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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「待っててや」

「おおっ······琴名ちゃん勝ったかぁ、あと1回で決勝大会やんけ、あの娘ホントにやるようになったなぁ~」


 レジャーシートを敷いた休憩場所でチャイナドレスで寝転びながら真依は笑顔を浮かべた。

 リングサイドまではいかなかったが試合の結果は遠くからでも判った。

 隣で胡座の涼はそんな真依を見る。


「アンタねぇ······琴名ちゃんよりも今日は自分の事を気にしなさいよ? マジで1回戦みたいな適当な動きしてたらやられるからね、呼び出しかかる前に調子戻すために少しでも動いた方が良くない?」

「無理~、無理やぁ 今日はホントに調子が上がらんのやぁ~」

「日が悪い?」

「そうやないけど身体が重いねん、変にアップなんかしたら試合で動けなくなるわ、ムリムリムリ」


 脚をバタバタさせてアップを拒否する真依。

 そんな彼女に、


「まったく······」


 涼が頬杖をついた所で真依の名前を呼ぶアナウンスが流れた。





「······う~ん、これは因縁なんかなぁ? それとも大会側の盛り上げのアングルかいな?」

「知らないわよ、油断しないで! ムエタイの蹴りは変に入ると思わぬダメージ喰らうわよ!?」


 赤コーナーでセコンドの涼に悪戯っぽく笑う真依に涼が注意する。

 因縁。

 そんな言葉を真依が使ったのは対角の青コーナーに立つのがプリンセスドリームの河内いずみだったからである。


《プリンセスドリームの河内いずみ選手、1回戦は首相撲からの膝の連打で勝利しました! 対する苫古真依選手は1回戦は判定勝ち、こちらはプリンセスドリームとは因縁深い國定道場の選手でセコンドには2度の敗戦を河内いずみに与えている高杉涼選手がついております!!》


「替わってくれへん? あの娘キラーなんやろ?」

「ばーか!」


 そんな軽口を涼と交わしてから真依はスポーツシャツにパンツのムエタイスタイルの河内いずみの待つリング中央に歩いていく。


《チャイナドレスの真依選手とムエタイスタイルの河内いずみ選手が見合います! かたやアイドルかたや中国拳法家の異色対決!》


「宜しくお願いします」


 レフェリーのルール説明が終わると、河内いずみは人気の一因である真面目な性格が伺えるように頭を下げる。


「よろしゅうな、あのなぁ~、いずみちゃん」

「はい?」

「今日はウチ調子悪いねん」

「え?」

「だから······勝てばいい、そう思っとるからそういう闘い方させてもらうで?」


 真依はそう告げるとイヤらしく笑った。



「ファイトっ!!」


 レフェリーが拳をつき出す。

 いずみは上半身のガードを固めながら摺り足で真依との距離を詰める。


『調子悪いとか言いながらこの人は正直強い、プリンセスドリームでも一番の安東さんに勝ってるんだもん······ハッキリと言えば実力差がある······』


 真依の構えは拳を開いての半身の構え。

 ローキックで出足を止めたいが正直5分の試合時間では効くまでは時間が足りないだろう。

 それに······


『そんなキックの撃ち合いをしても技術でもパワーでも負けてる私が逆転できる手段はない、逆に私が脚を効かされてしまうかも』


 手詰まり感が出てきたアイドル活動に何とか活路を見出だそうと始めた格闘技。

 正直甘くなかった。

 高杉涼に2連敗。

 それも手も足も出ない惨敗。

 数時間前に総合格闘技初勝利を挙げたが、國定道場の格闘女子達に正面からいって勝てる訳がない。

 彼女達は化物だ。

 いずみ自身そう思っていた。


『でも!!!』


 勝ちたい!

 それならこれしかない!

 当たれば一撃必殺!

 狙うは真依の形の良い顎!

 そこに向かって······飛ぶっ!


