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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「しかたがありませんねぇ」

 倉木と森のスパーリングが始まる。

 プロレスのそれであるから投げや固め、関節技が主で打撃は殆どみられない。

 基本的に攻撃するのは森。

 投げられ固められ極められる。

 倉木はそうされる度、小さな声でキャンとかアンとか声を上げさせられていた。

 一見は倉木が森に押されている。


「森さん、スゴいね、周りのレスラーや練習生の動きとは全く違うな」


 素人である優太にもその判断はつく。

 森の動きは見栄えもよく、技もキチンと決まりお金がとれるというレベルである。

 しかし。


「確かに······でも、それは森さんのレベルのレスラーが変な加減をしなくていいくらいに相手の受け身が確りしてるからですわよ」

「やっぱりそうなんだね」


 ナディアの注目点は違った。

 優太も薄々と気づいていた。

 このスパーリングを成立させているのは森の技量だけでない。

 倉木の身体の強さとプロレスの基本である受け身と攻撃への正しい対処があってこそだ。

 だからこそ見ている方が迫力を感じるようなスパーが出来るのである。

 知里や撮影スタッフ、そして周りのレスラー達は二人が繰り広げるスパーリングの熱に目が離せなくなっていく。


「そおりゃぁぁぁっ!」


 森が倉木の背後を取り······豪快なスープレックスを決めた。

 マットに響く衝撃。


「ふぇぇぇぇっ」


 決め技を食らい目を回す倉木。

 森はその態勢を解くと立ち上がり、


「悪い、悪い、ギャラリーが多いからつい最後くらいはサービスしようとしちゃったよ」


 と、倉木を起き上がらせながら謝る。


「スパーリングで大技やめてくださぃよぅ、サービススープレックスはきついですぅ~」


 目を回して参った感じの倉木だが受け身はキチンと取れておりダメージはない様子。

 最後のスープレックスは取材の為のサービス。

 これも倉木がキチンと受けてくれるという信頼があってのこそなのだろう。


「やっぱり迫力がスゴいですね! いい取材になりそうです、サービスまでしてくれてありがとうございました」


 知里が笑顔で頭を下げる。


「そりゃよかったぁ~、私達もチーちゃんみたいな有名人に取材してもらえると色々と助かるんだよ、もっとサービスしちゃおうかな!」


 森はリングロープに寄りかかりながらリング下の知里に笑ったあとで······


「チーちゃんに来てもらえたのも私達としては嬉しいんだけども、貴女が来てくれたのも私達は嬉しいのよ!? ナディア・ウェスティンさん、あなたもこちらへどう?」


「!?」


 森の突然の呼びかけ。

 優太が驚いてナディアに振り返ると、ナディアは歓喜の笑顔を必死に圧し殺していた。

 そして、それを堪えきれなくなった様に······



「知ってくれていて嬉しいですわぁ~、わたくし準備万端とはいきませんが······」


 バッとパーカーを脱ぐナディア。

 露になる見事な隆起のTシャツ。 

 ジーンズはそのままに靴下を脱ぎ捨て裸足になると、ペタペタと歩いていき······


「とぉ!」


 コミカルなかけ声とは裏腹の大ジャンプ。


「いつでも挑戦は受けますわよ」


 ナディアは不敵な笑みと共にリングに上がってしまった。


「ナディアさん!?」


 名前を呼ばれうながされたとはいえ、リングにまで上がってしまったナディアに知里は自制を促すような声を上げるが、


「いいのいいの、知里ちゃん、逆に話が早くて助かるわぁ~、本職ではないアイドルが相手だったとはいえ貴女のこの間のファイトは私達には響いていたわ」

「私はお邪魔なので降りま~す」


 森はナディアに向かい合い、倉木は這いつくばりながらリングを降りていく。




「未経験ですのでプロレスのスパーは無理ですわよ? やるならそれをこ承知で」

「ウォーミングアップは?」

「不要ですわよ」


 ザッ······

 各々パンチスタイル、レスリングスタイルで構えるナディアと森。

 もう始まった。

 

「······」


 僅か十数秒で高まった緊張に周囲は息を呑む。

 倉木と森のスパーリングとは意味が違う。

 これはプロレスラー森と総合格闘家ナディアの試合なのである。

 

 バッ!


 鋭い森のタックル。

 パンチスタイルに構えたナディアの前に出した左脚を見事に捉える。


「決まった!」


 リングを囲んだレスラー達は歓喜に沸く。

 しかし······


「!?」


 全く動かなかった。

 脚に取りついた筈なのに、まるで地面にコンクリートで固定された鉄柱に体当たりをしたかの様であった。


「ほい!」


 ベシャァァァッ!


 背中を抑えられて森のタックルは潰された。

 堪えられもしない。


「う······うぐぐっ」

「フィンガーグローブでもしてればパンチしちゃうんですけど、素手ではこちらも怪我してしまうかも知れませんわ、だからこのまま抑えさせてもらいます」


 動けない。

 まるでショベルカーのアームに地面に潰されているかの様だ。

 

「プロレスルールに乗っとります? はいっ!」


 足掻く森の身体をナディアはかけ声と共にまるで軽い板でもそうするようにうつ伏せから仰向けにひっくり返し、両肩を抑えた。


「フォールしましたわ、ワン!」

「なっ!?」


 そんなバカな!?

 ただ押さえ込んでフォールしようと言うのか?

 だが······返せない!


「ツー」

「ぐぐぐっ!」

「スリー! はい、決まりですわ」


 スリーカウント完了。


「はぁ、はぁ······はぁはぁ」


 パッとナディアに解放される森であったが、ナディアからの圧力を返そうと力を出し尽くし、荒い息のまま起き上がれない。


「さてと」


 終わりましたよ。

 そんな感じで腰に手を当てて立つナディア。

 周囲は余りにも圧倒的なパワーの前に唖然としていたが······

 

「エースの森さんがこんな目に遭って、このままわたくしを無事に返してよろしいんですの?」


 リング上からのナディアの視線を受けたのは、


「ですよねぇ~、それは少し問題ですぅ、しかたがありませんねぇ」


 もちろん倉木であった。

 彼女は困ったような笑顔のまま、よいしょとゆっくりリングに上がったのだった。




続く

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