四話 男?、料理する。
…白玉楼に住まわせてもらい、早数日。
俺は、妖夢さんに先日案内された所の一つである台所にいた。
ちなみにこの台所、屋敷に似合わないような業務用冷蔵庫やオーブンなど、本格的な厨房になってる。
…まぁ、あれだけ食べる人が居るから仕方ないのかもしれないけど。
というか冥界にこんなもの売ってる場所とかあるんだろうか…?
こんな無駄思考もとりあえず、だ。
「…俺も住まわせてもらってるんだからなんかやらないと…。」
とは言うものの俺は料理くらいしか出来ないんだけども…。
…あの人が食べる量ハンパないし、沢山作っても大丈夫か。
幸い、食材は好きなだけ使っていいと言われてたし、まずは腕が鈍ってないか確かめないと。
「…さてやりますか。」
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「…ねぇ、妖夢。」
「何ですか幽々子様?」
「彼…京谷見てない?」
「あぁ、彼なら台所に…って幽々子さま?何処に行く気ですか…?」
「(びくっ…)…えっと台所…?」
「ダメですよ。今日は彼が食事を作ってくれるんですから。」
「…あらそうなの?」
「ちょっと食べさせてもらいましたけど美味しかったですよ…
悔しいですが私と同じかそれ以上……って幽々子様!ダメって言ってるじゃ無いですか!」
「えぇー…妖夢のケチ~…」
「…坂井さん、怒って作ってくれないかもしれませんね。」
「うぅ…わかったわよぅ~…」
「はぁ…」
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「んー…こんなもんかな。」
作ったものと言えば、炒飯や味噌汁、それからステーキなどといった、腹持ちがいい物をとにかく選らんで作ったので、和洋折衷何でも御座れの状態だが結構うまくいったと思う。
…まぁ両親には全然劣るけども。
さ、早くもっていかないと…幽々子さん多分飢えてるだろうし。
「…それにしてもあの人ホント良く食べるよな…亡霊なのに。」
料理人としては嬉しい事だけども。
そういえば俺って結構驚いて無いんだよなー…
…ふむ、デザートは桃を切ったものでいいか。
酸化しちゃ拙いから後で切ろう。
…妖夢さんも半人半霊だし。どうやら俺も死んで幽霊っぽい何からしいし。
でも流石にこの量は持っていけないな…
「…よし、妖夢さん呼ぶか。」
俺は妖夢さんを呼ぶため、あのコタツのある部屋へと向かった。
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中から二人の女性の話し声が聞こえる。
俺はその中に居ると思われる妖夢さんに声をかけた。
「…妖夢さーん。持ってくるの手伝ってください。」
「あ、はーい、今行きまーす。…幽々子様は着いて来ちゃダメですからね!」
「うわーん…妖夢のケチんぼー!」
……なんでだ?
と思ったとき妖夢さんが障子が開く。
「いやー…お待たせしました坂井さん。ちょっと幽々子様が…」
少々疲れた様子の妖夢さんが苦笑いを浮かべため息をつく。
「…どうしたんですか?」
俺が妖夢さんに問うと扉を閉めながら答えてくれた。
「…その、待ち遠しくなっちゃたようで…半霊齧られちゃいました。」
“見てくださいよー…”と言って齧られた部分を見せてくる。
あー…赤くなってるな…痛そう。
「そうなんですよ…幽々子様私の半霊饅頭に見えるらしくって…」
“トホホ…”と言いながら肩を下げる妖夢さん。
まぁ見えないことも無いけど…。
俺も始めはそう思ったし。
…にしても半霊って齧れるもんなんだ。
御盆みたいに形が変わるだけじゃなく。
とりあえず、
「大変ですね…。
…でもとりあえず料理運びましょう。」
さっさと持て行かないとホントにあの人飢え死にしそうだ。
…死んでるけど。
「…わかりました。」
“はぁ…”とため息をつく妖夢さんを気の毒に思いながら、彼女と一緒に台所まで向かった。
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「わぁ…おいしそう~♪いただきまぁ…「…ちょっと待ってください幽々子さん!」…なによー京谷~。」
俺が早々と食べ始めようとする幽々子さんを止める。
…そうだ。ちょっと待って。色々とおかしい。
「…そうよ、京谷君。早く食べちゃわないと冷えちゃうわ。」
「“そうよ”じゃなくてですね…」
そして俺はこの部屋に居る四人目に向かって、
「…なんであなたが居るんですか紫さん!」
と思いっきり叫んだ。
「…あれ?紫さんと坂井さんって知り合いなんですか?…初対面のはずですけど。」
「…そうなの紫?」
妖夢さんと幽々子さんの二人は不思議そうな顔をして紫さんに尋ねる。
「えぇ、そうよ。…ね京谷君。」
それに対し紫さんはにこりとしながら俺にパスしてくる。
「いや、知り合いですけど…」
…この人、紫さんはまだ俺が十歳だか九歳だかの小さい頃…よく父さんと母さんの店に良く来ていた常連客だった人で、俺が十四歳になる頃に、“近々外国へ引っ越す”と言って、それ以来店に来なくなった人だ。
この人、美人だし、あの頃は俺も憧れみたいなものを持っていたけど…
「…何で居るんですか。」
…そうだ。何でこの人が此処、…冥界に来れるんだ?
