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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「このバカ野郎どもっ!!」

 リング上で向かい合う倉木とナディア。

 手四つを自ら離したナディアが一歩倉木に踏み出そうとした瞬間、


「とぉ!」


 気合いというには軽すぎる掛け声と共に倉木はナディアにスライディングタックル。


「!?」

「うまいっ!」


 機先を制するつもりが思わぬタイミングの思わぬ技に驚くナディア、倉木の絶妙な仕掛けに優太も思わず声が出る。

 森の片足タックルも難なく堪えきったナディアの体幹であるが······


「くっ!」


 見事な脚に絡まったスライディングにその身体がマットに後ろ向きに倒れる。

 倉木は素早くスライディングから起き上がり、スムーズな動きでナディアの上を取ろうとする。


「させるかっ!」


 尻餅をついた状態から倉木の顔面めがけて右足を蹴り上げるナディア。

 不安定な体勢からだというのにそのキックは十二分な破壊力とスピードを持っていたが······

 倉木はそのキックを頬にかすろうかというギリギリでかわしつつ、その右足を担ぎ上げるように取るとグルンとナディアの身体をうつ伏せに返してしまう。


「······!!」


 そのスピードに周囲は声も出ない。

 もちろん攻撃を仕掛けたナディアも目を見張ってしまう。

 倒れた状態から放ったキックを取られてしまってはいかに怪力無双といえども簡単に身体を返されるという事は納得出来るが、倉木の反応スピードとスムーズさがあまりにも見事だった。


「よいしょ!」


 うつ伏せのナディアの無防備な背後から簡単に組み付く倉木。

 この体勢は圧倒的に倉木が有利。


「それっ!」

 

 ボコッ!


 背後からの顔面へ回り込むようなフック気味の右パンチがナディアの顔面に入った。


「ブッ······」


 うつ伏せの背後から繰り出されるパンチをかわす有効的な術は無い。

 当然、見えないからだ。

 

 スバンンンッ!


 次は左パンチ。

 

「うくっ!!」


 苦しげな顔を浮かべるナディア。

 これまでの闘いでフィジカル無双のナディアの見せた事の無い顔、そしてそれ異常に優太を驚かせたのは倉木の躊躇の無さ。

 おっとりした雰囲気をまといつつ、手四つの時も今回も表情は変えていないがやっている事は顔面への背後からの全力パンチというえげつない攻撃だ。


「このぉぉぉ!」


 2発のパンチのダメージよりも現状の苦戦に苛立ったナディアが片膝を立て、更に両手をマットにつき強引に力で自らを立ち上がらせようとする。

 狙いは一気の現状打破。


「だ、だめだっ!!」


 今までのファイトを見れば一目瞭然だが、ナディアの最大の武器はその常識を逸した怪力。

 思わぬ窮地からの脱出ににそれを最大限にいかしたいのは理解できるが、なりに格闘技を観てきた優太は思わず叫んだ。


「それ待ってましたぁ」


 殺気を纏って嗤う倉木。


 スルリッ。


 まるでコースを決めていたかの様に両腕がナディアの首筋に巻きついた。

 スリーパーホールド。

 いわゆる首締め。

 巻きつこうとする腕に自分の手をいれてしまえば容易に防げるので決まりにくい技ではあるのだが、ナディアは数秒、いや数瞬とはいえ両手を自分が立ち上がることに使ってしまっていたのだ。

 これが決まってしまえばプロレスならばともかく総合格闘技で······逃げ場はない。


「ぶげっ!」

「ナディアさん!!」


 苦悶の呻きを洩らすナディア。

 知里も悲鳴を上げた。

 決まった。

 完璧なスリーパーホールド。


「倉木、そこまでっ!! 力いれるな!」


 これ以上は危険。

 リングサイドの森がリングに入り止めようとするがそれを制した手があった。

 ナディアの右手だ。

 その右手は人差し指をチョイチョイと横に振り、


「まだ耐えられる」


 と、ストップを拒否しているのだ。


「バカっ、入ってるでしょ!! 無理しないで! 落ちたら大変よ!」


 怒鳴る森。

 優太にもそう見える。

 痩せ我慢の通じる技ではない。

 スリーパーホールドは息が出来ないという問題ではない、頸動脈が締められ脳への血流が止まる事で落ちてしまう。

 だが······ナディアは片膝を立てた状態からスリーパーの体勢で背後から体重をかけてきている倉木を背負うように立ち上がったのだ。


「!?」


『し、締められてるのに!?』


 常識はずれすぎる馬鹿力!

 背筋に冷たいものを感じ、倉木は思わず締める力を更に込めるが······立ち上がって自由になったナディアの両手が背負った倉木の頭をワシッと掴み、


「ふぬぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 締められたままの苦悶と気合いの入り雑じったナディアの雄叫び一閃、倉木は強引に背負い投げの様に投げられてしまったのである。


 ビターーーン!!


 まさかスリーパーを完全に極めた状態から前方に強引に頭から引っこ抜かれての投げ。

 背中からマットに墜ちてしまう倉木。

 受け身が取れなかった。


「かはっっっ!」


 肺の空気が一気に抜けていく感覚。


「げほっ、げほっ、げほっ!!」


 脚をバタつかせ咳き込む。

 早く立ち上がらなくては、しかし出来ない。

 だがそれはナディアも同様だった。


「げほっ! げほっ!」


 強引な体勢の投げからマットに倒れ込み、スリーパーで落とされかけた意識を咳き込みながら回復をしようとしていた。

 そして······2人が再び闘いにギリギリの意識を戻し立ち上がったのは5秒後。


「まだまだですわっ!」

「はいはいっ! モチのロンです!」


 2人は興奮し嬉々として向き合う。

 あまりにも激しいファーストコンタクトからの立ち合いの再開。

 ······とはならなかった。



「このバカ野郎どもっ!!」


 危険な場面とリングに上がっていた森が2人の首根っこを掴み、鬼のような表情を浮かべていたのである。


「えっ?」

「なっ?」


 意外な乱入者に呆然となるナディアと倉木。


「倉木は倉木で本気で締め落とそうとしやがって! アンタはアンタで完璧に極められてもタップもしない! スパーリングの範疇を越えたそんなやり合い······うちのリングでさせられるかっ! 頭をひやせっ!」


 森はそう怒鳴ると2人の頭を抱え込んだまま、見事なダブルフェイスクラッシャーを決めた。




続く

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