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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「確かに弱い」

「香澄ちゃん!? 今の……」


 もう香澄は居なかった、優太が声をかけるよりも早く彼女は襖を踏み倒して、靴下のままで廊下に出ていた。

 高級店だが、そこまで広い店ではない、座敷を出た廊下には……琴名に護られる様に震えている知里がいて、先には身長180に、100㎏はありそうな堂々とした体躯、禿げ頭に口の回りに虎髭を蓄えた筋肉質の中年男が立っていた。


「悲鳴から出てくるのが早えぇな」


 香澄を見て、ボソッと呟く虎髭の禿げ男。

 格好はシャツに灰色の崩れたスーツを羽織ったよくいる中年で、見かけだけで不振人物ではないが、廊下には気を失った店の主人が倒れていており、それで知里が悲鳴を上げたのだろう。


「ここの大将をどうした? あと貴様は何者だ?」

「ふむ、いやぁ……俺は、とあるアイドルグループの大ファンでね、チーちゃんのせいで人気に陰りが出ちゃったからよぉ、嫌がらせに来たんだ」


 靴を履かずに廊下に降り立ち睨む香澄。

 対する男はニヤニヤと虎髭を太い指で撫でながら答えた。


「見え透いた嘘を言うな、そんな筋肉隆々としたアイドルオタクがいるか?」

「最近は色々といるんだぜ? 格闘アイドルオタクでいいだろう?」

「ふっ……ふざけないでよっ!? チーちゃんに危害を加えようというなら、KOしてから警察に行ってもらうからね!」


 虎髭を指さしたのは知里を護るようにして、香澄よりも近くにいた琴名だ。


「のしてやるから、覚悟してっ!」


 レスリングスタイルの構えを見せ、臨戦態勢でジリッと近づく。


「総合か……型がいいな」


 琴名に視線を移し、ボソッと呟く虎髭。


「どうかなぁ~、ボクは何でも出来るよ」


 試合ではない、突然の未知の相手への戦いである、不敵な笑みを浮かべながらも琴名の声は緊張している。

 狭い廊下だ。

 ジリジリと琴名は相手への距離を詰めていくが、不用意には飛び込まない。

 虎髭は構えてもいないのだ、どんな対処をしてくるかわからない。



 琴名が動いた。

 鋭いタックルが下半身に……

 と、見せかけてのダッシュの勢いを利用した低い体勢からの右のハイキック。

 タックルの低さから、身長180までそれを届かせるには、ほぼ垂直に脚を上げて縦蹴りをしなければいけないが、琴名の身体の柔軟さとバランスはそれを十二分に可能にしている。


「……むっ!?」

「顔面っっっ! もらうよっ!」


 不意をついた。

 クリーンヒットの炸裂音。

 スニーカーを履いた琴名の脚の甲が虎髭の鼻っ面を見事に捉える。 


「んぬっっっ」


 グラリと巨体が揺らぐ……唸りながら右足を後ろに下げ、それを防ごうと踏ん張る虎髭。


「た、お、れ、な、よっ!」


 琴名の追撃。

 低い体勢のまま、懐に入り込み、起き上がりのアッパーカットを髭の生えた顎に叩き込む。


「んんっっっっ」


 アッパー、上擦った口から舞い上がる鮮血、思わず声を出してしまったのは至近距離でそれを観る知里だ。

 ガクガクと震えた虎髭の両膝がガクッと低くなる。


「し……あ……げ……っ!」


 琴名が跳んだ。

 右の飛び膝蹴りが顔面に命中する……寸前だった。



 膝は空を切り、目の前の男が消えた。


「えっ?」


 琴名の背筋に走る悪寒。

 着地した後、素早く後方に向けて、回しの中段刈り蹴り。

 これならば後方の何処に回り込まれようとも、脚が届く、見えなくても当たる!

 意識はそう決めた。

 だが……地面に脚がつかない。


「ああっ!?」

「捕まえた……」


 上機嫌な男の声。

 それから琴名の意識はわずか二秒後に途絶えた。  




「琴名ちゃんっ!」


 倒れ込んだ琴名は知里に抱きかかえられたが、グッタリして反応しない。


「知里ちゃんっ」


 男に見下ろされる知里に優太が慌てて駆け寄り、護るように後ろから肩を抱く。


「ゆ、優太さん?」

「こいつの目的は知里ちゃんだ!」


 男子に抱き締められる経験がないのか、少ないのか、知里は顔を赤らめるが、優太の視線は虎髭に向かっている。


「そのとおりさ、ちょぃと痛い怪我をしてもらうぜ、殺しはしないさ」

「させるかっ!」


 鋭く怒鳴り返す優太。

 琴名を介抱する知里を抱きしめる手に力が籠る、もちろん戦力的には敵いそうに無いのは理解できる。

 高校生とはいえ、ボクシング部員数人を手玉にとれる琴名がやられた相手だ、実戦の経験がない優太がかなう余地はない。

 だが、逃げ出す訳にもいかない。


「いうなぁ、そこのダウンしている女の子よりもお前は強くは見えないんだけどねぇ?」


 琴名のアッパーカットで血が流れ出ている口元を虎髭は緩めた。


「確かに弱い」


 ヒタヒタと歩いてくるのは、琴名と虎髭の闘いは静観していた香澄だ。


「確かにその男は、琴名よりも弱い、そしてお前よりも弱いだろう……だが」


 虎髭までの距離二メートル。

 カジュアルシャツにジーパンに足元は白い靴下という格好で、香澄は真っ直ぐ顔を上げ、


「自分よりも強い者には立ち向かわず、弱い者なら立ち向かうなんていう奴は男とは呼ばない、少なくとも優太にはその度胸はあったな、そこで今度はお前の番だ、お前は自分よりも強い者に立ち向かう勇気があるか? 知里や優太を相手する前にそこの所を私が試してやろう」


 と、開いた両手を前に出すいつもの構えと鋭い瞳を虎髭に向けた。



                    続く


 

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