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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
32/92

「チーちゃんも必死だわ」

 太鼓ゲーム。

 一時期ゲームセンターで圧倒的人気を博したメジャーゲームで優太も鹿児島に出た時にやった事もある。


「へぇ~、なんでこのゲーム?」

「いや……ちょっと空いてたからね、五人の女の子が連続でやっても迷惑になりそうに無いのを選んだよ」


 涼に訊かれた優太が罰の悪そうに答えると、


「ふん……そういう常識はあるんだな、だが太鼓と言えば和、和と言えば私、負ける道理が見つからないな」


 香澄が誇らしげにゲーム機の前に立つ。


「ちょっと待っててね、店員さん呼ぶから」


 慣れているのか琴名が近くの店員にチケットを渡し、一人一回、五回分のクレジットをセットしてもらう。


「これで出来るのか?」

「みたいだね、だけど香澄ちゃん、やった事無いんでしょ? まずは琴名ちゃんか涼あたりに先にやってもらったら?」

「馬鹿者っ!!」


 優太の勧めに香澄は怒鳴る。


「太鼓だぞ、太鼓! 実家にいた頃は食事、入浴、就寝と太鼓の合図で家の者に伝えていた由緒正しい家系だ、祭り事でも太鼓は楽の主役と言ってもいい、それを他人のやり方を見本になど出来よう物か!」

「あ……そうなの、ゴメンね……じゃあ、曲を選ぼうか?」


 これ以上言っても無駄であるし、ツッコミは不要である事が最近になって解ってきた優太は操作方法が解らないであろう香澄に横から指示だけをした。


「では浪曲より玄瑞、蛤御門の舞い!」

「はまぐりごもん? ないよ」

「なっ……では、雅楽奇兵隊!」

「無いね……」

「じゃあ……美剣士田原坂!」

「ゴメン……見当たらない」

「ヒット曲満載とか書いてあるじゃないかっ!?」

「ゴメンっ、俺はどれがヒット曲か分からなかったよ!!」



 知っている曲が無いと怒り狂う香澄に優太も声の張りだけは負けずに言い返す。


「もう……香澄、じゃあ、これね」


 ため息を付いた涼が脇からバチを叩いて選んだのは……


「真夏のランデヴー! これなら解る、解るぞっ!」

「これって……」


 真夏のランデヴーという曲に香澄が反応する、聞き覚えのある曲に眉をしかめる優太に涼が頷いた。


「そう、スゴい古い曲、いわゆる80年代アイドルソングよ、香澄はそういうのか、さっき言ったような曲しかわかんないのよ」

「なるほどなぁ……芸能に興味があるのはゴシップだけなんだねぇ……イタァ!」


 納得する優太の頭に香澄からのバチが命中した。


            ―――


「やったぁ! 圧勝だよっ!」


 ピースサインの琴名。

 結局太鼓ゲームの勝者は圧倒的大差で琴名が1位。

 2位が涼で、3位が知里、そこから大きく離れてナディアが4位で、ビリが香澄であった。

 聞けば琴名は一時期、この手のゲームにはまり込んだらしく、2位の涼は何度かやっただけ、知里は初めてらしかった。

 知里は琴名がアイドル夏目知里の持ち歌を入れたせいで、知里が周囲にバレてしまわないか緊張気味のプレイだったが、珍しい物が見れたのは少し得をした気分に優太はなれた。

 あとの二人は論外。

 ナディアはバチで太鼓の縁を叩いた瞬間に嫌な音が聞こえ、ソッとバチを戻してゲームオーバー。

 店員に告げると、わざとではないし、お嬢さんのような方の力で壊れたなら今までの使用でガタがきてたのでしょうと、笑顔で許された。

 もちろん……誰もナディアの筋力については申し出ず、ナディアを最後にした方が無難という意見をゲーム開始前に告げた涼の先見性に優太は感謝する。



「さぁ、次はどのゲームにする?」

「じゃあ……これかな」


 涼に聞かれた優太が指を差したのはクレーンキャッチャーゲームである。

 中身は大きな箱のチョコレートやマシュマロと色々なお菓子が入っていた。


「クレーンゲーム? わたくしはパンチングゲームで勝負したいですわ、判定が付きやすいですわよ?」

「ダメだよ、ナディアちゃんとかパンチングゲームなんか壊しちゃうかも知れないだろ? それに何を取れたら一番かは俺がちゃんと判定するから」

「そうだね、今度何か壊したら疑われるかもよ、それに体力勝負したらチーちゃんが可哀想だよ」

「ん……まぁ、そうですけれど」


 クレーンゲームのいう筋力、体力が活かせない物に不満を言うナディアだったが、優太の言い分に琴名が同意して知里の事を言い出すと流石に引き下がった。


「でも優太、何でお菓子のヤツなのよ」

「だってさ、お菓子のヤツなら後でフードコートで皆で食べられるだろ? 人形のヤツじゃ好みあるしね」

「なるほどね、私からいきますか!」


 涼も異論が無いようだ、店員を呼んで五回分のクレジットをセットしてもらうと台のガラスケースに顔を付かんばかりに近づけて、縦横のボタンに手をかけた。

 軽妙な音楽が流れてクレーンゲームが始まる。


             ―――


「誰も取れない……」

「予想できた事態ですわ、一回じゃ難しいですわよ」

「取れるのは取れるんだけどね~、大きいのは大抵五回分じゃ難しい」


 並ぶ涼とナディア、琴名。

 三人の挑戦はいかにも取れそうな位置にあった大きなチョコレート菓子の箱をクレーンのアームが引っ掻くようにして軽くすり抜けて終わっていた。

  

