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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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予選慰労会しよう!其の二

「宜しくお願いします、未成年もいますからアルコールは控えていただきますけど、ノンアルコールの飲み物も用意したので楽しんでいかれてくださいね」


 登場主として優太が挨拶に回った初めの席には涼とプロレスラーの倉木藍とデストロイヤー森、そしてアイドルドリームの河内いずみと剣もとかの計5人が座っていた。


「あっ、優太挨拶回りご苦労さま、アタシも後で回るからね」

「いやいや料理はかなり出揃ってるし、飲み物はクーラーボックスで冷えてるの置いてあるのを持ってって方式だから手間はそんなにないから涼もゆっくり喋って飲んでなよ、ちょっと失礼」


 気を遣う涼に首を振ると優太は涼の隣に座って、


「河内さんや剣さん、倉木さん······そしてセコンドの森さんもご苦労さまでした」

「ありがとうございます!」


 全員と軽く飲み物の入ったコップを合わせて挨拶する。


「そうは言っても······今も話してたんですけど私やもとかちゃんは敗退組ですけどね」


 いずみやもとかはバツの悪そうに苦笑するが、


「いやいや、大会や興行は怪我なく元気で出てきてくれる選手全員が大切なのよ?」


 デストロイヤー森はそんな2人を労い、倉木も「そうです、そうです」と、モクモクと何かを食べながら頷く。


「ありがとうございます」


 歳上の森と倉木に素直に礼をする二人。

 何度も話した中ではないが礼儀のちゃんとした女の子達の様に思えた優太が訊く。


「そういえば、もとかちゃんは剣道の九州チャンピオンだったんだよね? ほら香澄ちゃんとやった時はわからなかったけど、格闘技のトレーニングの基本は何を習ってやったの?」


 当日会場にはいたが予選のトーナメントは人数が多くて立て込んでいたのでとても道場以外の選手の試合を観ていなかったのだ。

 もとかは黒髪ショートカットで体格も小さいの可愛らしい少女であり、アイドル活動でも小さいをイジられるキャラ。

 しかし剣道ではレベルの高い九州でチャンピオンクラスだったという逸材である。

 ドリームアイドル格闘技部の一人として、國定道場との対抗戦では香澄と試合をしたが香澄のパフォーマンスで竹刀の使用が認められるという試合になってしまい、優太は彼女の格闘技者としての腕は見ていないのだ。


「いえ、ワタシもいずみちゃんが打倒高杉さんを目指すようにあれから香澄さんとまた闘えたらと目指してボクシングを練習して挑んだんですが予選の一回戦で敢え無くやられてしまいました」

「ボクシングかぁ、でも練習期間も限られていたんだろうね」

「あはは······お恥ずかしい、柔道の経験者の人に寝かされたら何もできなかったです」


 優太がペットボトルのジュースを酌すると剣もとかは恥ずかしそうにそれを受ける。


「でもさ、今回は時間もなかったし苦しかったかもしんないけど、もとかちゃんは剣道では間違いない実力があるから格闘技のセンスはあると思うな、芸能も忙しいだろうけど続けてくれれば私は嬉しいな」


 そこに涼が会話に加わる。


「高杉さん······」

「それはいずみちゃんにも言えるんだけどね」


 もとかの視線に頷き、涼はいずみにも顔を向ける。

 すでに2度対戦して圧倒している涼の視線に真摯なそれを返すいずみ。


「2人みたいなアイドル活動でも有名な女の子が格闘技に興味を持ってくれて、更に参加してくれるのは盛り上がりが欲しかった格闘技にいた私達からすると願ったり叶ったりなのよ、格闘技って上手くいかない事だらけでイヤになる時もあるけど、試合で負けてくれ以外の相談は乗るから格闘技続けてくれると嬉しいな、というわけよ、それにね······私は決して2人が格闘技に向いてないなとは思わないもん」


