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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「誘いに乗れば良かったなぁ」

《さぁさぁ~、いよいよ予選大会も64名の参加者が16名になりました! あと1回勝てば神女ドームでおこなわれる決勝大会に名前を列ねる事が出来るわけであります!》


 カメラを連れて実況の女性アナウンサーが興奮気味に声を張る。

 横並びの16名の女性格闘家達をカメラが一人ずつ撮っていく。


《プリンセスドリームの安東唯は1回戦、2回戦ともに喧嘩殺法炸裂でKO勝利を収めてます、注目の國定道場の音羽琴名大会最年少15歳も連続KOでここに歩を進めてきています! 安東唯に対抗戦で勝利した苫古真依も1回戦、2回戦ともに判定ながら下馬評通りにここに来ました》



『ネットテレビとはいえ、カメラにこうも撮られちゃうと緊張するなぁ~』


 カメラから顔を背けるように上を見る琴名。

 リングに上がれば意識はしないがリングの下で撮られてしまうと気恥ずかしい。

 カメラが離れてから横を見れば······


『あ、あのチーちゃんが取材したというプロレスの倉木さんも、1回戦であのマテラ・グリフィードをKOした織田百合乃さんもいるな······やっぱり2人ともちゃんと強いんだな、他の人達もヤバそうなのでいっぱいだなぁ』


 居並ぶ強豪達を琴名は見つめる。

 今は名前も知らない相手もいるがそのうち嫌でも知ることになるだろう強敵達。

 実況の言う通り琴名はその中でも最年少。


「なにキョロキョロしとんの?」

「え? いや、誰とやるのかなぁとか?」

「そないな事心配してもここまでの対戦も抽選やなくて運営が全部決めたんやろ? ならどうにもしようがないわな、連続KOの強豪さんがキョロキョロしてても仕方ないで」


 横に並んだ真依にニヤつかれてしまう。


「それもそうだね」


 勝った選手同士を抽選している様子がないから真依の言う通り運営本部が対戦を全て決めているのだろうから選手からは何もやりようがない。


「だからこそウチはラッキーや、少なくともウチらの道場は予選じゃ相討ちさせへんやろ? 今日は琴名ちゃんの勢いには勝てる気せえへんよ」

「またまた、真依さんはそういう上手いことをいうんだからさ」

「ホントやでぇ?」

「もう······でもそうならいいね、ボクもまだ真依さんとやる勇気は出ないな」


 琴名はそう答えて他の選手の紹介を続けているカメラや実況アナでなく真依の横顔を見つめる。


『次で勝てば決勝大会だ! 幸いここまで2戦でダメージも疲れも殆どない、チャンスだ! なんとか勝たなきゃ、私がこの人達を追いかけられない!』


 年齢差はある。

 だけどそれを理由に諦めたくない。

 音羽琴名にとって涼、ナディア、香澄と真依と言う國定道場の先輩達は頼りになる姉でありながらもいつかは越えるべき相手だと思っているのだ。

 その為には······この予選大会で敗退してなどいられない!



