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かくじょ!  作者: 天羽八島
第2章「最強女子決定トーナメント編」
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「可能性が出てきたのも複雑」

《実況の渡会です、1回戦が終わりこれから休憩なのですがライブ動画をお楽しみの皆さん、今終わったばかりの衝撃の逆転KO劇を演じてくださった織田百合乃選手にインタビューしてみたいと思います!》


 実況の若い女性アナが実況席からマイクを立ち上がると、カメラマンもついていく。

 リングから降りる織田百合乃に駆け寄る渡会アナ。


《見事な逆転KOでした!》


「んっ!!」


 サッと目の前に出されたマイクにビックリした表情を見せながら、


「あ、ありがとうございます、パンチが何とか当たってくれました、運が良かったです」


 織田百合乃はペコリと実況の渡会に頭を下げる。


《運ですか? でも相手のマテラ選手の猛攻を凌いでのパンチ一閃は狙ってましたか?》


「ええ、まぁ······私も女子選手の中では低い方じゃないとは思うんですけどマテラ選手は大きかったですね、それでパンチも細かくて速かったです、上背からしてあれくらい振らないと当たらないと思って、でも早く当たったのはやっぱりラッキーでした」


 百合乃は頷きながらも、やっと失神から意識を戻してセコンド陣に介抱されるマテラの方を振り返る。


《なるほどラッキーパンチと、百合乃選手とても謙虚で丁寧ですねぇ、とにかくおめでとうございました、2回戦も頑張ってください!》


 渡会アナはペコリと頭を下げると百合乃もそれを返し、三十代後半の女性トレーナーに付き添われて会場の隅の壁に背をかけて座る。




「大人しそうな人だなぁ~、それにあんなにカワイイお姉さんタイプの見た目で34歳かぁ、聞いたことないけど結構なベテランさんなんだね」


 インタビューの一部始終を見ていた琴名が百合乃を目で追っていく。

 会場の壁に体育座り座りながらトレーナーに何か言われながらコクコクと頷いている彼女はルックス的にはまだ二十代半ばでも通用する程に若く、相当な美人である。


「たぶん打撃系の選手なんじゃないかな? 少し調べてみる?」

「お願い、ボクはグローブ外せないから」


 スマホを取り出す涼に頼む琴名。

 予選のタイトなスケジュールだけにいつ試合に呼ばれるかわからない、グローブを外してしまうとまた裁定委員に見てもらいながらの着用という無駄な時間が起こってしまう。


「ええっと、織田百合乃······流石にそんなにヒットしないけどキックボクサーさんね、ローカルなベルトを5、6年前まで何個か獲って······そこからは記録が殆どないわね」

「う~ん、引退して今回の大会目指して復帰した主婦さんかな?」


 慣れた手つきでスマホを操る涼。

 琴名は百合乃の方を見ながら呟く。

 最近は女子格闘技も勢いが出てきているが、マイナーなのは間違いない。

 特に乱立しがちなボクシング、キックボクシング業界ではチャンピオンといっても同じく乱立し、戦績や実力が計りかねるのだ。


「ま、とにかく打撃系選手なのは間違いないね」

「データがないのはお互い様って訳だね」

「女子格闘技じゃ良くあるわよ」


 涼と琴名がスマホ画面を見ていると、


「じゃあ、私は後輩たちがご飯用意してくれてるんで休憩場所に戻りますぅ、また後で······お互いに当たらないと良いですよねぇ」


 倉木がペコリと優太に頭を下げた。


「そうだね、じゃあ」

「はぁい」


 軽く手を振る優太。

 歩き去っていく倉木の姿が遠くなると、


「アレがナディアとやり合ったプロレスラーって訳か、なかなか鍛えてそうじゃん」


 涼が腕を組んで彼女の背中を見つめた。

 優太は頷く。


「だね······琴名ちゃんにしても真依さんにしてもベスト8になれば終わりの予選では当たりたくないね、1回戦もボディスラムで相手を一発で失神させていたしね、一発がある」

「やっぱ私じゃ負けちゃう?」

「そ、そういう意味じゃないよ!? 決勝大会なら仕方ないけど、予選ではなるべく危険な相手は避けた方がいいと思っただけだよ! 誤解させたなら謝るけど負けると思って言ったわけじゃないよ?」


 ニヤニヤしながら顔を覗かしてきた琴名に優太は慌てて首を振る。

 

「あはは······冗談だよ! そんなに慌てちゃってさ! さぁて休憩場所に戻ろうか、真依さん一人にしてるしボクたちも戻って軽く何か補給しようよ?」


 そんな優太にペロと舌を出してクルリと踵を返して歩き出す琴名。

 

『琴名ちゃん、今朝は結構緊張して見えたけど、今は肩の力も言い感じに抜けてる』


 彼女の後ろ姿に優太が好感触を感じると、


「今日の琴名ちゃん、いいわね······ひとつ勝って落ち着きが出てきた、練習や手合わせは歳からしてはしてるけど正式な試合での勝ちはさっきのが初めてだろうからね」


 涼も同じような印象を持った様子だ。

 他の國定道場の女子達よりも年下で正式な総合試合経験の無かった琴名には何よりもいい成長剤になったに違いないだろう。


「涼がそう感じるなら頼もしいね」

「ええ······でも」

「でも?」

「そんな琴名ちゃんでも1ヶ月後には殴り倒さなきゃいけない可能性が出てきたのも複雑」

「······!!」


 琴名の背中には届かないように涼が冗談に聞こえない低い声でそう呟いたので優太は思わず息を詰まらせてしまったのだった。


 

続く

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