 涼の言葉には先輩格闘家としての優しさがあった。


「高杉さん······」 


 思わずアイドル2人はジッと涼を見つめる。

 何とも言えない雰囲気になりかけた席だったが、


「流石、流石ですっ!」


 いきやり涼を後ろからギュッと抱きしめたのは倉木であった。


「な、な、なん、なに?」

「いえ、素敵です! 仲間や自分の首を狙う後輩にも優しい声をかけてあげられる高杉さんの器の大きさに私は感激しましたぁ〜、私も高杉さん好きになりましたぁ」


 抱きついた倉木はそのままの勢いで涼を押し倒してしまう。


「こ、こらこら、なんでそうなるのよ!? アンタ、下手すりゃ私と決勝トーナメントで闘うかもしれないのよ!?」

「構いませぇん、私も負けてくださいのブック以外は呑みます! どうか倉木藍と絡んでください、おねがいします!」

「か、絡むって! 私は······」


 涼と倉木がドッタンバッタン始めてしまう。

 まるで酒席の酔っ払いが女の子に絡むが如く。


「ああいうやつなんだよ、藍はアルコールのない席でも酔えるやつなんだ」

「そ、そうなんですか、では」


 それを見つめながらの森のため息に優太はそれに巻き込まれないうちにとその席を離れた。




 次に優太が回った席には香澄と真依、そして真依と予選決勝を闘った風雲玲香とその関係者らしき中年男性二人がいた。


「優太くぅん! ホストの挨拶回りご苦労さん、立派な大人もいるノンアルコールで我慢させてもらってるでぇ」

「当たり前です、ようこそ! ゆっくりしていってください」


 優太は真依にジト目をすると、玲香の側にいた彼女のコーチやセコンドらしい中年男性達に挨拶してから、玲香にコーラのペットボトルを向けた。


「ご苦労さまでした、真依さんとの決勝戦、決して長くない闘いでしたが見応えありましたよ、玲香さんの鋭い攻撃にはこっちのセコンドは正直に焦りましたよ!?」

「ありがとうございます、でも見応えなんてそんな事ありませんよ、私はあの決勝戦で30秒足らずしかリングに立てていなかったんですよ!? たったの30秒でなす術なくKOされたんです」


 コップを向けてくれつつも玲香の反応は丁寧だが何処か大仰で落ち着きをやや乱した様子。


「タイムは関係ないさ、正直あの試合は見た目ほどの真依さんの圧倒じゃない」


 そこに優太の代弁をしてくれたのは傍らの香澄。


「私は試合をモニターで観ただけだからその場の空気までは感じ取った訳でないが、あの試合は真依さんには全く余裕なんてなかっただろう」

「その通りや、アンタも結果を受けた身やから冷静に受け止められきれんのはわかるけど、ウチは冷や汗もんやったわ」


 試合をした当人の真依も彼女にウインクしながら香澄の意見に同意を示す。

 ホストとしての謙遜や遠慮ではなかった。

 実際に試合の場で真依は当日の調子の悪さもあったのだがかなりの焦りを初めて見せていたのだ。


「そういう事です、あの日は琴名ちゃんの試合も含めて真依さんの決勝戦が道場主として観てて一番危ないな、と思った試合だったんですよ」

「そうですか······気を遣って戴いて申し訳ありません、でもわたくしの闘いはだらしの無いものだったのは変わらないのです」


 落ち着きを取り戻しつつも悔しさは滲ませ、改めてコーラの酌を受けそれを口にする。

 いくら闘い振りが良くても敗北という結果は格闘技者には辛いものなのだろう。

 それは変わらない。 



「で? 話は変わるけど風雲ちゃんは若いんやろ? 普段は何やって飯食ってんの?  格闘技だけじゃ食えんやろ? そんだけ可愛かったら······まさか風俗やっとる?」


 そんな雰囲気をブチ壊したのは彼女に勝利した張本人。


 ブーーーッ!


 真依にしてはジャブに過ぎない下ネタ攻めに口にしたコーラを吹く玲香。

 数秒間ゲホゲホとした後で、


「な、なにを言ってるんですかっ!? そんな事するわけないじゃないですか! 私はまだ大学生ですがこちらのコーチ達のジムでプロ契約してます、色々足りない分はバイトなどをしてフォローしてます! ふ、風俗なんてするわけありませんっ!」

「アハハハ、すまんすまん、そんだけ可愛けりゃ指名もたくさん貰えるかと思ってなぁ〜」


 思わず怒鳴り返す玲香にケラケラとする真依。


「謝ります、こういう人なんです、この人は拳法の腕や才能はともかく人間としては下劣な部類に入りますのでたまにこういう発言をしてしまうのです」


 玲香に平然と告げながらオレンジジュースを口にする香澄。


「と、ともかく······き、気にしないでくださいね、それにしてもプロ契約ってすごいですね」


 真依の失礼な言葉に怒り出さないかと心配する優太が彼女のセコンドとコーチを振り返る。

 しかし彼らは怒るというよりも憔悴していた。


「ええ、彼女は実家も裕福で大学もレベルの高い所なのですが、テコンドーを元にした格闘技のセンスに我々が惚れ込んでスカウトしたんです、格闘技をお父様に反対されているらしいのですが彼女は親からの支援がないならアルバイトをしてでも! と申し出てくれたので我々も実力ももちろん玲香さんに報いるつもりでプロ契約を申し出ました」


 中年コーチは優太の酌でノンアルコールビールを受ける。


「それだけに······今回はベスト8なら確実だろうと、思っていたのですが真依選手のような実力者が予選からいるとは」

「も、申し訳ありません! 私が足りないばかりに! ああっ私が足りないばかりに!」


 悔しげに頭を垂れるコーチに謝りだす玲香。

 各選手には様々な事情があるし試合に賭ける物がある。

 それが解らない優太ではないが玲香のそれは少し想像と違った。

 彼女に香澄にも似た古風な日本女子の凛としたイメージを持っていたのだが、どちらかというとその態度は悲劇のヒロイン。


「まぁまぁ······今回は残念でしたけど玲香さんの実力は運営にも伝わってますよ、では!」


 ここは······変に深入りするよりも彼女のようなタイプで遊べる真依や平然としてられる香澄に任せた方がいい。

 優太はその判断が賢明だと思い素早く席を立つのだった。


続く

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