《では! 予選大会決勝戦参加者ははこちらに用意しましたボックスをご覧下さい!》


「?」


 耳に入ってきた言葉に琴名は実況アナの女性の方に振り返る。

 実況アナとカメラマンの背後にいつの間にか折り畳みテーブルが置かれ、そこには沢山の紐が伸びた大きな箱が乗っている。


「ま、まさか?」


 真依が顔をしかめた。


「う~ん、そのまさかだね」


 琴名にも解る。

 それは······


《これは抽選箱です! この箱から伸びた16本の紐を各人引いてもらい······箱の中で繋がっていた相手が決勝戦の運命の相手なのですっ!!》


 予想通りの実況アナの絶叫に、


「あっ······ちゃあ~、これは忖度無しやぁ、テレビマンの癖にぃ」


 真依は偏見一杯の抗議の声を上げたのだった。




《各人好きな紐をどうぞ!! 繋がっている者同士が対戦相手です》


 箱の周りに集められた16人。


「さぁて······どうしますかねぇ」

「そうですねぇ?」


 プロレスラーの倉木が箱を覗くと、織田百合乃が顎に手を当てて迷う様子を見せる。


『悩んでも大して意味はないと思うけどなぁ、何か似た者同士だな』


 琴名が2人にそう思っていると、


「アタシは早くやりたいんだ、これでいいから早く周りも選んでくれや!」


 安東唯が1本の紐を掴む。

 彼女の言う通りだろう、琴名も紐に手を伸ばすが······


「オトワコトナ! こっちみて!」


 ややカタコトの高い声の日本語が耳に入る。


「えっ?」


 いつの間にか琴名の隣には青い柔術着に黒帯をした白人の少女がいた。

 金髪の首くらいまでのソバージュヘアに黄色いバンダナ、蒼い勝ち気な瞳。

 身長、体格ともに琴名に近い。


《あれ? 名門コンロット女子柔術のメルシナ・コンロット選手が音羽琴名選手を呼んでるぞ!?》


「な、なに?」

「ヘイ、コトナ! コレ、コレを引いて!!」


 メルシナ・コンロットと実況に呼ばれた少女は琴名にそう言いながら自分の引いた紐をグイグイと強く引いた、そうすると······箱の中でその紐と繋がっていたまだ掴まれていない紐がグイグイと動いてしまう。


「ぐ······」


《おおっと!! これはメルシナ選手の音羽琴名選手への挑戦だ! 自分の紐と繋がっているこの紐を引けという企画壊しの挑発だ!》


 確かに企画壊し。

 琴名は思わず顔をしかめた。


『メルシナ・コンロット、女子柔術会ではゴタゴタがありながらも一番の大御所ブラジルのコンロット柔術会の娘とかいう話だよね?』


「ほら、はやくはやく!」


 これこれとばかりに自分の紐を引いて繋がっている紐を指差すメルシナ。


「············」


 タイトなタイムスケジュールもあり、あまり他人の試合を観れていないので正直、彼女の実力については計りかねたが······琴名は数秒間考えると、


「ヤダ!」


 と、答えて別の紐を掴む。

 真依とはやりたくないのでそれを掴んでしまうという選択肢もあったが、ここまで来て未知の相手とはいえ相手の手の内に乗るような事をしたくなかった。


《あーっと掟破りの試合要求という挑発には音羽琴名は乗らなかった!》


「ヒッドーイ! 覚えてろよ!! アタシの挑戦状を無視するなんて!!」


 解りやすくキーッとなっているメルシナ。

 そこに······


「じゃ······私がそこを貰うかな」


 彼女が動かした紐を掴んだのは柔道着の赤茶色の髪を何重にも編んだ黒人女性。

 堂々とした体躯と落ち着きを感じさせる表情。


《メルシナ・コンロットとの対戦の紐を掴んだのは180cm、82kgのアメリカの柔道家、ここまで投げ二回で勝ち進んできたオリンピック柔道78キロ超級銀メダリストのメリー・アラカワだぁーーー!! 彼女は自ら決勝戦の相手をメルシナ・コンロットに選らんだぁ!》


 叫ぶ実況アナ。

 周囲からもオオッと声が上がる。


「あっちゃあ~~」


 これはババだぁ。

 自分が拒否した事からとはいえメルシナに振りかかかった事態に琴名は声を上げてしまう。

 メリー・アラカワ30歳。

 今大会予選唯一のメダリスト。

 琴名が1回戦で戦った柔道オリンピックの出場選手とは格も階級も違う。

 実績ならば招待選手にならなかったのが不思議なくらいである。


「アンタのせいだ~~!! あんな重いのと面倒くさくって敵わないわ!!」

「わ、私は知らないよっ、そんなルール違反な事をするのが悪いんだよっ」


 ワナワナと震えるメルシナに琴名は悪いなぁとは思いつつもクルリと背中を向けた。




 何はともあれ数分後······全員が箱から伸びた16本の紐を掴んでいた。


《では······箱を取ります、そうしたら軽く引いてください》


「······」


 息を呑んでしまう琴名。

 実況アナが箱を掴んで上に上げる。

 掴んだ紐から伝わるグイと引く感覚。

 軽く引けと言われてるのに相手は結構強く紐を引いているのだろう。

 軽く混ぜられていた紐が各々に張っていく。


「······えっとぉ」


 自分の持っている紐を追っていった琴名の視線の先には······


「よう!」


 特攻服に身を包んだ金髪の見知った顔が不敵に笑っている。


「よ、宜しく······唯さんかぁ、これならさっきのあの娘の誘いに乗れば良かったなぁ」


 安東唯の不敵な笑みに対して琴名はハハハと苦笑いをしてしまうのだった。



続く

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