「スッキリするだろ!?」
午後0時45分。
プールエリアを見渡せる2階テラス。
2つのテーブルに分かれた國定道場の面々+ガッキー。
テーブルに並ぶのはサンドイッチやハンバーガー、ポテト、ピザ、他にも寿司などもある。
「これだけ取ってもタダなんだからスゴいよね! ボクなんかさっきもバケットで貰っちゃった!」
相変わらず琴名の声は弾む。
一人あたりの入場料がプールで泳いで、更に食べられても平気なくらい高いのだが、今回は知里がクイズ番組の商品で獲ってきたのでお得感がある。
「これだけやっといてアルコール類だけ金を取るんやからな、財布持ってきとらんわ」
「未成年もいるんだからアルコールは止めてください」
「ちぇ、わかっとるわ」
食べ物同様ジュース類はタダだが、アルコール類は有料なのにまたもや不満たらたらの真依に優太が注意すると、真依は口を膨らませてピザに噛みつく。
「午前中は見なかったけど、何処で泳いでたの?」
「初めは流れるプールに行って、プールサイドをブラついた後で温泉に行ったよ」
ハンバーガーを食べながらの涼に訊かれた優太は答えた。
ちなみに温泉での最後のハプニングはガッキーに追い付き、香澄と共に誤解であることを説明したのだが、香澄の気迫に圧されたガッキーは涙目でコクコク頷いただけだったので、それがどう解釈されたかはわからない。
「へぇ~、あんまり遊んでないのね? スライダーとか面白そうよ、後で一緒に行く?」
「スライダーか、あそこに見えるグルグル回ってるヤツだね、いいよ、後で行こうか」
涼の誘いに頷く優太。
プールエリアの中央に見えるスライダーはきっとこのスパのメインに違いない。
「あのスライダーはカップルは2人で滑んねん、涼と優太もそういう関係やったんか? やらしいわぁ」
「んなワケないでしょ!? やらしいのはアンタよ!」
「ホントかぁ~? 優太君は巨乳好きやからな、涼の90センチは魅力やと思うで?」
「裏拳貰いたい?」
「ひゃ~、やだやだ!」
優太と涼の間に入ってきた真依に涼は拳を挙げながらジト目を向けと、真依はわざとらしく頭を抱えてフルフルする。
まだ詳しくは知らないが真依と涼は腐れ縁といった風の仲に優太には見える。
ギャンブルで借金を抱えた真依をプリンセスドリームとの対抗戦が決まり、仕度金が入って直ぐに借金返済を提案したのも、迎えに行ったのも涼であった。
「でもカップル云々はともかく、あのスライダーは2人で滑るとスピード上がって面白いらしいよ、私も後でガッキーやチーちゃんと滑ろうかと思っていたんだ」
「へぇ~、そうなんだ、危なくないの? 2人でグルグル回るスライダーでぶつかったりしたらケガしない?」
もう1つのテーブルから琴名に声をかけられ、涼は頬杖をしながら首をかしげたが、
「あのスライダーは滑る専用のボートに乗るから平気だよ、ちゃんと2人用もあるらしいから」
と、説明をされると、優太に振り返り、
「じゃあ、試しに2人でいってみましょうよ······カップルじゃないけどね」
そうウインクを向けてくる。
「もちろん、いいよ」
カップルじゃない、と言われてしまったのが微妙ではあるが、嬉しい誘いに優太が頷くと······
「じゃあ、涼の次はわたくしとも滑ってくださいます? わたくしもスライダーいきたいですわ!」
不意にナディアがヒョイッと優太を覗き込んで来る。
「ナ、ナディアちゃん?」
それに少しビックリしていると、
「そ、その知里も······スライダー乗ってみたくて、琴名ちゃんと乗った後でも優太さんと、ご迷惑でなければ」
モジモジしながらの知里。
美少女3人からの誘いはもちろん男としては光栄であったのだが、気恥ずかしくもなってしまう。
「あ、うん、うん、2人ともわかった、まずは涼からだね」
まずは先約からと向き直ると、
「モテる男はたいへんねぇ、わかったわ、ご飯食べたら早速行きましょう、楽しみにしてるね」
と、涼は笑顔で優太に軽く手を挙げてくる。
『チーちゃんはもちろん、ナディアちゃんも······そして涼も抜群にカワイイよなぁ、そんな3人からスライダーを一緒に滑ろうとか言われるとか、俺は何か自分を誤解しているのだろうか? それとも······』
幸せな展開にやや夢うつつになりかける優太だったが、傍らにいた香澄のやや冷めた瞳と目が合い、
「そんなにスライダーに乗りたいなら、私がそんなのに乗らずに真っ逆さまにしてやるんだがなぁ、色で浮かれた頭もそれでスッキリするだろ!?」
と、呟かれてしまい、背筋に冷たい物が走るのを覚えてしまったのであった。
続く




