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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「待ってたからね」

 冬の夕陽が道場に射し込む。


「お握りご馳走さま! 稽古ありがとうございました、またよろしくお願いします!」

「こちらこそ、次は来週の火曜日だったね、待ってるから!」


 道場の掃除を終え、琴名からの差し入れのオニギリをお茶で美味しそうに流し込み、礼儀正しく頭を下げ帰っていく大学生達。

 彼等に愛想良く笑顔を見せる涼。

 大学生達の中には、香澄にこっぴどくやられた堀田やデートを申し込み返り討ちを受けた三人組も混じって、道場前の長い石段を降りていく。


「香澄は結局、三人からのデートの申し込みは受けたんですの?」

「受けるかっ、だいたい勝っただろうに!」


 いつもの様子を取り戻し、涼の後ろで腕を組んでいた香澄だったが、ナディアに尋ねられると再び赤面する。


「受けて上げればよかったんですのよ~、特定の相手もいないんですから、相手は三人、お姫様扱いできっと心地よいですわよ、大好きなお寿司とか食べ放題ですわ」

「そんな心積もりで男子と出かけられるか!」

「乙女ですわねぇ」

「お前だってそうだろうに!」

「まぁまぁ……私達も稽古したし、そろそろお腹空いてない?」


 ナディアに茶化され、ムキになる香澄をなだめて、涼が皆に聞く。


「ですわねぇ、琴名ちゃんの作ったお握りは出来が良すぎて、大学生が皆さんで貪るように食べてしまいましたからね」

「みんなお腹が空いてたんだね~、作ったボクにしてみれば嬉しいけど」

「あんなに元気だったら、最後に全員を集団組手してやれば良かった」


 ナディアの言う通り、琴名の作ったお握りは大学生達が凄い勢いで群がり全滅させてしまった。

 複雑な笑顔を浮かべる琴名の横で、香澄は口元に手を当てて舌打ちをする。 


「ご飯とお握りの具の明太子と高菜まだ残ってるけど?」

「それでどうにでもなるな、高菜を味噌汁に合わせれば立派な一汁一菜だろう」

「決して裕福ではありませんもの……次のバイト代金が入るまでは我慢ですわ」


 何だか少し寂しげな夕食の相談を始めた琴名、香澄、ナディアに…… 


「待って、待って、確かに裕福ではないし、贅沢をしようとは思わないけど、今日は私達の新しい管理人さんが来た日なんだから少しは張ってもいいでしょ?」


 涼はそう言って優太に向けて手を向ける。


「えっ?」


 いきなりの振りに首を傾げる優太。


「ですわねぇ、ですわねぇ! 長者のお爺様のたった一人のお孫さん! お金に縁がない訳がないですわ、さぁ! 寿司でもピザでも出前をとりましょう!」

「寿司にしろ、寿司に!」

「出前、こんな山奥には来ないよ」

「違う、違うわよっ!! なんで優太君に奢らせんのよ? 話が違うでしょ、話が!」


 勘違いというか、勝手になりやら決めつけて盛り上がる一同を、涼が突っ込む。


「そう言われればそうだよ、確かにおかしいね、ホントならボクたちが何か作って祝うのが普通じゃないかな?」

「しかし到着日をハッキリ言ってこなかったのが悪いだろう? 何かをしようにも出来ないじゃないか」


 琴名はそれに納得したが、香澄は腕を組んで優太をややキツめの瞳を向けてくる。


「そうだね、急いできたからゴメンね」


 香澄の言う通りとばかりに後ろ頭を掻く優太。

 一旦、東京に帰って親達に管理人になる事を告げた後で島に帰り、荷物をまとめて東京に舞い戻ってきたのである。 

 距離的には日本列島縦断にほぼ近い。

 なかなかに慌ただしく、近づいたら連絡をしようと思っていたのだが、つい忘れてしまった。


「連絡しなかった俺が悪いんだし、お祝いは気持ちだけで十分だからね、今日はある物で……」


 様子を聞けば、何人かは懐具合は今の冬の季節とまではいかないが、ポカポカとはいかない様子、無理をさせてはと思う。


「ちなみに涼は張ったらとか言ってたが、どうしようと思ってたんだ?」

「え……駅前まで降りてケーキとフライドチキンとか買って来てとか?」


 香澄に訊かれ涼は少し考え答えるが、


「何だかクリスマスですわよ?」

「そうだよねぇ」

「な、なんか、お祝いと言われると何だか思いつかなくて、それに思いついたのさっきだし……ほらアタシって行き当たりバッタリなトコあるから」


 ナディアと琴名に指摘されて恥ずかしそうに笑う。


「まぁ今日は気にしないで、連絡はしないし、着いた時間も良くなかった、もう夕方だから今から駅前に降りるのも時間かかるよ、夕食の準備をするよ、一応だけど料理は出来るんだよ」


 祝おうとしてくれた涼には感謝であるし、四人の美少女に祝われる図は悪くない、でもタイミングが悪かった。 

 母屋に引き上げようとする優太だったが、


「ケーキとフライドチキンだそうだ、それで構わないか? 祝われる当人が良ければ何だかクリスマスでも文句はないだろう」

「え?」


 香澄に確認されて戸惑ってしまう。


「でも香澄ちゃん、さっき……」

「確かに到着を連絡しなかった事は責められても仕方がないが……この國定道場に新たな管理人が来た事が喜ばしい事には違いない、國定爺の事があった直後だから騒ぎは出来ないがな、着替えたら出よう、またここに集合だ」


 それだけ言うと、玄関に上がっていってしまう香澄。


「ボクも着替えなきゃ! 飯炊きの格好のままだよ!」

「暗い夜道は心配ありませんわ、優太は四人の格闘家と一緒ですのよ、安心なさい」


 慌てて香澄に続く琴名、ナディアは優太にウインクをする。


「アタシも着替えてこよ、待ってて」


 涼も優太の横を歩き出す。


「優太君」  

「なに?」

「みんな……待ってたからね」

「え、あ……ああ」


 笑顔を見せて通り過ぎていく涼に上手い答えが出来ずにいる優太。

 着替える必要なく一緒にいたナディアに、


「女の子免疫なさげですのねぇ」

  

 と、ニヤニヤ笑われてしまうのだった。



                    続く



 

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