「やっぱり世界って広いんだな」
《圧倒的な身長差からのパンチの打ち下ろし連発、これは凄いスピードだぁ!!》
実況が叫ぶ。
マテラ・グリフィールドの打ち下ろすパンチ。
対戦者は全く抵抗できない。
一発一発が腰の入ったパンチではないがそれは暴風雨の如く。
細かく、途切れず、止まない。
「あらぁ~?」
「これは凄い」
リングサイドにいた倉木と優太、いや周囲にいた参加者関係者達がそのマシンガンの様な連打に唖然としていた。
《織田百合乃選手、必死にガードし続けますがドンドンドン圧されていく!》
対戦相手の黒髪のロングヘアーのボクシングシャツにトランクスの日本人選手は両手で頭部を守っているがおそらく20センチ強はあろうかという圧倒的な身長差に反撃できない。
「やるわね······あの外人さん」
「あんな連打、なかなか見ないね」
優太の傍に涼や琴名もやってくる。
それだけマテラの連打が目立つのだ。
《大会資料によりますと、彼女はアメリカ女子ボクシング界でも圧倒的な高さからのパンチの連打を得意とし、それは地上掃射とまで言われています! いわゆる高い所に飛んだ攻撃ヘリなどによる地上へのマシンガン掃射のイメージです!》
「なるほどぉ~」
実況に頷く倉木の横で地上掃射とは上手く言ったもんだ、と優太も思う。
《堪え切れない、耐えられない! 織田選手、態勢が下がっていく!》
亀になりつつも相手選手の態勢は強引に崩されていく、さながらマシンガンに無理矢理削られていくコンクリートの壁のように。
「あと一息······かな?」
涼が呟く。
スゥゥゥ~。
再びの機銃掃射を開始すべく、マテラが胸を膨らませて酸素を身体を取り入れようとした瞬間だった。
ブンッッッッ。
決して速くなかった。
鋭さもなかった。
そんな大振りの右フックがマテラの右頬を捉え······巨体が飛び上がり······
ズダァァァァァァンッ
189cmの巨体は白目を剥いて豪快にリングにぶっ倒れたのである。
「············!?」
「······!!」
「!!」
倉木も、涼も、琴名も、周囲の者達も。
全てが目を疑う。
倒れたのはマテラ!?
《い、一撃で!? 一撃でぎゃくてぇぇぇん!! 織田百合乃選手、あれだけ、あれだけ打たれ続けて反撃の一撃のみで······アメリカの攻撃ヘリ、マテラを撃墜いイィっっっ!!》
レフェリー、リングドクター、セコンドも目の前で起きた信じられない決着に戸惑いを見せながら、白目を向き口からは涎を垂らすマテラに駆け寄る。
「ふぅ~」
黒髪ロングヘアーを尻の辺りで黄色のリボンで結んだ勝者織田百合乃はレフェリーに片手を挙げられながら安堵の息をつく。
《凄いパンチの持ち主が現れたぁ! 織田百合乃選手帝都タイガースタジアムジム所属の34歳! 可愛らしい! 可愛らしい美人さんだぁ!》
試合前からマテラにばかり注目しすぎていたのを反省するかのような実況。
「へぇ~あれで34歳なんですか? カワイイですねぇ~、それに良く見るとオッパイもおっきくてプロポーションも抜群で男の子受けしそう! ね? 優太さん? ああいうタイプ好きでしょう?」
「アハハハハ、ま、まぁ」
倉木がパチパチと手を叩いて、セクハラじみた同意を求めてきたので優太は返答に窮する。
マテラが注目を浴びていただけに予想外の決着に周囲もまだ沸いていた。
「あのパンチの掃射を受けて顔は綺麗だもんね、キッチリとガードしていてダメージはなかったわけね、騙されたわ」
「そうだね、打たせ続けて息を入れるタイミングだけ······狙っていたんだね、まさに一撃必殺」
マテラの勝利を確信しながら試合を観ていた涼と琴名は予想外の衝撃に頷き合う。
関係者から見事な逆転勝利に送られる拍手にペコリペコリと丁寧に頭を下げてから、リングアウトしていく織田百合乃。
「まさに未知の強豪······面白くなってきましたねぇ~? 初めまして、私は倉木藍といいます、この面白い大会に参加させてもらってます、ホントにお互いに参加できて良かったですねぇ、世界ってやっぱり広いんですねぇ~」
優太の傍らにいた倉木は涼と琴名に挨拶と自己紹介をしながら、ニコニコ顔のままブルッと背中を震わせて見せたのだった。
《さぁ、どうやらここまでで1回戦は終了しました! 1時間の休憩の後に2回戦の組み合わせを大会本部前に張り出しますので勝ち抜いた選手全員は午後2時になりましたら本部前にお越し下さい》
1回戦の終了を告げる運営からの放送を聞きながら優太は、
『琴名ちゃんや真依さんならベスト8なら確実と思っていたけど、倉木さんの言う通り······世界ってやっぱり広いんだな』
そんな事を思うのだった。
続く




