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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「冗談じゃないわよ」

「じゃあ、ささやかながら新しい管理人さん佐藤優太君を歓迎する会を開きます、前管理人をしてくれていたお爺ちゃんの喪中ですが、可愛いお孫さんの新しい門出なので、少しだけ許してもらいたいです」


 薄型テレビと脚の短い木製テーブルが置かれた居間。

 涼の音頭と残る三人の拍手、上座にあぐらをかいた優太は少し照れてしまう。

 テーブルの上に並ぶのはレモンチーズケーキとフライドチキン、それだけでは足りないだろうと琴名がコーンスープを付けてくれた。

 女の子達は涼と琴名は脚を崩し、香澄は正座、ナディアはあぐら。

 座り方一つでも皆の性格が出ている。



「じゃあ……ようこそ」



 涼がコーラの入ったコップを挙げた、乾杯と言わなかったのは祖父の事もあるからだろう。


「ようこそ!」

「宜しくお願いします」


 他の娘達もコップを挙げ、優太もはにかみながら烏龍茶のコップを挙げての歓迎会が始まる。


「ここは格闘技をやる女の子をお爺ちゃんが集めた道場なんだけど、優太さんは格闘技には興味ある?」

「えっと……整体を習っていた時に元柔道をしてた人に話を聞いたくらいだね、あとはテレビでやってるのを観てたよ」


 場を作ろうと、琴名が優太に話題を振ってくれたのだが、あまり気の効いた答えは出ない。

 本当にテレビでたまに観る以外は、格闘技には触れて来なかったのだ。

 でも全く興味がなかった訳でないし、幾らか彼女達に聞いてみたい事もあるので……


「でもテレビでも観てはいたから興味はあるんだ、みんなの各々のバックボーンというか基礎になってる格闘技を教えてくれるかな?」


 と、自分から質問してみる。


「アタシは空手、小さな頃からフルコンタクトの空手道場に通っていたんだけど、今はオープンフィンガーをつけての総合空手の方かな」

「合気柔術だ、家が昔から道場をやっている」


 拳をグッと握って見せてくる涼。

 フライドチキンを両手で持ち、ハムハムしながら答える香澄。


「バックボーンを問われたら、わたくしはストリートファイトですわ、ボクシングを少しだけ習いましたけど、やっぱりそっちですわ」

「ボクも答えるの? 一人前じゃないんだけどな?」


「誰だって初めはそうだろ? 迷惑じゃなかったら教えてくれない?」


 ナディアの次に答えるのを躊躇した琴名に優太が頷くと、


「ボクは総合、立って良し寝て良し、打って良し極めて良しのファイターになりたい」


 彼女は両手で拳を構え、フンと意気込む。 

 空手に合気道、ストリートファイトに総合。

 優太は格闘技はテレビで観ていた程度で詳しくはないが、どれも何となくは知っている。


「試合とかはあるの? 男子はプロの格闘家とかがいるのは知ってるけど、女子は知らないんだ」

「たまにある、たまにな」

「ギャラも至極やっすいですわ」


 相変わらずフライドチキンを頬張る香澄とナディアの答えには、何処か険を感じる。

 ほんのたまに安いギャラで試合がある、という解釈で優太はへぇ~と相づちを打っておく。


「あたし達が産まれた頃が空前の格闘技ブームだったのよねぇ~!」

「日本でもナゴヤドーム、福岡ドーム、東京ドームの三大ドーム大会とかもあったみたいですね、あ~体感してみたかった!」

「紅白歌合戦より一瞬だけ視聴率が……」

「お正月は格闘技祭ですわ!」


 涼が悔しそうにコーラをグイッと飲み干すと、四人は十数年前のブーム真っ只中の格闘技について語り始めたが、これは優太にはチンプンカンプン。

 とにかく流行っていたのはわかるが、優太よりも年少の彼女等は体験していないのにも関わらずまるで懐かしそうに語る。


「でもさ……みんな美人だから、格闘家として露出が増えたら、人気が出ると思うけどな」

「露出だと! 私に脱げと……」

「違う、違う、優太さんが言ったのは脱ぐ露出じゃなく、メディアとかへのアピールだよね」


 お世辞のつもりではない優太の言葉に、過剰に反応する香澄、それに琴名はツッコミを入れてから、涼とナディアに視線を向ける。


「でも涼ちゃんやナディアちゃんは露出してるよ、モデルで雑誌にも載ってるから」

「軽薄だ……水着や就いてもいない職業の制服を着て、金を受けとるなど!」

「るっさいなぁ、モデル兼業でもしないと家賃どころか大学の学費も危ないんだから!」

「ですわぁ、実家からのお金がドカンと入金される方とは違いますわよ、わたくしも涼の紹介でやってますわ」

「ナディアちゃんや涼はモデルしてるんだ?」

「まぁね、そんな大それたのじゃないわよ、雑誌にちょこっと載るだけ、あくまでも本業は大学生で、格闘家」


 話題が弾む四人。

 アルバイトをしているとは聞いていたが内容がモデルとは知らなかった優太に涼が恥ずかしそうに答える。

 へぇ~そうなんだ、と答えながらも、格闘家と言われるよりはモデルと言われた方がずっと説得力はある容姿だけに、今度出てる雑誌を見せてもらおうと思う優太だった。



         ***



「食べ終わったし、そろそろ風呂だな、私は失礼するぞ」

「そうですわね、わたくしも入りますわ」

「ナディア、今日は私が先だぞ」

「でしたっけ?」

「しらばっくれるな」


 机の上の食べ物が無くなって二十分ほど話していたが、香澄が腰を上げるとナディアもそれに続いていく。


「香澄ちゃんとナディアちゃんはお風呂は二人で入るのかい?」

「入れなくもないよ、入らないと思うけど」

「え? だって二人で……」

「あっ……そう言えば、言ってなかったな」


 優太に答えながら立ち上がり、涼はセミロングの髪を掻き上げる。

 何気ない仕草だが可愛らしい。


「じゃあ、さぁ……あの二人が入り終わったら次は私と優太くんが入ろっか? お風呂」

「えっ?」


 いきなり。

 一瞬、何を言われたのか理解できず優太は復唱を求めてしまう。 


「だからお風呂に行こうか、二人で」



 ウインク。



「な、な、な……なに言ってんだよ? 変な冗談は言わないでくれよ」


 冗談だとは判っていても、涼のようなルックスの女の子にそういう言葉を言われてしまうと、狼狽えてしまう。

 それでも一応は年上の意地で、何とかそれを苦笑で流す優太だったが……


「冗談じゃないわよ、ホントに行くわよ」

「え、え、え?」


 ニッコリと涼に微笑まれてしまい、次の態度の取りようが無くなってしまうのだった。



                    続く


 

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