表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくじょ!  作者: 天羽八島
第1章「國定道場格闘女子参上」
11/92

「ボクシングしたの?」

 シンと肌寒い道場の空気。

 向き合う二人を、周囲の者達は緊張感をもって見つめる。



 裸足の左足と開いた左手を前に出し、握った右拳を引いた状態で構える空手着の涼。

 対するは両手を前に低く構える琴名。

 Tシャツにスパッツ、レスリングブーツという格好。



 互いの拳にはオープンフィンガーグローブ。

 ジリジリと迫り始めたのは琴名、右の正拳を構えた体勢の涼は一切動かない。

 獲物を狙う鋭い視線を送る琴名に対して、涼の視線には冷たさすらある。

 近づく距離、琴名はフッと一瞬動きを停める。


『ここ、これから少しでも出たら……来るっ』


 涼の攻撃が届く距離、制空圏の寸前を琴名に感じ……



「……!!」



 その瞳が見開いた瞬間だった。

 涼の右のローキックが機先を制し、琴名の左の太ももを直撃、ドンと太い音が響く。


「んくっ……!」


 避けられないくらいに速く重い下段。 

 前進しようとした刹那を捉えられ、体勢を崩しかけるが、琴名は歯を喰いしばって耐え、更に前進を止めず、素早く涼の懐に飛び込む。


「ちっ!」


 舌打ちする涼。

 タックルで寝かせてしまえば、空手技の殆どを封じる事が出来る。

 狙うは両足の抱き込むタックル。

 一番怖いのはカウンターの膝だが、ローキックを放って、まだ戻しきっていない体勢ではそれは来ないし、来たとしても体重の乗らない威力の低い物だ。


『タックルいただきっ!!』


 伸ばした両手が涼の道着に触れた瞬間だった……琴名の意識はプツリと途切れた。





「……はっ!?」



 目を開ける琴名。

 仰向けに寝かされ枕を首のしたに敷かれている、気道確保の為だ。


「あっ良かった……まだ寝てた方がいいよ、軽い脳震盪だ」

「起きたぁ、良かったぁ、ゴメンね、琴名ちゃん」

「派手なダウンでしたが、平気そうですわね」


 優太が笑顔を覗かせ、済まなそうに涼は手を合わせ、ナディア、練習に来ていた大学生達も安堵の声を上げた。


「ボク……タックルに行った筈だけど?」

「左掌底を顎に貰ったんだ、タックルの前傾姿勢ではどうしても顎を引けないからな、カウンターになるし、小さな振りでも脳は十二分に揺れる」


 上半身を起こす琴名に正座をしたまま、平然としている香澄が答えた。


「ゴメンね琴名ちゃん、いいローキックでも止まんなかったし、タックルが速かったから……」

「いやいや、涼ちゃんは気にしないで、これは立ち合いだし、もらっちゃったボクが悪いんだ」

「気分は?」

「平気、平気……でもボクはダメだなぁ! やっと寝かせたと思ったのに! うわぁぁ」


 心配する涼に笑顔を見せた後、己に悔しがり立ち上がろうとする琴名だったが、片足が寄れて尻餅をついてしまう。


「琴名ちゃん!? やっぱり立ち上がっちゃダメだよ! フラフラする?」

「頭じゃないよ……こっち、受けた時は我慢できたんだけどな」


 琴名はスパッツを少し上げ、自分の左腿辺りを慌てた涼に見せる、ローキック一撃だけだというのにそこは紫色に変色している。


「よく我慢したね、驚いちゃった……タックルも速かったし」

「……でも、まだまだ未熟だな」


 涼と香澄は各々、今回の立ち合いの感想を口にしたが、琴名としては自分の事ながら香澄の厳しい意見にコクリと頷き、同意せざるを得なかった。




         ***




「最近……酷いらしいよ」


「ボクシング部なんて無ければ良かったのよ」


「格闘技なんて部活にすべきじゃないわよ……ねぇ琴名?」


 昼休みの教室。

 途切れていた意識の中、名前を呼ばれた事に気づいた琴名はハッと顔を上げた。

 弁当を食べた後で寝てしまった様だった。

 昨日は脳震盪を起こしたので、と以後の立ち合いを禁じられてしまった、ならばと他のトレーニングを増やしすぎてしまい、オーバーワークで疲れ気味だ。


「えっ……なに?」

「だからボクシング部、昨日はウチのクラスの男子が強引に連れ込まれて殴られたんだって!」


 セーラー服の同級生が指さした先には顔を腫らした同級生の男子が数名、恥ずかしそうに固まっていた。


「他のクラスの男子でも強引に部室に連れ込まれて、体験スパーリングとかいってボクシングをさせられるんだって!」

「そうなんだ」


 琴名はショートボブカットの髪を少し掻き上げながら立ち上がり、数人の男子の所に歩み寄っていく。


「な、何だよ? 音羽、何かおかしいかよ?」

「そうじゃないけど」


 その数人の男子は、決していじめられっ子に類する者達ではなかった。

 どちらかというと、クラスでも見た目から腕っぷしが強そうと一目置かれているグループ。


「ボクシングしたの?」

「ま、まぁな……素人相手に全力でやって来やがった、ケンカなら負けないけど、ボクシングじゃ分が悪いや」

「ボクシングだけ?」

「どういう事だよ?」


 琴名の問いにグループのリーダー格は眉をしかめた。


「だから、武器を使ったとか、集団で殴られたとか……やったのは四角いリングで一対一でグローブをはめてやるボクシングだけかって聞いてるんだけど?」

「……普通のボクシングだよ、グローブはめて、反則なしの……」


 リーダー格の男子は罰の悪そうに答えた。


「そっか、強かった?」

「え?」

「相手が強かったかって聞いてるんだよ?」

「強いも何もねぇよ、こっちは素人だぞ、敵う訳がないだろ!?」

「ゴメン、ゴメン……そうだよね、そうだよね、専門家に勝てる訳ないよねぇ」


 怒鳴った男子に琴名は誤魔化し笑いで答え、早足で自分の席に戻る。



「怒鳴られてたけど平気? 何を話してきたのか知らないけど関わり合いにならない方がいいよ」



 心配してくるクラスメートの女子達。


「平気、平気……男の子って勝負の勝ち負けを女の子が言うと、怒るよねぇ」


 琴名はそう笑い、


「そう言えば、優子は新聞部で情報通だよね、ちょっと聞きたいんだけど……」

  

 クラスメートの一人の袖を引いて教室の隅に連れていくのだった。



                    続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