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かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
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「ボク、燃えらんないもん」

「ちょっと良いかな?」


 場所に合わない少女の声。

 男子達は開けられた部室の入口に振り返る。

 そこには体育用のジャージ姿のショートボブカットの少女がいた。


「なんだ、お前は?」

「あ? ボクも誰も知らないから、君たちもボクを知らないという訳だね、ボクの名前は音羽琴名といいます」


 男子は四人。

 全員が短パンにタンクトップ、リングシューズにボクサーグローブ。

 二人はリングに上がり、残る二人はリングサイドに吊るされたサンドバッグを叩いていた。


「その音羽がどうしたんだよ?」

「君たちがさ、何でも男子を無理矢理に連れ込んでボクシングをしてると聞いてね」


 琴名はそう言うと、サンドバッグの前に立つ。


「お……おいっ?」

「どいてて……ねっ!」



 ドンンッッッ……



 突き刺さる少女の右拳、サンドバッグは大きく跳ね上がった。


「……!!」


 驚く男子生徒達。

 ニッコリ笑って、琴名は隣に立つ男子のボクシンググローブを指差す。


「お願い、ボクとスパーリングしてくんないかな?」


 女子からの男子ボクサーへのまさかの申し出に部室の雰囲気が変わった。





「三年の東郷だ、俺は軽量級だから男と女の差はあれ体重差はない筈だぜ」


 髪を刈り上げた男子がリングに上がる。

 体重差はないという通りの小さな男子だ、身長は百五十半ばで琴名と変わりない。

 しかしシャツを脱いだ上半身は細く薄いが、堅そうな筋肉が包んでいた。


「お、おい、東郷? 相手は女子だぞ!?」

「あの件は女はダメとは言わなかったろ? それに今のサンドバッグへの一撃を観りゃやれるのはわかるぜ、来なよ、ちゃんと殴ってやる!」


 止めようとした仲間を東郷はグローブをはめた手で制して、リング下の琴名を睨む。


「あの件? まぁいいか……じゃあ待っててくれるかな、誰かグローブをお願い」


 彼の口から仲間に出た言葉に気になる所がありながらも、琴名は相手がスパーリングを引き受けてくれた東郷にペコリと頭を下げてから、近くのパイプ椅子に座りグローブをはめる前のテーピングを左から巻き始める。


「……経験者?」


 それだけの動きで数人の部員達がざわめく。

 テーピングをまく動作にはまるで無駄がなく素早く白のテープが拳に巻かれていく。

 一日、二日で出来る滑らかさではない。


「あ、これ? いつもはオープンフィンガーが多いからここまで巻かないんだけど、たまにはボクシンググローブもするからさ、慣れだよ」


 あっけらかんと答え、部員にグローブをはめてもらうと、


「十二オンスだね、ボクは八オンスが多いから少し重いなかぁ~」


 琴名はそう苦笑を見せて、ゴロリと転がりながらリングインする。


「いつもはオープンフィンガーとか、八オンスが多いとか……あいつ何者だよ!?」

「……」


 琴名の言動に驚く部員、東郷も同じ感想だが同じリングに上がった相手は何者かなんて関係がない、倒すべき相手なのだ。


「ヘッドギアをしろ」

「やだ、あれがあると実戦感が薄れてボク燃えらんないもん、相手のは気にしないように努力するから東郷さんはいつもみたいにどうぞ、遠慮せずにヘッドギアをつけて」

「……な」


 そう言って琴名はその間は待ってますといった風に自軍コーナーに背中をつけ、ロープに両腕をかけた。 

 

「俺も要らねぇ、本気でいいな?」

「どうせ手を抜いても、途中からは本気でやる羽目になるんだから変わらないよ」


 低いファイティングポーズをとる東郷に応じる琴名。



「いくぜっ!!」



 東郷に遠慮は無かった。

 リングシューズとマットに擦れる尖った音、鋭く速い飛び込みの後で……

 ユックリと東郷は尻餅をついてから、グニャリと身体をくねらせマットに横たわった。



「ああ……あ!?」

「あ、あの東郷の飛び込みをカウンターでおとしたっ? ミニマム級のスピードを一撃で捉えやがった」



 二秒。

 琴名と東郷の交わりはほんの二秒だった。

 構えて飛び込んだ東郷が攻撃の為、ガートをわずかに解いたその隙間に琴名の左拳が滑るように入り込み、細い顎を捉える。

 それだけの事。

 たったそれだけの事なのに、部員達は目の前で起きた事が信じられず、呆然とせざる得ない。


「軽量級のボクサーは流石に速いなぁ……でもいつも組手してる涼ちゃんや香澄さんの仕掛けのほうがずっと速いし、ず~っと怖いよ」


 上機嫌で見事に決めた左のグローブにチュッと口づけをした琴名だったが、

  

「あれ? 東郷さん、完全に落ちちゃってるよ? 大変だっ、軽く合わせただけなのにぃ、東郷さん、東郷さぁ~ん」


 と、自らがマットに横たわらせた東郷の様子に焦り急いで介抱を始めたのだった。





                    続く 

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