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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「パフォーマンスとかじゃなく」

「やったわね、ナディア!!」

「もちろんですわ、まさにわたくしの持ち味いかした戦いだったでしたでしょ!」


 優太と真依と一緒に控え室に帰還したナディアは待っていた涼とハイタッチを交わす。

 

「みんな唖然だったよ、格闘技の試合じゃ観ない決着だよね、場外に放り投げる、ホントにサイコーだったよ!」

「うふふふ、もっと誉めても宜しくてよ、でもまだ戦いは続きますわよ、皆さん油断なさらないように」


 格闘家にとっての最高の褒美である勝利を獲たナディアは羨望の眼差しを向けてくる琴名に上機嫌だったが、気を引き締める様に控え室の隅に正座する香澄に視線を向けた。

 ナディアの勝利にも彼女は全く様子を変えない。

 黒袴に道着姿の相変わらずの出立ち、うなじの辺りで紐で縛り背中の辺りまで垂らした美しい黒髪。

 閉じられた切れ長の瞳。


「香澄ちゃん、そろそろ入場だよ」

「わたくしはもうお役御免ですから、今度はわたくしがセコンドに付きますわよ」


 優太とTシャツ短パンに着替えたナディアが呼びかけると、ユックリと立ち上がる香澄。

 それと同時に何か黒い布で包まれた棒状の何かを右手に握っている。

 今まで香澄がそういう物を持っていた記憶は優太にはない。


「香澄ちゃん、それは?」


 その問いを一旦は無視して、廊下に出た香澄だったが、


「これはこれからの試合を面白くする小道具だ」


 と、妖しげに口元を緩ませ振り返った。





≪さぁ、次鋒戦! プリンセスドリームは身体は小さいが剣道では九州一にも輝いた経歴を持つポニテアイドル剣もとか! 今回はオープンフィンガーグローブでの総合ルールですが、剣道の経験を活かした打撃を開発してきたらしいです!≫


