絶対に言わない。
私、こと湯川織花はある計画を企てている。
それは、四月下旬の彼氏との記念日にサプライズをしかけることだ。
私の計画はこうだ。
彼が欲しがっていた時計のためにバイトでお金を貯めて、どの時計が欲しいのか一緒にいる時にそれとなく伺い、友達と遊びに行くと言っておいて友達とその時計を買い、当日に手紙と時計をサプライズで渡すー、という計画だ。
嘘が苦手な私が出来るか不安ではあるが、彼も彼でかなりの鈍感なのでなんとか頑張ってみようと思っている。
そして、ある土曜日。
弟といとこの誕生日プレゼントを買うと言って彼と京都へと出かけた。
目的は時計売り場のあるLOFTであるが、勿論彼には時計のことは秘密である。
彼はなにも疑うことなく新京極を歩き、弟の誕生日プレゼントは見つかった。
しかしいとこのものがなかなか見つからず、歩きながらLOFTへ向かっている道中、彼は驚くべきことを口にした。
「なあ。もうすぐ新学期やん。周りの同僚らはもう新しい時計持ってんねんやんか。あるやつなんかは俺が目付けてた時計持っててさあ。腹立つから俺も今日買おう思ねん。今日俺、そのために京都きたんやんかぁ。よかったら織花が選んでくれへんか?」
私はどう答えていいかわからず、暫く無言で黙り込んだ。
彼が、織花?と問いかけてから我に戻り、小さな脳みそで考えた。
折角日頃の感謝と愛情を込めてサプライズをしようとしていたのに、これでは台無しである。だからと言って打ち明ける訳にもいかず、私は急遽計画を変え彼を時計屋にいかせないようにすることにした。
考えているうちにLOFTに着き、私は彼の手をひき時計売り場の下の階のバラエティ雑貨のコーナーへと足を踏み入れ、いとこにはどれがいいか、どんなものが喜ばれるかと相談し、時計のことには一切触れずにLOFTをまわった。
そしてお目当てのものがなかったので、LOFTへ後にし、休憩を取るため私たちはファーストキッチンへ足を踏み入れた。
その時、私は一か八かで口を開いた。
「なあ、どうしても今日時計買わなあかんの?今日やなくてええやん。な?」
「別にいつ買おうがええやんか。なんか理由があるん?」
「理由は話されへんけど、お願いやから、まだ買わんとこ」ともう私はバレバレなお願いをした。
すると彼は半分頭にきたようで、「理由話さんかったら納得でけへんわ。なんなん?」と問いてきた。
私は少し口ごもり、それから「ゴールデンウイーク過ぎるまでは言われへん…」と言った。
すると彼は「なるほどな」と言ってその後は何も言わなかった。
私はバレた、と思うと同時に、バレてるのになんでもっと喜んでくれへんの?とも思った。
好きな彼女が頑張って嘘を付き、自分を驚かそうとしていたのだ。普通喜ぶであろう。なのに彼は何も言わず一人で納得するだけ納得して、時計のことには触れなかった。
私はショックで仕方なく、その後車に乗るまでほとんど喋らず俯いていた。
喋ったのはいとこのプレゼントを見つけた時くらいだった。
そして車の中で二人とも無言で、しかも彼は何故私が怒っているのかわからないらしく、彼までも不機嫌になっていた。
私はこのまま悶々とするのも嫌だったので、勇気をだして聞いてみた。
「なあ。…なんでうちが最近バイト三昧なんかわかってるん?」
すると彼は 予想外な答えを答えた。
「大学受験のために貯めるんやろ?それがどうしたん。」
最初は、私のサプライズに気付かないふりをしているのかと思い、何度も問いただした。
しかし、彼は何度問いかけても、同じ答えを出すだけで、その答えに嘘は含まれていないようだった。
そう、彼は本当に鈍感だったのだ。
全く気付いてなかったのだ。
私が時計を買うなんて一ミリも思ってないらしい。
私はもう、情けなく思い、同時に鈍感さに感謝した。
私が突然笑い出したので、彼はより一層不機嫌さが増し口がとんがっていたが、私は気にしていないふりをして彼の腕にしがみついた。
そして勝手ながら「拗ねててごめんね」といい、彼にキスをした。
すると彼はニンマリして頭を私の頭にこつん、としてきた。
ひとまず一件落着としよう、と私は心の中で呟き彼へのサプライズの計画を進めていった。