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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「なるほどですわぁ~」

≪さぁ、姫乃木美姫がリングイン! 先に入場を終えていたナディア・ウェスティンを見つめます!!≫


 黒髪ショートカットの空手着の姫乃木美姫がリングインすると観客からは応援の声が溢れんばかりに注がれる。

 リングコスチュームのナディアは優太と真依をセコンドにコーナーに寄りかかっていた。


「両者中央へ!」


 レフェリーの呼びかけに二人はリング中央へ。

 169㎝のナディアに対して美姫は165㎝であるからそこまでの身長差はない。

 見た目は豪奢な外人女子レスラー対硬派女子空手家。

 オーロラビジョンが二人を映し出し、いよいよという雰囲気が神女コロシアムを包む。

 対戦発表から宣伝番組、期待と興味を煽り、狙い通りの注目を集めたイベントがいよいよ現実に始まろうとしていた。


「では両者良いファイトを!」


 オープンフィンガーグローブ着用による簡単なルールの説明を終えたレフェリーに分けられ、ナディアは青コーナーに戻ってくる。


「ナディアちゃん、大丈夫だよ、頑張れ!」


 セコンドの優太が声をかけると、


「優太さん、派手に片付けたらデートしてもらいますわよ、神女デパートではできませんでしたから!」


 ナディアはゴングと同時にウインクして、眼光鋭く姫乃木美姫に振り返った。




≪さぁ、はじまったぁ!! すごい歓声、今日は解説に最年少柔道金メダリスト赤垣杏子さんと國定道場格闘女子応援団を務められてます国民的アイドル夏目知里ちゃんを招いています!≫


「……!!」


 試合開始直後。

 ナディアは眼を見張る。

 姫乃木美姫は様子見をしなかった。

 ガードを固めたまま、いきなり制空圏に飛び込んできた。


≪速いいいっ!≫


「せいやぁぁぁぁぁ!!」


 実況が杏子と知里に挨拶を促すよりも速い姫乃木美姫のオープニングアタックは右のローキック。


 バチィィィィンッ!


「チッ……」


 十二分のスピードと威力を感じさせるローが左ももを捉え、ナディアはその衝撃に舌打ちする。


「ハァァァァァァッッ!!」


 続くは甲高い声に上げながらの左右のワンツー。


「……!!」


 ナディアの顔面が浮いた。

 見事なクリーンヒット。

 美少女ナディアの頬が歪み顔が逸れる。

 

「ナディアちゃんっっっ!!」


 いきなり予想外過ぎる展開に叫ぶ優太。

 だが、その声は初っぱなからボルテージが達した客席の唸り声に呑み込まれる。

 姫乃木美姫の打撃はアイドルのそれではない。

 

「ちぇりぁぁぁぁぁ!!」

「ブッ……」


 右正拳突きがナディアの豊満な胸の中心にめり込むと、ナディアは肺の空気を吐き出すような呻きを出した。


≪これは、これは美姫の空手が炸裂!! KO目前!!≫


 更に左のロー、左フック、右ストレート。

 神速の如きスピードの連打をナディアの脚と顔面、脇に叩き込むと……姫乃木美姫はサッとバックステップして、ナディアとの距離を取った。

 

≪スゴイ、スゴイ、凄すぎるっ!!≫


「ハァハァハァッ!」


 連打の猛攻を終え息を整える美姫。

 神女コロシアムは大歓声だ。

 

「ナディアちゃん!」


 ダメージを心配する優太の呼びかけ。

 ナディアはユックリと顔を上げた。


「なるほどですわぁ~」


 腰に両手を当て満面の笑顔で立っている。


≪な……!?≫


「な……!?」


 実況とハモってしまう美姫。

 何が起こったかわからない。

 歓声はシンと止んだ。


「悪くはありませんけど、わたくしにダメージを与えるには重さがまだまだですわぁ!」

「ナ、ナディアちゃん?」


 強がりではない。

 ナディアのノーダメージは本当だと優太が驚愕すると、


「相変わらずのフィジカルモンスターぷりやなぁ、ナディアはその辺がチートやねんて、当たり所がなんだろうが、あの打撃威力じゃナディアにはマッサージやな」


 一緒にセコンドに付いた真依が上機嫌にクックックと腕を組んで肩を揺らした。

 


≪バカなっ! 美姫の打撃は効いていなかったのかっ!?≫



「今度はこちらがいきますわよぉ~」


 動き出すナディア。

 ステップも何もない、両手を広げてユックリと獲物に向かって歩み寄る。

 


「はぁ、はぁ、あう……う、う」

「熊に襲われた少女やな、まさに」


 後退りする美姫に真依が愉しげに言った。

 優太もそれには同意である。

 息が切れるまで全力の打撃を叩き込んだ筈なのに、相手に全くダメージを与えられなかったのだ。

 その顔には本物の焦りが浮かんでいた。

 

≪美姫、後退、下がりますっ……ユックリと歩み寄るナディア・ウェスティン!≫


「う、うわぁぁぁぁっ!」


 気合と恐怖の入り雑じった雄叫び。

 美姫は身を翻し、見事な回し蹴りを放ったが、


「はいさっ」


 それをいとも簡単にナディアは見切り、蹴り上げられた左足首を掴んでしまったのである。


≪と、取ったぁ!? あのスピードの蹴りを!?≫


「ええっ!?」

「もらいますわよ、はいっ!」


 絶句する美姫の足をナディアは引いた。


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 美姫の恐怖の叫び声が響く。

 ナディアは美姫を引っ張り混むと、まるでラウンドガールがラウンドのかかれたプレートを掲げるように美姫の身体を高く持ち上げてしまったのである。


≪す、すごいっ! 何だ、この力は!?≫


 沸き上がる大歓声。

 ナディアは勝ち誇った顔で美姫をまるで捉えた獲物の様に高く掲げている。


「は、はなせぇっ!」


 バタバタと暴れる美姫だが、ナディアは彼女の様子など気にせずニヤリと笑い、


「フィニッシュ!!」


 いきなり投げ捨てた。

 真下に叩きつけるでも落とすでもない。

 ナディアは美姫の身体をブンと、リングサイドの観客席に向けて投げ捨てたのである。

 まるで人形を軽く投げたかのような飛距離で人が飛ぶ。


≪うそだぁぁぁぁぁぁ!≫


 あまりにも信じられない光景。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 悲鳴と共に宙を舞い、放物線を描いて観客席に飛び込んだ美姫は何人かの客を巻き込んで倒れ込み、ピクリとも動かなくなったのだった。



「…………」



≪…………≫



 静まり返る神女コロシアム。

 レフェリーも実況も誰も言葉がない。

 目の前で見せられたのは超難易度でも超高速の技でもない、単純極まりない投げだ。

 しかし、そこには真似が出来ない要素が存在する。


「んっ!」


 ウインクして右の腕で力こぶをつくるナディアがオーロラビジョンに映し出されると、神女コロシアムの観客達はようやく自分が何をすべきか思い出しかのように大歓声を上げたのである。



≪スゴイッ、スゴイッ!! 圧勝、圧倒! なんという筋力の持ち主だ、ナディア・ウェスティン!!≫

 


 レフェリーに勝ち名乗りを受けて、怒濤の歓声と共にリングを降りてくるナディア。


「やったね、ナディアちゃん!」


 駆け寄る優太に、


「これでデート決まりですわよ」


 ナディアはやや上気した顔でニッコリと笑いかけてきたのであった。




 続く

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