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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「誰かしら食べられちゃうかもしれない」

 寒さ染みる道場内に朝日が差す。

 空手着に身を包んだ涼が両手に持ったウェイトを細かい呼吸で上下させる。

 道場の隅でゆっくりとした柔軟をするジャージ姿の香澄。

 サンドバックに軽く手足を当てる程度の打ち込みをするナディア。

 國定道場では良くある朝の練習風景であるが、全員を大型カメラを背負ったカメラマンが撮り続けるとのはいつもとは違った光景であった。



「朝っぱらからなぁ、カメラ嫌いやないけど朝の練習までしつこく撮られるのはウチも落ち着かんわ」

「スタッフ4人もいたし動画撮影なのにカメラも立派な大きいカメラだったねぇ!」

「そりゃ個人投稿と違って企業が有料放送するんやからな、性能ゴッツイの使うとんやろな〜」


 予選大会が予想外の盛り上がりを見せたらしく急に舞い込んできた運営からの練習風景の撮影依頼。

 もちろん断る理由もないのだが、思ったより早い時間からの取材撮影に真依と琴名は道場を出て街へのランニングに練習を切り替えたのである。


「香澄さん、カメラさんにキレたりして」

「大人しく撮ってる分にはカメラマンにはキレへんやろ? 後で取材を了承した優太くんにはキレそうやけど」

「うわぁ~、想像がついちゃうなぁ、優太さん可哀想」


 ジャージ姿でそんな事を話しながら走っていた2人は2台並んだ自販機の近くでスピードを緩めた。


「ほい」

「ありがと」


 真依からスポーツドリンクを投げられると琴名はそれを受け取り、並んで傍らのコンクリートの植え込みに腰を降ろす。

 國定道場のある山側から降りた街は都内に続く駅があるがそこまでの規模ではなく、早朝であることもあり人通りもない。

 たまに通り過ぎる車やバイクを見送りながらスポーツドリンクを飲む。


「琴名ちゃん、学校とかで大会の事声かけられたりする?」

「結構あるよ、優勝賞金高いからね! 優勝したら奢ってくれとか、真依さんは?」

「ウチもある、ウチの場合は賞金で早く借金かえせ、やけどな?」

「アハハハ」


 苦い顔をする真依に爆笑する琴名。


「明日······記者会見だね、ネット生放送らしいよ、ボク制服でいいのかな?」

「学生やから制服やろ、その方が絶対に受けもいいやろ? 活かせるうちは若さをアピールしていかんとな」

「そういうアピールは別にしなくても良いと思うけどなぁ、真依さんは?」

「ウチはナース服や、知り合いのコスプレショップから良いの借りたで」

「マジ?」

「マジや、こういうのは目立たんとな! チャイナ一辺倒も良くないわ、本戦もナース服で闘ったろかと思ってるくらいや」


 カラカラと笑う真依に琴名は苦笑。


「真依さんは凄いなぁ、ボクなんか試合でもないのに緊張しちゃってるよ」

「ウチもや······でもどんな状態でやっても降りかかってくる事は変わらんのや、だったら楽しんだ方がええやろ?」

「流石は真依さん······でも、ねぇ?」

「なんや? なんか心配あんの?」

「國定道場の誰かと当たったらどうする? メルシナとも話したんだけど一回戦は予選突破選手と招待選手をやらせるんじゃないか、って言ってたんだよ、16人の内に國定道場(ウチ)が5人は多いもんね、クジにせよ運営が決めるにせよ一回戦からもあり得るよね?」

「まぁ······ありうるわな、一回戦は無くっても互いに勝ち上がれば確率も上がる」


 真依は缶のスポーツドリンクをグッとあおると空を見上げた。


「でもな試合や、殺し合いや喧嘩やない、試合なら仲間とやったってエエやろ? 互いの練習の成果を試し合う試合なんやから、それに道場でもかなり本気の手合わせはしとるやろう?」

「······」

「せやない?」

「······だよね!」


 真依の言葉に数秒考えてから琴名は頷く。

 千鶴には対決もありうる中でも変な雰囲気は國定道場には無い、そう答えた琴名であったが対決の中で國定道場の仲間たちに影が差すかもしれないという不安は皆無ではなかったのだ。

 でも真依の言う通り試合。

 憎み合って殺し合いでも、事情があっての戦争でもない。

 そう言われれば、たまに胸を借りる組手とだって一緒だ。


「確かにウチも道場の仲間と本気になって闘うんわ気も進まんけど······でもなぁ琴名ちゃん?  今ならウチら相手に本気の本気で······やってみたい気持ちもあるやろ?」

「············」


 真依の意味ありげの視線。

 たろうか?

 琴名は自問する。 

 たまに組手をやってもこれまでは道場の他の面子には全く敵わない。

 胸を借りる。

 まさにそれだったのだが······


「だよね? 今だったら誰かしら食べれちゃうかもしれない」


 琴名はニンマリ笑いながらわざとらしい舌なめずりを真依にみせたのだった。



 真依と琴名がランニングを終えて道場への階段まで帰ってくると、正面から知里が降りてくる。

 レディーススーツにスカート、ヒールという格好は遊びに行くようには見えない。

 國定道場の面子の中では珍しい仕事着。


「おはよう! チーちゃん、今日は仕事?」

「おはようございます、明日の大会記者会見にプレゼンターとして出るのでプロデューサー達との打ち合わせです」


 琴名が手を挙げると知里は笑顔で答えた。


「チーちゃん、稼いどるなぁ〜」

「そんなことありませんよ、皆さんと私の関係があるから呼んで貰えてるんですよ」

「ええ娘や、ウチらの応援頼むで!」

「もちろんです、知里は國定道場の皆さんの応援団です、道場の皆さんにも声をかけてきましたけど、ランニングに出た2人にも会えて良かったです、頑張ってくださいね」


 知里の笑顔を向けられた真依と琴名は、


「感謝しとるで」

「ありがとね」


 と、手を振りながら階段を降りていく知里を見送る。

 階段を降りきってからも知里は一度2人に手を振るとバス停の方に歩いていき姿が見えなくなる。



「······ええ子や」

「でしょう?」

「聞けんかったわ」

「なにが?」

「ウチら同士だったらチーちゃんは誰を応援するの、って」


 何とも言えない顔をした真依に琴名は良い返しを思いつかず黙ってしまうのだった。


続く

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