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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「まだまだ色々とやりたいですわ」

 トレーニングジャージ。

 ジーンズにTシャツ。

 黒髪の三つ編みと金髪大量の縦ロール。

 リング上で見合う倉木とナディア。


「倉木さん、あなたもスリーカウントありのプロレスルールでお相手しましょうか?」


 わざとらしく後ろ髪の縦ロールをバサッと手で払いながらナディアが聞くと、


「それでもいいんですけどぉ······でもぉ」


 倉木は頷き、リング外の後輩レスラーから何やら受け取ってからナディアに投げ渡す。


「?」


 ナディアが受け取ったのはオープンフィンガーグローブ。


「タックルしてきた森さんを潰した時にぃ、ナディアさんパンチを躊躇して抑え込みをしましたよねぇ~、ここからはそういう心配はご無用ですぅ、パンチでもキックでもご自由にどうぞ? ノールールでいきませんかぁ?」


 倉木はニコニコ顔のまま、自分でもオープンフィンガーグローブをつけ始める。


「······度胸がいいですわ、いい試合になればいいのですけど」

「いいですよねぇ」


 ナディアは不敵、倉木はニコニコと笑いながら互いにオープンフィンガーグローブを装着し終え······互いに構えた。

 ノールール。

 確認はせずとも互いがオープンフィンガーグローブを着けた時点で決まりだ。

 ナディアは拳を握りボクシングスタイル。

 倉木はプロレスラーらしくレスリングスタイル。



『ナディアちゃんはスタンディングだろうがグラウンドだろうが正面からのパワースタイルだけど、倉木さんはどうなんだろうか? 國定道場女子の中でも頭ひとつ抜けた怪力のナディアちゃんに······』


「優太さん」


 突然に始まった戦いに周囲の者達と同様に固唾を呑む優太に知里が寄ってきた。


「ああ、チーちゃん······なんかこんな事になっちゃって、俺達来なかった方が無難だったね?」

「いいえ、別に」


 謝る優太に知里は首を振る。


「さっきの森さんといい、今回の倉木さんにしてもナディアさんと喧嘩をする訳じゃありませんから、あくまでもスパーリングですからね」

「ははっ、チーちゃんは格闘家に理解があって助かるよね」

「それに」

「え?」

「うちの撮影スタッフさんも乗り気ですし」


 知里の目線の先のスタッフはさっきのナディアと森の戦いだけでなく、今回の倉木とナディアの戦いにもカメラを神妙な顔で向けていた。


「なるほどね」


 プリンセスドリームとの対抗戦でネット発信とはいえ、國定道場女子格闘家達は相当に名前を売っているのだ。

 格闘技マスコミとしては逃せない、という事なのだろう。

 優太は納得した。



「カメラさんも準備も宜しいようですし······始めますわよ?」

「はぃ~、どこからでもぉ」


 ナディアに答える倉木。

 何処かおっとり感が拭えない彼女だが······


『やっぱり上ですわね』


 構えだけでナディアは判断した。

 先ほど手合わせした森よりも、である。

 おそらくそれを森も周囲も解っている、だからこそ森をアッサリと片付けたナディアに立ち向かう彼女を一切止めないのだ。


『ならば!』


 ナディアは握っていた拳を開き、大きく構えると倉木に襲いかかる。

 レスリングスタイルに正面から。

 

 ガシッッッ!!


 互いの掌が合わさる。

 手四つ。

 プロレスではもうお馴染みの態勢。

 早い話が力比べ。


『ナディアちゃんと!? 力比べ!?』


 無謀すぎるだろ?

 優太は背筋が凍った。

 ナディアのパワーは先天的に尋常ではない。

 元男子プロレスラーの暴漢との手四つすらブリッジの状態から起き上がれてしまうのだ。

 女子が正面から受けていい相手じゃない。

 下手すれば。


「あぶな······」


 優太が叫びかける。

 手四つはガクンとナディアが一瞬押しかけるが······そこで止まった。


「ん!?」


 ナディアの目の色が明らかに変わった。

 優勢ではある、優勢ではあるが。

 圧しきれない。

 やや圧された状態で倉木は手四つでナディアを止めて見せたのだ。


「あの怪力相手に······よくもまぁ」


 驚くのはナディアのパワーを知る優太や知里だけではない。

 数分前に身をもって知った森もため息をつく。

 しかし、最も驚いたのは······


『この角度から圧せない!?』


 ナディア本人かもしれなかった。


「ぐぬぬぬぬぬぬっ!! ほ、ホントにホントにショベルカー、ですねぇ~」


 倉木はニコニコ顔に汗をそこら中に吹き出させ、歯を必死に食い縛っている。

 余裕なんてない。

 無いのであるが確かにナディアの圧しに頑強に抵抗しているのだ。


「これは、これは、これは······お、面白いですわぁぁぁ!」


 興奮を隠さず声を上げるナディア。

 まだ手四つをしただけなのに。

 これ程の手応え。


 グイッッッッッ······


 二の腕の筋肉が更に盛り上がり、ナディアの顔にも噴き出す汗。


『圧されているとはいえ、あのナディアちゃんとマトモに力比べになってるなんて!? あの安東唯ちゃんよりもパワーでは上か』


 前に國定道場に来た安東唯とも力比べをしたがその時よりもナディアは本気に、いや手こずっている。

 少なくとも優太にはそう見える。


『あの時は唯ちゃんはたまらずナディアちゃんを投げ飛ばしたけど······』


「くぬぬぬぬぬぬぬ!!!」


 倉木は転じない。

 あくまでも手四つで。

 天性のニコニコ顔で汗を流し歯を食い縛り······抵抗を続けているのだ。


「ふわぁぁぁぁぁ!!!」

「くぬぬぬっっぅ!!」


 ジリ······ジリ······


 二人の美獣の咆哮。

 十数秒の押し合いの後である、数ミリ単位でナディアの態勢が倉木を圧し始めたが······パッとナディアが手を外してしまう。


「はぁはぁはぁ」

「はぁはぁはぁ」


 荒い息で見合う二人。

 周囲も圧し始めたのになぜ?

 とはなったが······


「ど、どうされましたぁ? 参りましたかぁ? ワタシは力比べには自信あるんですよぉ」


 怪物的筋力に直面、追い詰められ汗だくの疲労困憊でも気持ちは折れてない倉木。

 そんな彼女に対し、


「手四つだけで決着がついたら愉しくないでしょうに? 貴女とはまだまだ色々とやりたいですわ」


 ナディアは汗だくながら愉しげな顔をして見せたのだった。


 


続く

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