じゃ琴名ちゃんや、早い時間にKO勝ちも可能性はある、間合い取ったりや組む必要なんてあらへん! わちゃわちゃの殴り合いで客が訳わからん間に試合を終えてまえや、殴りっこや」

「だよね、万が一でもそこで互角にやられたら逆にボクが困っちゃうんだけどねぇ、今度は相手と組まないでパンチばかりして、ってネットで叩かれそうだけど」


 真依の作戦に苦笑しつつ同意の琴名。

 柔道金メダリストと組み合いは避けるのは常識であり、相手が未経験で慣れない打撃戦というのは総合格闘家音羽琴名としての当然の対応となるのだろう。


「ネットはともかく、パンチのやり合いならボクシング部の同世代の男子ものしちゃう琴名ちゃんだもん、私は問題なしだと思う、相手が琴名ちゃんより打撃が上手い可能性はかなり低いわよ?」

「うん、オレもそう思うよ」


 以前に琴名が同じ学校のボクシング部の男子生徒達を何人か余裕でKO勝ちした事を思い出す涼と優太。

 女子総合格闘家としてもバランスの取れた琴名はストライカーとしてもグラップラーとしても十分な技術があり、そこに引き込めば金メダリストとはいえ大丈夫。

 それが國定道場の面々の出した結論。


「でも······これから見せるような意見が多いのも事実、琴名ちゃんには酷だけどね」


 涼が画面を切り替えると、動画サイトの格闘技観戦専門チャンネルが映る。

 元格闘雑誌記者を名乗る動画主が顔を映さずに語る動画。

 視聴登録者も多い。

 声から中年男性と思われる動画主は赤垣杏子がどれだけ格闘技の天才であるかを語り、琴名の予選会の動画を見せながら、


「赤垣杏子はホンモノの天才、きっと総合格闘にも対応できる、能力の半分も出せれば年齢の割に総合の上手さはあるが特とした武器のない音羽琴名相手に後れは取らないだろう、金メダリストを舐めるな」


 と、主張していた。

 年齢の割に総合の上手さはあるが特とした武器のない。 

 赤垣杏子の能力の半分も出せれば。

 動画主にかなり手酷く言われていた琴名だったが、


「うん······わかる、わかるよ、ボクには杏子ちゃんみたいな天才的な才能ないからな」


 と、壁に映し出された動画に笑顔すら浮かべていたのであった。


続く

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