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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「総合百貨店なる幻想城」

 朝陽。

 就いている職業や個人の事情などで色々あるが、それが昇ると一日の始まりという人間は多い。

 部屋に照りつけてくるそれに優太は目を擦る。


「やっぱそっちの窓はカーテン買わないといけないなぁ」


 管理人室の東向きの窓には何故かカーテンが無い、カーテンレールはあるのだがカーテンが掛かっていなかった、朝陽に起こされる度にそれを思う優太だったが、今まで何となくタイミングが合わずに実行できずにいた。


「おはよう、朝ごはん出来たよ!」


 襖が開き元気の良い声。

 布団から顔を出すとパジャマ姿の琴名が立っていた。

 國定道場の最年少の彼女が朝夕の食事を担っている。

 各人で当番制の話も出たが、料理は掃除とは違い、どうにも担当者の腕の差が出やすく、結局は琴名が担当する事が無難で本人も納得している。

 その代わり他の事は残る住人の担当だ。

 新しい入居者である知里も料理は出来るらしいが、何よりも国民的なアイドルの独立したてで彼女は忙しい。

 普段なら自分の部屋以外の掃除などは管理人の仕事なのだが、國定道場の格闘女子達は入居者は内弟子的な側面もあるとなっており、祖父が管理人を勤めている時からの決まりで家事などは彼女達もしている。

 だいたい祖父は引退した身とはいえ、経済界に多大な影響力のある身だった、管理人といっても都会から少し離れた場所に住み込みはしていなかったのでこうなっているのだろう。

 代わりに國定道場の家賃は一応都内の割にはかなり安い部類に入るし、何よりも食費込み、その上にかなり立派な道場や練習器具も揃っており、近隣からくる道場生に師範代として教える涼や香澄、ナディアは幾ばくかの師範代の収入も得ているというメリットもあった。


「起きなよ~、布団も干すよ、休みだしね!」

「あっ……」


 布団をどかされ、転げる優太。

 ここでベタなら男の朝の生理現象を見つかるのだが、そんな事は無かった。

 毎朝そうなっている程、優太は精力絶倫ではないし……欲求不満にならないようにキチンと……


「うわぁぁぁぁっ!?」

「げええぇっ!?」


 どかした布団の裏から出てきた雑誌に琴名が悲鳴を上げると、優太もそれに合わせてしまう。

 もうひとつのベタな展開がそこには待っていた。





「もうっ……優太さんのヘンタイッ!!」

「その通りだ、言わずとも判明していた事実」

「まぁまぁ、優太さんも男性なんですから」


 居間での朝食。

 頬を膨らませながらご飯を掻き込む琴名に香澄が平然と同意し、知里がそれをなだめる。

 女五人、男一人の圧差。

 管理人にも関わらず優太は申し訳無さげにチマチマと釜炊きのご飯を食べている。


「で、どんな本でしたのよ?」

「あんたねぇ……」

「あら? それは重要ですわよ、さぁ琴名さん本の題名を!」

 

 下世話な事を訊ねるナディアに涼がジト目をするが、追及の手は緩まない。


「無理矢理巨乳ハンター、アイドルだって、人妻だって、そんなのカンケーね~」

「ブーッ!!」


 ポツリとだが、確実に答えた琴名に朝の食卓が見事というほどに倒壊する。

 豪快に噴き出される味噌汁。


「き、貴様はやはり強姦魔だったんだな!?」

「ちょ、香澄、朝から放送コード引っ掛かる様な事を言わないでよね!」

「そ、そんなんじゃないよ、たまたま買った本の特集がそうだっただけで」


 味噌汁をやや噴き出した後で立ち上がる香澄。

 その言葉の過激さを涼が睨む。

 しどろもどろに弁明をしたが……歯を食い縛り、諦めたようにため息をつく優太。


「すいませんでした」


 宜しい、とばかりに頷く格闘ガールズ。

 知里だけが優太に同情の苦笑。


「ここは仕切りが襖だから、これからはこういう事が無いように優太は人に入ってこられたく無い時は今はダメの札を部屋の前にかけておくとかすれば?」


 涼が提案してくるが、


「ダメの札が架かっている時は優太さんは私達に見られたくない秘密のコトをしている時なんですわね!?」


 ナディアがニタニタ笑うと、マズイ提案をしてしまったと口をつぐむ涼。

 おそらく好意で提案したのだが、結構名門の女子大生という割には涼はたまに抜けている。


「も、もういいよ……その……そうだ、俺、今日は電車でちょっと総合百貨店行ってくる、何か買ってこようか?」

「どこ行くんですか?」

「神女【かんなぎ】デパート、ほら下の街の駅から幾つか行った駅前に出来たって、何でもあって、幾ら以上の買い物は確か当日中に家に届けてくれて便利らしいよ、カーテン買いたいんだよ、他にも見たい物もあるしね」

「神女デパートかぁ、私も行きたいなぁ、とにかく広くて何でもあるらしいねぇ!」


 雰囲気を変えないと、優太の切り出した話に知里や琴名が参加してくると、


「私は今日はモデルの仕事も講義も無いし、優太に付き合おうかなぁ~」


 涼も箸を少しくわえながら話に乗ってきた。


「わたくしもいきますわ、何かの用事があるような気がしますがキャンセルしたと思ってデパートへ行きますわ」

「ボクは台所用品が気になるから行くけど、チーちゃんはどうする?」

「私も昨日でアルバムのレコーディングが終わって、オフなんで、良かったら優太さんに付いていきます」


 何だか無責任な事を言うナディア。

 琴名に訊かれた知里はファンに聞かれたら確実に優太を私刑にかけたくなるような言い回しで笑顔を見せる。


「チーちゃん……あのね」


 変な意味は無いだろうが、誤解を招きかねない何処か浮世離れした国民的なアイドルに大丈夫か、という引きつった顔をしてから、涼は隣で黙々と朝食を採る香澄を見る。


「香澄はどうするの?」

「ふん、世俗にまみれ何でもあるとか言うが実は空虚で何もない総合百貨店なる幻想城には何の興味もないが……」


 食べ終わった様子で箸を置く香澄。


「興味は無いが?」


 続きを促す涼に香澄は優太を睨む。


「眼を離した隙に優太がまた百花淫乱淫獣児童ポルノがページ狭しと描かれた蔵書を増やそうと企む可能性が高い、暇では無いが私も行こう」

「……これで全員でお出かけが決まったわね、何でもある総合百貨店、何だか楽しみね」


 回りくどい答えで優太を睨み続ける香澄の態度に、肩を竦めながらヤレヤレと口元を緩める涼であった。



                          続く

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