「生で聞くなんて、死んでも良い!!」
神女コロシアム。
臨海副都心に立つこのスタジアムは、国内最大級の神女財閥が運営する多目的スタジアム。
収容人数12000人という規模で、有名歌手のコンサートも良く行われ、格闘技ファンからは聖地とも呼ばれている。
国内ナンバーワンアイドルグループ「プリンセスドリーム」の格闘技戦という触れ込みで始まったイベント。
当初は色モノと見る者が多かったが、涼と河内いずみの試合がネットで流れると、演出の無い本物が行われるんじゃないか? という意見が出始め、番宣番組でプリンセスドリームのメンバーの本気度がアピールされ、チケットは彼女達のコンサート同様数分でソールドアウト、プラチナに化けた。
もちろん地上波では無いが、専門の格闘技チャンネルでも放映する予定があり、人気があるならと長い下火を続けている格闘技マスコミも仕方がないといった感じでそれに飛びつき、いまや注目のイベントとなっている。
「会場の皆様、大変長らくお待たせしました、これよりプリンセスドリーム企画、ドリーム格闘技部VS國定道場格闘女子の5対5総合格闘技マッチを行います!」
スポットライトを浴びたリングアナウンサーがイベントの開幕を告げると、歓声がそれに応える。
「それでは東ゲートより、プリンセスドリーム格闘技部の入場です!!」
会場に流れるアイドルソング。
観客達は一気に沸き上がる。
曲はもちろんプリンセスドリームのヒット曲。
リングサイドに続く東側ゲートよりマイクを持った十数人の多士済々の美少女アイドル達が現れると、更に観客のボルテージは上がる。
客のノリが格闘技の会場ではない。
「まずは格闘技部の応援に駆け付けてくれた応援チームが出てきてくれました、続いては今日闘うプリンセスドリーム格闘技部の入場です!」
現れたのはレディースの白の特攻服に身を包んだ唯を先頭に4人の美少女達。
ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、正面を睨み続ける唯と、リベンジに燃える表情の河内いずみの姿がオーロラスクリーンに映し出されると、
「唯姐さん! 頼んだぜ!」
「いずみちゃん、今度こそ頑張れ!!」
惜しみ無く送られる声援。
それは格闘技部の5人がマットに上がっても止まなかった。
「あっちゃ~、わかってたとはいえ完全アウェイや、テレビはともかくチケットは完全にファンイベントやもんなぁ」
西側ゲートに続く廊下でホールを覗きながら苦虫を潰した様な顔をするのは真依。
「これはブーイング来るね」
特に緊張した面持ちで呟く琴名。
彼女からは控え室での笑顔が無くなっている。
「声援で張り切るのは良いが、ブーイングくらいで意気消沈していたら格闘技者失格だぞ」
「そうそう気にしなけりゃ良いのよ」
「ですわ、様は試合ですのよ」
一応はプロの試合の経験者である香澄、涼、ナディアは口ではそう言うが、皆が大会場での経験は無く、各々プレッシャーは受けている様子だ。
「みんな、気にしないで行こうよ」
「優太、ありがと」
優太の言葉に涼は笑顔を見せ、全員は首を縦に振るが、やはり格闘技試合の初経験である琴名等は、初試合から大会場でのアウェイというのは相当にキツく見える。
『安東さん以外は、と正直に思っていたけど、格闘技の試合のアウェイは案外最大の敵になりかねないぞ!?』
大会場の油断ならぬ雰囲気。
優太が唇を噛んだ時である、廊下をタッタッと軽い足取りで駆けてきた一人の美少女が、國定道場格闘女子の先頭に立つ。
「え?」
「チーちゃん!?」
「放送席じゃないの!?」
驚く格闘女子達に知里は、
「いえ、リハで観てからプロデューサーにどうしても皆さんの応援をやらせてくれと頼んできたんです、でもプリンセスドリームの入場の間もコメントしないといけなかったから、それが終わってから放送席からここまで移動するのが少し辛かったですけどね」
と、いつもの癖である舌をペロの仕草を見せる。
「チーちゃん……」
「観客の皆さんはプリンセスドリームを応援している方が多いとは思いますけど、もちろん知里は皆さんの応援団です」
「う、うんっ! そうだよね、ボクにはチーちゃんがついてるよねっ!」
不安げな顔を見せていた琴名も知里に励まされると、見てわかるくらいに表情が明るくなる。
「そうですわよ、格闘技は後に入場が格上、それは芸能界もしかりでございましょ? 集団より一人で国民的アイドルしてる知里さんが格上なのは当たり前ですわよ!」
「道理だな」
ナディアの言葉に同意する香澄。
マイクを持ち笑顔のまま知里はコクリと頷くと、ゲートに向けて歩き出す。
「それでは……西側ゲートより國定道場格闘女子御一行様の入場です!」
起こり始めるブーイング。
それはかなりの規模だったが……
「誰よ、國定道場格闘女子御一行様とかにしたの?」
「ウチやウチ、格闘女子軍団って言うのも物騒やろ? 番組の方に伝えといたんや」
「勝手な事を……」
「明るくて良いよ」
「気に入りましたわ」
もう格闘女子達はブーイングなど気にせず、紹介の名称の事などを話している。
それもそうである。
もう彼女たちは知っている。
優太も知っていた。
醜いブーイングも数秒後には、きっと消え失せる事を。
「なんだ!?」
流れ始めるあまりにも有名なアイドルソングの前奏。
会場にざわつきが広がり始める。
「あれ? これ……」
「夏目知里の?」
「嘘だ、来る分けねぇよ、流れてるだけだろ?」
「いや待てよ、夏目知里って、高杉涼といずみが闘った時のプリトレに出てなかった?」
「そういえば……」
「皆さん、こんにちわ、夏目知里です」
西側ゲートからマイクを持った知里が歌声を響かせながら現れると、会場のブーイングは予想通り消え失せ、大音響の歓声が神女コロシアムを支配した。
ペコリと行儀良く頭を下げるのも、コンサートのいつもの知里と同じ。
「マジかよ!? スターダストメモリアルじゃんかぁ!!」
「滅多に歌わないヤツだ!」
「国家斉唱!!」
「生で聞くなんて、死んでも良いっ!!」
興奮する観客達。
夏目知里「スターダストメモリアル」。
当時無名のアイドル夏目知里を一気にスターダムに押し上げた国民的なヒット曲。
空前絶後の売り上げを記録し、その後に出した曲も大ヒットのレベルであるにも関わらず、知里のアンチファンなどが彼女を無理矢理に一発屋と呼ぶ原因にもなっている程。
ちなみに知里はこの曲をあまり歌わないとも知里ファンの間では言われていて、コンサートでも歌わない事があるのは知里個人がこの曲を嫌っている節があるという噂もある。
「さぁ、チーちゃんが行ってくれたんだから、私達も堂々と敵地に乗り込むわよ!」
もうブーイングは聞こえない。
涼の激にオーと拳を上げて、國定道場格闘女子達は力強くゲートに向けて歩き出したのだった。
続く