死んだ人間しかこれないはずなのに。
もしかして…
「…死んだんですか?」
そうだとしたらやっぱり悲しい。
知った人がこうして目の前に居るとはいえ、死んでいると知ったら悲しい。
…俺も死んでいるようだけど。
だけども紫さんは、
「…失礼しちゃうわね。私はまだ死んで無いわよ…。
…私が友人の一人に会いに来たって別に問題ないでしょ?
どうやらあなたの料理も食べれるみたいだし…。」
とごく普通の返事を…って、
「…だからどうやって此処に来たんですか!」
「あぁ、私、妖怪なの。ほら隙間妖怪。」
あぁ…妖怪。
なんか納得がいったような気がする。
未だに俺が小さい頃に会っていた時と変わりないっておかしいもんな。
それに、亡霊や半人半霊が居る時点で妖怪くらい居るだろと思えてくる。
…いや、全然普通のことじゃないけど。
「…で、隙間妖怪ってのは?」
俺は平然としながら紫さんに聞く。
「あ、あら?『妖怪!?』って驚かないの?」
紫さんは俺の驚く姿を想像していたのか、俺の反応が違ったことに逆に驚いている。
「それくらい居るでしょ。…俺も幽霊的な何からしいですし。」
まぁ、正確には判って無いんだけども。
紫さんは落ち着いてきたのか、
「あら、そう。…で隙間妖怪っての言うのは私みたいに…というか私しか居ないんだけど…
“境界を操る程度の能力”を持ってるの。…ほらこんな風にね。」
と説明しながら、宙に目が沢山見られる奇妙な裂け目を作る。
「…で、何が出来るんですか?」
んー…正直コレだけ見せられても良く分からないと言うか、なんと言うか…。
それに対し紫さんは、
「色々…とだけ言っておくわ。…口で説明するより見て貰った方が分かり易いから。」
と言って開いていた奇妙な裂け目を閉じる。
「…そうですか。」
はぁ…。
なんだかなんとも言え無い気分だ。
昔の知り合いに会えたとは言えこんな風な形になるなんて…。
「…あ、そうだ。
あなたの正体、…知りたいようなら教えてあげれるわよ。」
俺が感慨にふけっていると、紫さんは思い出した時のように提案してくる。
…まぁ悪い提案ではないかな。
今まで良く分かってなかったし。
「…まぁ、でも食事してからね。…早くしないと幽々子に全部食べられちゃうわ。」
紫さんに言われて幽々子さんのほうを見ると、満面の笑みで炒飯を頬張る幽々子さんが居た。
そしてその横には“すみません…”肩をすぼめる妖夢さんも…。
うわぁ…あれだけ作ったのにもう半分しかない…。
「…そうですね。ホントに早く食べないと無くなりそうです。」
「…さ、あなたも妖夢も食べましょう。」
妖夢さんも“はい…”と言い、三人で頂きますを言ってから、俺達も料理に手をつけ始めた。
紫と京谷話し中にて…
「…そういえば京谷って何であんなに落ち着いてるのかしら。」
「そうですよね…普通、驚きますよね。いきなり死んでますとか言われたら。」
「そうよねー…どうしてかしらね~…」
「はい……って幽々子様!お二人が話してる時に先に食べるのは流石に…」
「もう、妖夢のケチ。なんなら妖夢がくれてもいいのよ…そのお饅頭♪」
「ひっ…止めてくださいよ。痛いんですからね!…だからその、“じゅるり”っていうの止めてくださいっ!」
「あらそう?…じゃあ仕方ないからこっちの料理を食べるわ~♪」
「…はぁ。」