「ぐあああぁぁぁっ! 何なんだ、あの軟弱な腕は!? あの力では菓子どころか、スルメ一枚持ち上がらんわっ!!」


 怒鳴る香澄。

 大きなチョコレート菓子は諦め、それよりも小さなスナックを狙ったのだがアームはそれすらもマトモには掴まなかった。


「ゆうたぁ! お前がこんな詐欺まがいの集金ゲームに眼をつけるからだ、切り返し投げで貴様をこの詐欺マシーンに頭から突っ込ませてやるっ!」

「か、堪忍してよ香澄ちゃん、俺だってこんなにアームが弱いとは思わなかったんだ」

「止めなさいよ、もう」


 本気でやりかねない剣幕の香澄に優太が謝ると、涼がため息をついてそれを止める。


「香澄ちゃんもダメたったか、じゃあもうチーちゃんしか居なくなっちゃったね」


 皆の視線を受けると知里はグッと唇を引き締めて……


「ち、知里、頑張りますっ」


 と、緊張した面持ちでクレーンゲームに向き合う。

 生真面目な知里らしいと言えばらしいが、ゲームを楽しむという顔つきではない。


「もうチーちゃん、気負っちゃって……誰も取れなかったら優太のせいになると思っているから尚更なのよ」

「ざ、罪悪感半端無いよ」


 涼の言い様に頭を垂れる優太。

 集中した様子でガラスケースの中を見ていた知里は遂に意を決して、縦横の移動ボタンに手をかけた。


「い、いきますっ!」

「頑張れチーちゃん!」


 琴名の応援を受けて、まずはクレーンを横移動させ、続いて縦移動させる。

 狙いは大きなチョコレート菓子だ。

 アームが開いて下がっていき、チョコレート菓子の箱を掴む。

 もちろん、ここまでは失敗した涼達も出来た事。

 これを持ち上げるアームの力が弱いのだ。

 しかし……今度は上がった。


「やった!」

「わたくしの時は上がらなかったのに!?」


 喜ぶ琴名と驚くナディア。


「やるな知里……アームの先が菓子箱の開封口の隙間に嵌まっているんだ、だから上がったんだ」

「香澄もある意味すごく真面目ね」


 腕を組んでそれを格闘技の試合のテンションで解説する香澄に涼が感心する。


「や、やりましたぁ」


 喜ぶ知里。

 だが香澄は挟まってと表現したが、正確にはちょっとアームの先が開封口に引っ掛かった程度で持ち上がりはしたが、チョコレート菓子箱はフラフラして落ちそうだ。

 クレーンゲームは景品を持ち上げたら獲得できる訳ではない、クレーン作業の様に運んで、受け取り口に通じる穴に落とすまで出来なければならない。


「あ、あと少しです、頑張ってクレーンさん!」


 両手を合わせて願う知里。

 だが無情、あと少しの所でアームは引っ掛かった開封口からスルリと抜けて……

 受け取り口に続く穴に箱の半分近くを張り出した状態の場所に落ちてしまったのだ。


「あ~、あ~、惜しい!」

「あと一秒持っていれば」


 ナディアと香澄が悔しがる。


「これは取った事にならないかな!? 半分くらい穴に箱が落ちそうになってるよね!?」

「ん~どうだろ? 穴に落ちている訳じゃないからね、穴に落ちて箱の大きさのせいで引っ掛かったのなら、ゲットした事にしてくれるだろうけど」


 ケースを悔しそうに覗く琴名に涼が複雑な顔をする。


「優太さん、すいませぇん」

「いやいや、チーちゃんが謝る事なんて無いよ、俺がこんなアームの弱いクレーンゲームを選んだからいけないんだから」


 情けない声を出す知里に、優太は慌てて手を振る。

 知里に落ち度は全くない。

 クレーンゲームの難易度から見れば全員失敗は十二分に考えられるのに選んでしまった自分が悪いのだ。


「そうだ、やはり優太が悪い、全員失敗はノーコンテストじゃないか、無駄な時間を通わせおって、詫びとして昼はグルメコートの高級鰻店鰻天の特上六千円を全員に振る舞うのだ!」

「ムリムリムリムリ!」


 昼を奢るは仕方がないがそれは出せない、香澄の利己的な要求に首を振る優太を知里は申し訳なさそうに観ている。


「こっち、こっち!」


 そんな所にいつの間にか何処かに行って帰ってきたのは琴名であった、後ろには店員を連れてきている。


「こ、琴名さん!?」

「ほら、店員さん、これ落ちてないかな?」

「ええっと……」


 若い男子店員は判断に迷っていた。

 落ちていると言うより落ちかけているだが、ここまで来ていたら無下にも出来ないという状態だ。


「あの……どうでしょうか?」


 こうなったら頼むしかない。

 男子店員を見つめる知里。


「あっ? あれっ!?」


 眼鏡に帽子をしてはいるが国民的なアイドルだ、男子店員が声を上げると、


「気づいた? まぁ、握手とサイン位は良いかな?」


 琴名はニヤリと笑った。



            ―――



「卑怯だ! 無効だ、無効!」

「ですわ、ですわ、ですわ!」

「店員さんが落ちた、と言ったんだからオッケーだよ、チーちゃんだってあそこまで持っていったんだからね、この勝負はチーちゃんの一人勝ち」

「すいません、すいません」


 抗議する香澄とナディアに琴名は取り合わず、知里はペコペコと頭を下げている。

 結果は知里の一人勝ち。

 順位としては一位が知里で、他の全員が二位。

 平均順位が判定基準なので知里はそう有利になった訳ではないが一人勝ちは一人勝ちだ。


「謝りながらも無効は認めない、チーちゃんも必死だわ、店員さんに握手もサインもしたんだから」


 涼は知里には聞こえないように優太の横で肩を竦めたのだった。



                           続く

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