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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「こう見えても始まってるんですのよ?」

「なになに?」


 予選会から勝ち抜いてきた琴名には決勝大会からの出場選手の情報はもちろん興味のあるものだろう。

 それは優太としても同じだ。


「招待選手の枠は8枠、國定道場(ウチ)の3人とさっき唯さんの話していた赤垣杏子ちゃんは確定、あと琴名ちゃんの言う愛日ちゃんがいるとして······残りは3枠だよね?」

「そうそう、そのうち2人は運営が海外からの選手を連れてくるらしい、残る1人はどうやら国内アマレスの選手から選んだらしいんだ、推薦選手にするからにはその筋では名の売れてる選手だろうけどな」


 優太に答える唯。

 海外選手については考えてもわからないだろう。

 男子ならともかく女子のMMAは世界的にはマイナーであるから知りようもない。


「国外勢2人、アマレス1人か······ボクもわかんないなぁ」

「アタシもわかんないわよ」

「私も国内のキックの選手なら少しはわかるんですけど、すいません」


 琴名とメルシナが首を傾げ、百合乃も申し訳無さげにコップのウーロン茶を飲む。


「まぁ、わかんないのも仕方ないね······色々と教えてくれてありがとね唯さん」

「いやいや、Pのヤツを締め上げただけだからな」


 琴名がコップにコーラを注ぎながら礼を言うと唯はそれを受けながら笑う。


「招待選手と予選突破選手が8人同士だからね、1回戦の組み合わせはもしかしたらそれ同士という可能性があるわね」

「そうか、それはあるかもね」


 顎に手を当てるメルシナに優太は頷く。

 特に根拠はないが運営としてはそういう組み方をする可能性はある。


「ならボクは愛日さんとのリベンジマッチもあり得るわけだ! そうなれば1回戦がボクの山場だよ!」

「アタシも狙いの赤垣杏子がくれば大ラッキーよ! 絶対に仕留める!」


 それぞれのターゲットに意気が上がる少女2人を織田百合乃はチビチビとウーロン茶を口にしながら交互に目を移していた。



 2時間ほどの歓談で慰労会も終わり、優太が軽い挨拶をして解散となった。

 國定道場の面々は道場の階段下まで慰労会参加者達を見送る。

 

「じゃあな!」

「ご足労ありがとうございました」


 バイクに跨り指を立てる唯に知里が丁寧に頭を下げる。

 離れた所では琴名が友人の千鶴とメルシナを見送り、


「では、また決勝の時に会いましょう! 高杉さん、優太さん!」

「ええ······じ、じゃあね」

「いやいや、その前に決勝大会の選手を集めた会見がありますよ、忘れないで出てくださいね、出ないと怒られますよ!」


 近くのバス停に向かいながら手を振るボケか本気かわからない倉木に優太と彼女になぜか気に入られ絡まれた涼は揃って苦笑しながら手を振り返す。



「よぅし、終わったわね······さて、道場の片付けいきましょう!」


 慰参加者達の姿が見えなくなると涼は階段を登り始め、國定道場の面々も続く。


「しかし、お前もお人好しだな、負けた人間まで呼んでの慰労会とか」


 優太に並んで階段を登りながら香澄がため息をつくが、


「あら? わたくしはこういうの嫌いじゃありませんわよ!? 今回は優太さんのナイスアイデアと思いますわ」


 後ろを歩いていたナディアが答えた。

 香澄が振り返る。


「ナディア? 優太のナイスアイデアと褒めるからには何か収穫があったのか?」

「まぁ······今回はわたくしは何となく給仕代わりに席を回っていたのですけど、色々な方から色々と話が聞けましたわよ?」

「例えば?」

「例えば当日のリザーブマッチは予選会からの選手が再起用されるとか、来週の決勝大会記者会見では一部のマッチメイクしか発表されないとか」

「へぇ~」


 自分も席ごとに回っていたが聞けなかった話をナディアが同じような事をして拾ってくれていた事に優太は感心するが、


「そんなの大した話じゃない、そんな事を知っていても勝負には関係ないさ」


 あっさり香澄はそれを一蹴する。

 それにナディアもすぐ反応した。


「その話を活かす活かさないは本人次第ですわよ? リザーブマッチの勝者と対戦する可能性もありますわよ? リザーバーに全くの知らない相手が出てくるかそうでないかは情報として必要でしょう?」

「そうだね、それにマッチメイク発表時期はこっちの調整にも関わるしね、ナディアちゃんの聞いた話は大切な事だと思うよ?」

「············」


 ナディアが反論し優太もそれに同意すると香澄は口を噤んで優太を睨んできた。

 優太がナディアに助け舟を出したようにとっての圧だろうか。

 切れ長の瞳、薄唇の日本美人だけにそういう表情には独特の迫力がある。


「あ······まぁ、収穫云々よりも今回の予選であっても大会を一緒に作った仲間だとオレは思うよ? そりゃ互いに試合で闘いもするだろうけど女子格闘技界を盛り上げたい気持ちは一緒だろ?」


 予想外の香澄の圧に圧されながらも優太がそう口にすると、


「そう口で言ったところで相手を倒してのし上がらなければ盛り上げた世界で己の地位は築けないけどな、真剣試合というものはそういう面もあるんだぞ!?」


 呟くように答えた香澄は脚を早めて先に歩いていた涼まで抜いて道場への階段を登っていく。


「!? 何かあったの?」


 いきなり香澄に横を抜いていかれた涼が振り返ってくるが、


「大した事じゃありませんわ、ちょこっと2人で弄ったら怒っちゃっただけですわ」


 優太の横に並んてきたナディアは涼にニッコリと笑う。


「なんなのよ?」


 話を聞いていなかった涼は意味がわからないとばかりに再び階段を登り始める。

 優太もそれに続こうとするが······グイッと手を引かれてそれを止められる。


「ナディアちゃん!?」

「少しだけ待ってくださいまし」

「!?」


 低くした声。

 数秒して涼も香澄も離れると······


「こう見えても始まってるんですのよ? いざという時、優太さんは誰に助け舟を出してくださいますの?」


 ナディアは優太に微笑んだ。



続く

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