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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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予選慰労会しよう!其の三

「さてと······」


 鍋パーティーでの道場主としての挨拶回りの最後に着いた席は琴名と千鶴、知里、安東唯にメルシナ、そして織田百合乃のいる席であった。


「お、来やがったな道場主」

「こんにちわ唯さん、今回はご苦労さまでした」


 機嫌の良さそうな笑顔を見せた唯の隣に優太は座り、彼女のコップにコーラーを注ぐ。


「ありがとよ」

「織田さんも始めまして、ご苦労さまでした」

「始めまして道場主さん、ありがとうございます」


 唯に続き百合乃を労う優太。

 かなりの歳上の彼女であるが優太に対する笑顔は若々しい。

 

「琴名ちゃんも初めての公式な試合だから緊張しただろうけどご苦労さま」

「えへへ、ありがと」


 優太のコーラの酌を受けながら照れくさそうな琴名。


「えっ、琴名さんは公式戦初めてだったんですか? それなのにあんな冷静な試合運びを? すごいですね」


 驚く百合乃。


「アタシはその冷静な試合運びにまんまとやられちまったんだよな」

「そんな冷静じゃなかったよ、前に唯さんとその道場でスパーした事が無かったらああいう試合を選んだかはわからないよ」


 唯が苦笑すると琴名は手をパタパタと振って答える。


「私が唯さんに助けてもらって初めて道場に来られた時でしたね」

「そうそう、その時にやったスパーリング」


 知里に相槌を打つ琴名。

 以前、タクシーで帰宅中の知里がガラの悪いライダー達に絡まれた時に唯が彼女を助けて道場まで送ってきてくれた事があった。

 その時、歓迎の夕食からスパーリングという手応えのある相手に飢えた國定道場の女子たちに請われてしてスパーリング。

 そこで琴名と唯は一分間の手合わせをしている。

 琴名が唯にタックルを決め腕を取り極めようとした時点で時間切れとなったのだが、形勢は明らかに琴名の有利での終了だった。

 

「そうだよなぁ、あの時に倒されたら手も足も出ないのがバレちゃってんだよな、あれから総合の練習もしたんだけど琴名レベルのタックルや寝技から逃げられるようにはアタシはなれなかった、そういう事だな」


 胡座をかき両手を後ろについてため息をつく唯。

 彼女の言う通りだ。

 どう見てもストライカー系である唯はグラップリングの出来る琴名からは寝技で攻められる。

 そこを上手く逃れるか、寝かされても凌げるレベルのテクニックを身に着けなければ対等に闘うのは難しいのだ。

 純粋な体力や筋力、精神力では琴名を上回っているかもしれない唯でも闘いの組み合わせ次第ではまさに手も足も出ない完敗を喫してしまう。

 

