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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「今日は負けないからね」

「どうぞ!」


 巨大体育館の隅、レジャーシートを敷いた休憩場所での昼食。

 琴名が差し出してきたお重の弁当箱の中身は定番の卵焼き、唐揚げ、小さなお握り、さらに様々な種類のサンドイッチ。


「いただきます!」

「うわ、やっぱり琴名ちゃんの唐揚げは時間が経っても美味しいわぁ」

「だね」


 オーソドックスながらもその見事な出来の料理に舌鼓を打つ涼や優太。


「ボクは試合があるから少しね」

「気にすんなや、琴名ちゃん! 負ける時は負けてまうねんで、はぁ~、只のお握りも琴名ちゃんが握ってくれたと思うと美味しいわぁ」

「アンタ、次の試合でボディーでも喰らって吐けばいいのよ」


 試合を気にして野菜を挟んだサンドイッチを半分にして食べる琴名に対し気にしないでお握りをパクパクと食べている真依にジト目を向ける涼。


「結構人減ったねぇ~」

「ま、そやろ、それでもまだ32人残ってるからそれなりにいるやろ?」


 1回戦で負けてしまった選手や陣営がこの休憩時間で帰ってしまい人が減った周囲をキョロキョロする琴名に真依は答えた。

 後学の為に残る試合を観る者もいるだろうが負けた選手はかなり帰ってしまったようだ。


「次は1回は勝った相手だからね、琴名ちゃんも1回戦は圧勝だったみたいだけど気をつけてね、今度は5分を使いきるつもりで冷静に試合を進めてみてもいいかもしれないわよ?」

「うん、そうだね」


 涼のアドバイスに神妙に頷く琴名。


「ウチにもアドバイス!」

「アンタは適当にやんなさいよ、とにかく調子悪いんだからさ、逃げまくってとかさ」

「ひ、酷いわぁ、付き合い長いのにウチにはこんなアドバイスしかせぇへんのかぁ? 優太くぅん、ウチはあんなセコンド要らへんわぁ、今度はウチにセコンドついてや!」


 涼に適当にあしらわれた真依が優太にわざとらしく身体を擦り寄せてくる。


「あのですね~」


 もちろん涼と真依の互いの態度が冗談なのは言うまでもなく、優太が卵焼きを食べながらも返答に困っていると······



「よう!」


 元気の良い声と共に知った顔が挨拶してくる。


「唯さん!」


 顔を上げる琴名。

 そこに立っていたのはいつもの胸にサラシを巻いた特攻服に身を包んだ安東唯だった。

 手にはバンテージ。


「え? 予選から参加しとるんかいな? 決勝推薦はもらえんかったんかいな?」


 対戦経験もある真依が悪戯っぽく聞くと、


「てめぇ、皮肉を······アンタに負けたアタシが推薦あるわけねぇだろ? でも1回戦は楽勝だったぜ、パンチ、キックの連打だな」


 唯は一瞬ムッとしたがグッと拳を握って見せた。


「それは良かったわ、4つもリングがあってそこらで試合してるからさ、プリンセスドリームの仲間たちは他にも参加してるの?」

「ああ······愛日はいないけど、お前らと対戦した残りの3人は予選から出てるぜ? 1回戦で2人負けちまったけどな」

「なかなか難しいか」

「だな」


 涼と唯は肩をすくめ合う。

 唯は知里をチンピラから助けて國定道場に来たこともあるので國定道場の女子達と面識があるのだ。


「唯さん、じゃあ唯さん以外に勝ったのは誰? あと愛日さんはやっぱ決勝から?」

「ああ、勝ったのはいずみだよ、掴んでの膝の連打で相手をKOしたらしい、愛日の事はハッキリはわかんねぇなぁ······対抗戦でアタシ達の中から唯一勝ったから推薦だとは思うぜ?」

「そっかぁ」


 身を乗り出して唯に聞く琴名。

 琴名の興味はもちろん雑賀愛日だろう。

 プリンセスドリーム対抗戦で全く手を出せずに負けてしまった相手だからだ。


「いずみさん勝ったんだ、これが格闘技挑戦初勝利かな?」


 2度の対戦があり、それなりの因縁と煽られている涼が笑顔を見せると、


「そうです、ようやく初勝利です!」


 黒髪を短く首の後ろで結わいたムエタイスタイルのリングコスチュームの女子が現れる。

 河内いずみ。

 涼と2回の対戦があるが1回目は回し受けで手首を外され、2回目はローキックからの手刀でのKOという完敗を喫しているアイドルだ。


「河内さん、初勝利おめでとう」

「はい、ありがとうございます······私自身、まだまだ実力は足りませんけど、いつかは高杉さんと再戦できるように頑張ります!」


 涼が勝利を祝うと、いずみはペコリと頭を下げて手短に立ち去っていく。


「いずみもそうだけどアタシも対抗戦のリベンジしたいからな、まだまだ負けらんねぇぞ、アンタに言ってんだぞ!?」

「ウチは今日は調子悪いんや、アンタみたいな強敵には当たれへんわ、予選はベスト8まで残ればエエんやろ? 無理に戦う必要あらへんわ」


 唯が気合いの入った声で視線を向けたが、その視線の先の真依は今日はムリやという風に首を振る。


「······まったく、でも互いに頑張ろうぜ! じゃあな!」


 真依の暖簾に腕押しの態度に面白くない顔をしつつ唯も手を上げて帰っていく。




「唯さん達も参加してたんだね、真依さんの言う通りベスト8まで残れば終わりなんだから、実力的にいずみちゃんはともかく唯ちゃんとはなるべく当たらないと良いね」


 遠くなっていく唯の特攻服の後ろ姿を見つつ優太が呟くが、


「誰にも彼にもそんな事言ってたらキリがないよ、ボクは誰が相手でも今日は負けないからね! 決勝で愛日さんを倒すんだから!」


 琴名はそう言いながら優太の口に唐揚げを箸で差し入れてきたのだった。



続く

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