《と、飛び膝っっっっ!! 河内いずみがいきなり飛んだぁぁぁ!!》


「だめや」

「!?」


 その声は妙に落ち着いて冷たかった。

 顎に向けられた膝はスッと躱され、勢い余って飛び上がったいずみの身体を真依は両手で受け止める。


《これは??》


「お姫様抱っこ」


 ニンマリ笑う真依。

 いずみは真依に両手で身体を脚を持たれお姫様抱っこされた状態になってしまう。


「くっ、は、離してっ!!」

「いけずぅ······ホイ!」


 グルンッ!


 わざと回転をかけられて放られたいずみの身体はうつ伏せでマットに落とされる。

 大したダメージではない。

 すぐにでも立てる。

 だが······


「せい」


 立ち上がろうとしたいずみであったが、背中にのし掛かった重さに身体が潰れた。

 真依が馬乗りに乗ってきたのだ。


《真依選手、腹這いの河内いずみ選手の背中に馬乗りに乗ってしまった! これはいずみ選手が圧倒的に不利な状態だ!》


「······!!」


 実況の言う通りだ。

 仰向けの背中に乗られてしまっては相手の攻撃が全く見えない背後から来るのである。

 避けようもないし、首に手を回してのチョークなどもいつ狙ってくるかもわからない。


「このっ!」

「だめ」


 身体を返してガードポジションを狙うが体重をかけた重心を変えられた上、後ろから両肩を抑えられて身体の回転が出来ない。


「えいっ」


 ポカッ。

 軽い気合いと共に真依が続けてきたのは頭への軽いチョップ。


「なっ??」


 ダメージにもならない当たりに喰らったいずみ自身が驚く。

 何の意図??

 わからないが後ろから強い攻撃を受ける前に早く返さないと! 

 今度は両手両膝を立てて脱出を試みるが······


「めっ!」


 今度も体重移動と手を後ろから払われて身体を潰されてしまう。


「くっ······!」


 それならば自身の身体を丸めて相手のバランスを崩そうとするが、


「そういうのも知っとんのか、でもダメ!」


 真依は身体全体をいずみの背中に預けるようにして両手を胸元に回してきて、いずみの身体を伸ばして倒してしまう。


「んっ??」

「オッパイ大きいなぁ······顔も好みでかわいいし食べちゃいたいわ」

「ふっ、ふざけないでっ!」


 舌なめずりする真依。

 いずみは怒鳴り返す。

 しかし状態は変わらない。


「ど、どういうつもりですか??」

「どうもこうもカワイイいずみちゃんとウチは5分間タップリと絡み合うつもりや? こうすりゃ邪魔も入らんしね、てい!」


 ポコッ!


 頭に入る再びの軽いチョップ。


「······!!」

「この······」


 真依の意図に目を見張るいずみ。

 セコンドの涼は何とも言えない表情を見せて頭を抱える仕草をしていた。


『まさか······このままわたしを背中から潰したまま判定勝ちを?? この気のないパンチはブレイクをかけられない為の!?』


 理解はした。

 まさかの真依の狙いは理解はしたが······


「······くぅぅぅ!!」


 それを返す技術も力も自分には無いことをいずみは自覚してもいたのだった。




《ゴーング! 5分間の間真依選手はグラウンドでいずみ選手の背後を取り続けました! これはいずみ選手は何も出来ませんでした!》



 審判に手を挙げられてから自軍コーナーに引き上げてくる真依。


「アンタさぁ······幾ら調子悪くたって、あれはないでしょ? パンチ入れれば早く勝てたでしょ? いずみちゃんショック受けてるわよ?」


 対角のコーナーでほぼ試合らしい試合の出来なかった悔しさに涙を見せうなだれるいずみ。

 それを見ながら涼が真依にタオルをかける。


「いやぁ、作戦や作戦、でも久しぶりにあんなカワイイ娘とタップリ絡んでウチは満足や!」


 満足げにタオルで汗をふきながら、


「まぁ、ウチも今日はこんな調子やけど、1ヶ月後はこうは言ってられんからね、その為には相手泣かしても勝たないかんのや、待っててや涼」


 と、真依は目の前の涼に向けて口元を緩めて見せたのだった。


 

続く 

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