「それがまさに総合をやる時の難しさだよ、何を要求されるかわかんない怖さ」

「だな······アタシには今回は寝技に対する経験と対応力が無さすぎたんだな」


 メルシナのニヤつきにも唯は参ったと言った風に息をつく。

 しんみりとしかける場。

 そこで何かを思い出したように琴名が顔を上げた。


「あっ、そういえば唯さんは色々と話を持ってきたんでしょ? 早速それを聞かせてよ?」

「そうだった、そうだった、Pのヤツを吐かせて色々と情報を仕入れてきたんだった」


 そうだった、と唯も手を叩く。


「じゃあ、まずはさ私の目指す相手の雑賀愛日さんの話を聞かせてよ? 決勝戦に向けて練習してるんでしょ?」

「まなび?」


 首を傾げる唯に琴名は熱っぽく身を乗り出す。


「そうだよ? 対抗戦で私に勝った愛日さんだよ!? 同じグループいるんだから情報無いとは言わせないよ!?」


 雑賀愛日。

 唯たちと同じくドリームアイドルのメンバーで國定道場との対抗戦では唯一の文句なしの白星を上げたアイドルだ。

 琴葉相手にほぼ何もさせず、顔面を蹴りつけるという一方的な勝利をした。

 対抗戦の勝者では勝ち方に疑問符がついた真依以外は決勝大会からの参加を認められたので立場的には涼やナディア、香澄と同じくの予選免除枠である筈。



「まなびね、まなび······でもアイツ、今のところアイドル活動のスケジュール立て込んでるみたいだし練習してないっぽいぜ!? ホントに正直な話」

「そうなの?」

「元々、グループの中では人気も常時トップテンランキング入ってるくらいだしな、対抗戦からアタシも会ってないから何もわかんないな」

「へぇ〜、そうなんだ······でも絶対に逃さないからね! 決勝大会では対決できる機会があればこっちから行く」


 唯のハッキリしない返事に不満げながらも琴名は右手をバシッと左手で叩く。

 敗れた琴名としては何としても捉えたいリベンジターゲットなのだろう。


「対抗戦見てましたけど、あの人はスッゴイ強いですよね、カワイイのにえげつないというか」

「へぇ、琴名に勝った!? そんなのがいるんだ、私は楽しみになるわ」

 

 百合乃は首をプルプルと振り、対抗戦を知らない様子のメルシナは不敵な顔を浮かべた。


「愛日の事はよくわかんないけど出場確実なのがいるぜ、対抗戦で解説やってた柔道の赤垣杏子(あかがききょうこ)が決まったよ、本人たって希望らしい、大会のプロデューサー達もネット視聴者数稼げそうと大喜びでOK、これは明日にでも情報が出て発表されるよ」

「赤垣さんですか? オリンピック金メダリストが?」


 唯の口にした情報に驚きの声を出したのは知里。

 対抗戦では知里と一緒に解説をしていた柔道48kg級オリンピック金メダリスト。

 それも最新最年少14歳という天才少女の参戦は決勝大会を盛り上げる起爆剤にもなりそうだ。


「まぁ」

「へぇ〜、すごいねぇ」

「そりゃいいや! 柔道金メダリストは格好の獲物! 絶対に私がやるっ! 対戦組んでくんないかしら?」


 百合乃は驚き、琴名は感心、メルシナは喜びと興奮、そして対戦希望の様子。

 

「メルシナは同じ柔道の銀メダリストのアラカワさんを倒してるじゃん、それも階級だってかなり上の、赤垣杏子ちゃんは48kg級だよ?」

「違う、違う!」


 琴名が不思議がるがメルシナはわかってないなぁと手を振る。


「アラカワは確かに強かったけど銀メダリストだし獲ったのは結構前で今は柔道家としては引退していた状態、それと比べて赤垣杏子は金メダリストで更に最新の現役! 狙う価値は全然違う!」


 現役金メダリスト。

 それも金色のメダルと銀色のメダルでは価値が大きく違うと力説するメルシナ。

 柔術というプロの世界でやっている彼女からすれば、アマ柔道の頂点である金メダリストは魅力的な獲物なのだろう。


「でもどうだろ? 金と銀で更に現役と引退したの違いはあってもアラカワさんは赤垣杏子ちゃんよりも相当サイズが大きいからね、正直相手としては······」

「そんなの関係ない! 現役金メダリストというのが考えられる限りの獲物なの、これで決勝大会はアタシ的には相当に楽しみになってきたわ!」


 琴名の率直な疑問にもテンションを上がらせるメルシナ。


「予選で銀メダリストのアラカワさんを倒しているから運営でもメルシナちゃん対赤垣杏子ちゃんは考えてるんじゃないかな?」


 柔道対柔術。

 10代の少女同士。

 それも予選で柔道の銀メダリストを下して来ている。

 メルシナ対赤垣杏子は盛り上がる要素があると考えた優太がそう言うと、


「それね、それそれ! 是非とも決勝大会一回戦で私と赤垣杏子は組んで欲しいわ! 赤垣杏子の参戦が決まったらカード発表までSNSで私も煽っていかないとね」


 メルシナは優太をビシッと指差して不敵に笑う。

 

「ほどほどにね、ネットは色々と怖いからね?  あまり炎上が過ぎると大会に良からぬ影響が出かけないからさ」


 盛り上がるメルシナに優太は苦笑しながら告げた。

 

「喜んでくれて嬉しいよ、でもまだ格闘マスコミには発表されてないから口は滑らせないでな? それで他にも運営の噂程度で良いなら決勝からの参加選手を聞いてるぜ」


 その様子に満足げにしながら唯はまだまだ話はあるよ、とばかりに言いながらグイッとコップのコーラを飲み干すのであった。



続く

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