「頑張りますっ!」


 ショートポニテに剣道の胴着と袴という格好は香澄と似てはいるが、その身長は香澄より遥かに低い。


「ちびっ子元気娘もとか、ファイト!」

「俺の嫁、頑張れ!!」

「もとかちゃん!!」


 騒ぐファン達、中には旗指し物すら振っている者すらいる。


≪対しますは、国内柔術道場の名門中の名門、陣内流総本家のエリート娘、陣内香澄!!≫


「やっぱ美人だよ!」

「170はあるな、モデル体型だ」


 カメラの香澄のアップにも再び声が上がる。

 やはりアイドルファンである、美人が嫌いなわけがない。



「両者、中央へ!」


 レフェリーが両者をリング中央に呼ぶ。

 剣もとかはすぐにそれに応じたが、香澄は例の黒い布に包まれた棒状の何かを持ったまま、コーナーから動かない。


「!? 陣内香澄、早く中央へ」


「香澄ちゃん?」


 その不可解な行動にレフェリーもセコンドの優太も思わず香澄を見つめてしまう。


≪どうした、陣内香澄?≫


 会場の観客達がざわめき出すと、香澄はおもむろにポイと棒状の包みを剣もとかに投げて寄越したのだ。


「えっ?」


 一瞬身構えたもとかだが、それを見事に受け止める。


「レフェリー! これを有りにしてあげてくれ、そうでないとあまりにも彼女が可哀想だ」


 香澄が大声で告げ、包みが解けて中身が露になる。

 そこには一本の竹刀が見えていた。


「な……」

「どういう?」


 もとかもレフェリーも唖然とする。


≪こ、これはどういう事だ!? 陣内香澄、用意した竹刀を剣もとかに渡し、レフェリーにこれを有りにしてあげてくれと要求しているぞ!!≫


「面白いなぁ~、あの姉ちゃん! ねぇチーちゃん、道場にはあんなに面白い人ばかり?」

「えっ……と、香澄さんは本気でやっていると思います、パフォーマンスとかじゃなく」


 赤垣杏子に話を振られた知里はやや困ったような笑み。

 会場はブーイングと歓声の半々で沸き上がった。


「もとかをバカにするなっ!」

「もとかちゃん、そんな女駆逐しろ!」

「カッコいいぜ!」

「竹刀使っちゃえっ!」



「おい、陣内香澄、パフォーマンスもいい加減に……」


 レフェリーが注意するが香澄は気にしない様子でコーナーに背中をかけ、セコンドのナディアがいつの間にか実況席から持ってきたマイクを握った。


「ナ、ナディアちゃん、いつの間にマイクなんて!?」

「あら? 優太さん、鈍いですわね、わたくしはおそらくこんな事をすると思ってましたわよ」


 用意の良さに驚く優太に歯を見せて笑うナディア。

 香澄はマイクのスイッチを入れると、軽く二回ポンポンと叩いてから、声を上げた。


「観客の皆さん、聞いてほしい! 彼女、剣もとかは格闘技の素人だ、剣道をやっていたとはいえ1ヶ月そこらの総合ルールの訓練で私の前に立つのは無謀というより勝ち目が一分も存在しない無駄に等しい、だから彼女に竹刀を持たせて竹刀有りのルールにこの試合を変えさせてほしい! そうでなければ私は闘えないのだ、ただの素人に陣内流は行使できない!」


 香澄の言わんとする事が場内に響くと、ブーイングも歓声も訳が分からない程にマックスを迎える。


≪こ、これはなんという展開! もちろん許される筈かないぞ、これは総合ルールだ、何を考える陣内香澄!?≫


「黙れ実況! 私は彼女をバカにしているとか舐めているとかで要求している訳じゃない! 相手に確実な実力のあるバックボーンがあるのにそれを封じて闘わせる、そんな卑怯は陣内流には存在しない、これが呑まれないなら私は降りる!」


 香澄はそう言うと、マイクをリングサイドのプロデューサー席に腕を組んで座る男に投げた。

 パシッとそれを受け取ったのは今回のイベントのプロデューサーであり、プリンセスドリームを創った男Pである。


「……君はなんという」

「あなたもプロデューサーなら、愛するアイドルの最大のピンチに最高の能力を発揮させるのが使命な筈、残念ながら私には剣道の経験を活かした打撃とやらでは無駄死に確実、第一にそれでは私が降りてしまう、どうするんだ?」


 深い息を吐くP。

 ルール無視の行動に香澄は全く悪びれない。


「やってる事が悪役レスラーですわよ」

「全くだね」


 ナディアに同意する優太。

 こんな条件を事前ではなく、この場で申し付けるのもひたすら悪役レスラー並みである。

 しかし……その条件というのは剣もとかには願ってもない武器を手に出来るという内容では、一方的に香澄を責める声が上がりようがない。


≪さぁ、これにどう答えるプリンセスドリームP!≫


「もとか……」


 Pは竹刀を持ってリング上に立ち尽くす彼女を見つめる。

 もとかも迷いの顔を浮かべていた。

 これまでの彼女は剣を手に闘ってきたのだ。

 もちろん1ヶ月そこらの練習の総合ルールより遥かに自らの能力を全快に奮える。



「よし! お前の最高の武器を使えっ、プロデューサー権限により次鋒戦は陣内香澄の申し出通り竹刀有りルールに変える! いけっ、もとかっ!!」


 Pが力を込めて告げると、もとかの表情から一切の迷いが消え去った。

 竹刀の柄をグッと握り締めると、


「はいっ! プロデューサーのおっしゃる通りにっ!! もとかはプリンセスドリームとプロデューサー、そしてファンのみんなに勝利を捧げたいですっ!」


 もとかは叫んで竹刀を大上段に構える。

 その構えは小さい身体を大きく見せるほどに堂々としていた。

 まさかのルール変更。

 まだ試合が始まってもいないのに会場には何度目かの歓声が巻き起こる。


「剣もとか、参るっ!!」

「それでいいっ、付け焼き刃の格闘技が頼りだったさっきよりも遥かにいい顔をしているぞ、剣もとか!! 陣内香澄、応ずるっ、こいやぁぁぁ!」


 歓声がまだ鳴り止まぬ中、剣士と柔術家はリングの中央で相対したのである。




続く



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