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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「私が強いんだけどね」

《メリー・アラカワ対メルシナ・コンロット! 柔道対柔術! しかし体格差は歴然です!》


 見合う二人。

 観客はいないが周囲の関係者の視線がリング上に注がれる。


「オバサン、宜しくね」

「優しく投げてあげるわ」


 不敵な笑みを浮かべるメルシナにアラカワも口元を緩める。

 互いの道着に裸足。

 格好は似てはいるが150cm半ばのメルシナと180cmのアラカワでは見間違う筈もない。


「ファイト!!」


 レフェリーが手を上げると互いのサイドから向かい合う両者。

 メルシナはボクシングポーズ。

 アラカワは両手を広げた構えだ。


「ボクシングポーズ? 撃ち合うのかな?」

「どやろな? 体格差からいって技術に相当な差がないと撃ち合いは自爆と同じやで」

「うん」


 真依の返答に頷く優太。

 撃ち合いは体重がある方が有利。

 それは優太でも解るような格闘技の常識だ。

 メルシナとアラカワには30キロ以上の体重差があり打撃戦の選択は基本的に論外。

 だが······


《打ち合いだぁ!》


 叫ぶ実況。

 メルシナは優速を利用してアラカワの胸元に飛び込み腹や顔面を狙いパンチを繰り出したのだ。


「この娘······本気!?」


 メルシナのまさかの打撃戦の選択に焦るアラカワ。

 体格とリーチの差からして多少の打撃経験では到底埋まらない。


《打撃戦を仕掛けるメルシナ・コンロット! さぁ、柔道メダリストはどうする?》


『もちろん!』


 嗤うアラカワ。


 バシィィィィンッッ!


「ぐっ!?」


 前進が思わず止まってしまう程の衝撃にメルシナは顔を歪めた。


 ローキック。


 避けられなかった。

 右ももに感じる痺れるような感覚。

 頭に巻かれたバンダナが額に流れた嫌な汗を吸った。


《速い! アワカワのローキック! 打撃系は素人の筈のアラカワの強烈で速いローがメルシナの前進を一発で止めた!》


「凄い音! アラカワ選手は打撃の練習を充分にしたのかな」

「いや、アレは普段からのヤツや」


 優太の疑問に真依は首を振る。


「え? だって柔道じゃ······」

「いやいや、柔道の重量級の脚払いは極端に言えば前進を阻むローキックやで、掴みもしてない状態から相手の脚をバンバンや、どうみても蹴っとる選手もおるよ」

「そ、そうなの?」

「まぁな、それにアラカワくらいのレベルならそれを完全にローキックに持っていく事くらいは出来るわな、それに体格差も相まってかなり効くやろ」


《退いた! メルシナが退いた、今のローでは打撃戦では近づけないと察したか?》


 メルシナがバックステップで距離を置く。


「さぁ、これでうるさく懐に飛び込まれるのは防いだわ、でも······」


 両手を大きく上げたアラカワ。


「私は打撃戦で貴女を倒そうとは思ってないからね、近づかせてもらう!」


 ズイと前に出てメルシナとの距離を詰める、明らかに掴むという構え。


「······」


 対して下がるメルシナ。

 打撃戦という奇襲が破られ明らかに前進気勢は失せている。


《さぁ懐に飛び込んでの打撃狙いには強烈なローがある、これはアラカワと組まなければならないか??》


「そのとおり! でも!」

「!!」


 一気に距離を詰めるアラカワ。

 メルシナの襟と袖を掴み······大外を刈る。


 スダァァァァァン!!


「私と組むなら、即投げる!」


 会心の笑みのアラカワ。


《決まったぁ! これは強烈な大外!》


「ぐはぁっ!」


 苦悶の表情を浮かべるメルシナを素早い動きでそのまま正面から抑え込む。


「メルシナ!!」


 リング外で叫ぶ琴名。

 体格差が圧倒的、打撃でも組んでも差がありすぎる。


《メダリスト・アラカワの圧倒的な圧力と力の前にメルシナ・コンロットの技術は蹴散らされてしまうのか?》


『ここまでは完璧』


 抑え込んだメルシナを見下ろしてアラカワはフゥと息をつく。

 ここからは······


「や、やっぱりね」

「!?」


 苦しい顔ながらのメルシナのウインク。

 目を見開くアラカワ。

 周囲の見物人達も目を見張った。

 瞬時、いや倒れた時にはもう······

 アラカワの首の前にメルシナの右手、後ろには左手が回っていたのだ。


「しま······」

「遅いよ」


《これはっ! ガードポジションからのそ、袖車かっ! 下からの袖車!》


 袖車。

 両手で相手の首を挟み込む単純な締め技であるがこの技の怖さは胴着を来た場合、右手と左手で胴着の部分を持つことでほぼ完全なロックが出来てしまう事だ。


「ぐぅぅぅぅ······!!」

「迷ったね? ほ、ホンの少し迷ったね? そこだよ、そこ! アンタは現役の間は勝つときは投げでの1本か、抑え込みでの1本が殆ど、倒してからの締めや関節技はほぼしてないんだからさ! 私達はいつでも一瞬で相手を仕留めるのを狙ってんのよ!」


 嗤うメルシナ。


《下からの袖車、メルシナの両手がアラカワの首を締める! 耐える、耐えるアラカワ! 脱出なるか!》


 数瞬とも言えない時間でのメルシナの反撃に身体を振るわせ歯を食い縛るアラカワ。


「た、耐えられるか?」


 思わず唇を噛む優太。


「完璧入っとる、無理や······」


 真依の短い返事の数秒後······ガクンとアラカワの全身から力がなくなると、慌ててレフェリーがメルシナとアラカワの間に滑り込むように二人を分けた。


《落ちた~~!! メダリスト、メリー・アラカワが落ちた!! 恐るべしコンロッド柔術! メルシナ・コンロッド! あの投げを受けた次の瞬間には反撃に移っていた、恐るべき16歳!!》


 レフェリーに右手を上げられる金髪ソバージュバンダナの少女メルシナ。

 周囲からの拍手。

 メダリスト相手に見事な勝利は同業者からの十分な称賛に値する。




「大外で勝った、と思ってしまった私は競技柔道が染み付きすぎたかしらね?」


 傍らではアラカワがセコンドに起こされ立ち上がっていた。

 落ちた時間は短かったよう。 

 アラカワの様子にメルシナは安堵したようにフゥと息を吐く。


「いやいや、あんな豪快で鋭い投げは喰らった事ないわ、でもやっぱり貴女には私のサイズは小さかったでしょ? ホンの少しだけ投げを空かせた、その分生き残ったよ」

「······そういう事か、普段から自分よりも大きいか同サイズとばかりやってきたからね、投げた時にね、軽すぎるとは思ったけどまさか空かせていたとはね、だから私の抑え込みを読んでの袖車なんて出来たんだね、噂には何度も聞いていたけど本当に凄いわねコンロッド柔術ってやつは」


 ニッコリと笑うメルシナは首を傾げて参ったなという風に右手を差し出すアラカワに、


「コンロッド柔術というよりは私が強いんだけどね!」


 と、強く右手を握り応えたのだった。




続く



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