「そりゃそうだけどさぁぁぁぁぁぁ!!!」
夕方。
道場の最寄り駅から各停で数駅。
都内であるが何処か都心と違う雰囲気の街がそこにはあった。
下町情緒とか田舎とかそういうのんびりした感じではなく、どことなく如何わしい駅前だった。
「あ、あのさ……ここは?」
「え、まぁ、女の子が沢山いる男の人が好きな駅前よ、向こうには無かった?」
キョロキョロする優太に涼が振り返る。
「な、なるほどね……で?」
「この辺りで働いてんのよ、うちの道場の一人がね」
「な……なっ!?」
連れてこられた街から何となく予想はついていたが、思わず声を出してしまう優太。
気がつけばいつの間にか周囲にはその手のお店で働く為に出勤する女性達と、彼女らのお客になるであろう男達が雑踏を作っている。
「そういう事ですか……」
「わかった? じゃあ仕事しているお店に行くわ」
「う、うん」
歩き出す涼に優太はまた着いていく。
数分も歩かないうちに涼が脚を止めた。
小さな雑居ビル。
そこには「スッポンダービー」と、書かれた派手な看板。
「この店よ、多分いるだろうからちょっと待ってて」
そう告げると涼は店の裏に回っていく、
「あ……俺も」
こんな店の前で待たされても、優太は涼の背中に声をかけたが雑踏で聞こえなかったのか、涼はさっさと行ってしまった。
「ま、まぁ、いいか……俺には聞かせたくない話をするのかも知れないしな」
後に付いていこうとしたが止めた。
人には色々あるがこういう店で働くのだから、その女の子には何かしら事情がある可能性がある。
「しかし……スゴい店名だ、スッポン、ダービー、スッポン、スッポン、にっぽん、にほん……日本ダービー」
ブツブツと電飾の点いた看板を見上げていると……
「はい、いらっしゃい! 今日はお客さん連れて出勤! いやぁぁぁんダーリン!」
「えっ?」
全く気づかなかった。
背後から優太は左手を捕まれ、バランスを崩すとそのまま前のめりにつんのめったまま、今度は右手を引かれて店の入り口に引き込まれたのだ。
「ええええっ!?」
抵抗出来なかった。
力で引っ張られたという感覚はない、不意に左手を引かれバランスを崩して反対側に立て直そうとしたが、今度はその立て直そうとした力を右手を掴まれて利用された様に前に進まされた。
「こんちわ!」
「え!?」
優太を引っ張ったのは女の子、いや若いがハッキリと成人と判る女性だった。
165㎝はある身長。
首にかかるくらいの髪の毛先を少しだけカールして上げた薄い栗色に染めた髪形。
二重瞼に高い鼻、薄い口紅の形のいい唇。
ハッキリ相当な美人だ。
「君、判るよ、こういう店は初めてなんやろ? オネーさんが初めての手解きしたるから、な? 明瞭会計やから大人しゅうな」
「ええええっ!?」
関西系の言葉のイントネーション、しかしそんな事を気にする間もなく入店。
入ると直ぐに待ち合い室らしい部屋。
そこにはタキシードの男がいた。
「真依さん、おはようございます! 早速お客さん連れて来たんですか?」
「まぁなぁ、今日の初めてさんや!」
「あ、あのですね!」
「ええやん、ええやん、ウチあんたを一目で気に入ったんや、かわいい声上げさせたるでぇ」
今度はかなり強引だ、引っ張り返すまではいかないが歩みを止めるつもりで優太は腕を引いたが、全く歩みは止められずに、個室にポイと投げられ、そこにあったベッドに倒れ込む。
「さぁ、ここまで来たら観念やで、アンタも嫌いやないんやろ? ウチもそうなんやで、90分一発、いやいや無制限勝負の始まり始まり!」
そういうと真依と呼ばれた美人は黒のボディコンワンピースをスッと身体から落とす様に脱いでしまう。
「ま、待った……待った……まっ」
慌てる優太だったが男の性。
黒い下着に白い肌、そして……
『び、美人だし、滅茶苦茶プロポーションいい!』
息を思わず呑んでしまう。
そのつもりなんて無かったが、ここでお金を払うとこんな女優のような美人と、などと考えてしまう。
「やっと黙ってくれたなぁ、面倒くさいパドックという風呂は飛ばしや! これから真依ちゃん牝21歳のゲートにインしてもらうで、いいレース期待しとるわぁ」
真依は舌なめずりしながら、ベッドに仰向けの優太の上に四つん這いで迫ってくる。
「あ……あの」
「あ、脱がしたいならもうええよ?」
「う……」
無意識にピクリと動く手。
「ええよ? こんな底辺でウロウロしてるの書いてるより、いっそノクターンの方が売れると思うで?」
「う、う……」
「そりゃそうだけどさぁぁぁぁぁぁ!!!」
その時、唐突に部屋のドアが開き、叫びながら飛来してきた涼のジャンピングクロスチョップに吹き飛ばされ、真依は安っぽい造りの店の壁に頭から突っ込んだのであった。
続く




