三話 男?、現実を知る。
「……ま、入って頂戴な。」
「……は、はぁ。」
部屋に入って早々、俺はこの屋敷の主である幽々子さんに座るよう勧められた。
座布団とかではなくコタツに、だが。
まぁ勧められているものを無碍に断るわけにもいかず、遠慮がちにコタツに入らせてもらう。
幽々子さんは俺が座ったのを確認すると、目を閉じる。
「……」
「……」
……
しばらくの間この部屋に沈黙を与えていた幽々子さんは口元で広げていた扇子を畳む。
「さてと。色々と話す前に……お昼でも食べましょうか♪」
幽々子さんはニコリと微笑み、予想外の事を切り出した。
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「お待たせしましたー」
「…待ってました!さ、妖夢早く並べて~」
「……」
…えっと、コレどうなってんの?
六人くらい並んで座れるコタツの上に、妖夢さんの手によって満漢全席のように押し並べていく料理。
そして、それを今か今かと目をキラキラとさせながら待ち望む幽々子さん。
「…訳分からん。」
…ホントに何がどうなってるんだか。
「…どうかしました坂井さん。…ってそりゃそうですよね…」
妖夢さんが料理を並べながら、幽々子さんの顔をちらりと見る。
“さぁ、ドンと来い!”と言わんばかりの表情で並べられる様子を待ち構える幽々子さんの様子を見てため息交じりに苦笑し、
「…すみません。コレ、いつもの事なんで…」
「は、はぁ…」
――というかコレいつものなのか…!
「…俺が居るとかそんなんじゃなくて」
しまった。いつの間にか考えていることが口に出ていた…。
「えぇ、まぁ…」
そしてそれを聞き、あはは…と笑う妖夢さん。
「…さ、妖夢。もうそれくらいにして食べるわよ~!!」
「あ、ちょっと待ってくださいよ幽々子様!」
…幽々子さんが“いただきまーす♪”と言い、妖夢さんが止めるまもなく、いつの間にか食べ始めていた。
それを見て俺は、
「…頂きます」
…もう、どうにでもなれ。と、そう思った。
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「ふぅー…ご馳走さまでした!」
幽々子さんが箸を茶碗の上に置き、手を合わせて言う。
――あるぇ?俺ホントちょっとしか手つけてないよ??
もう机の上の皿にはもう何も残っていないような状態。
ウチの父さんや母さんには劣るけどかなり美味しかったのに…。
流石にもう食べるものが無いのでは食事を進めることも出来ず、渋々俺も“ご馳走様”と食事を終わらせる。
妖夢さん食べて無いけど…あ、口元になんか食べた痕がある…。
…作ってる時にでも食べたのか。
…それにしてもホントあの量の料理何処に消えたんだ?!
「…さて、妖夢。食後のデザート持ってきてちょーだい。」
「…はいはい幽々子様。ちょっと待っててくださいねー。」
――まだ食べるのかよ!
もう、疲れてきたんだが…。
…食疲れでなく。
「…さて、妖夢が作ってる間にお話進めておきましょーか。」
「あ…はい。」
「えっとまずココについてなんだけど…」
「…白玉楼ですか?」
「ん~…そうなんだけど白玉楼が建っている場所についてね。
…ココは冥界。死者の魂が成仏・転生を待ち過ごす、顕界とは別の異なる世界ね。
私はここの管理を任されているのよ。…詰る所冥界の管理者ってとこかしら?」
………
「えっと…ちょっと待ってください。」
「…あら?どうしたの?」
「死者しか入れないん…ですよね?」
そうだ。
世界とか顕界とか幽々子さんが冥界の管理者とかそんな事は今は良い。
『死者』しか入れない『冥界』…だって?
「えぇそうよ。
ま、死者といっても私や妖夢みたいに亡霊や半人半霊も顕界に行き来できるけどね~。」
…おいおいおい!
なら俺は一体…
「…どうかしたの?あぁ、そういう事。
…残念だけどあなたもう既に死んでいるわよ。」
………っ
「…ホントなんですか?」
「えぇ。」
そんなはずない…
「…じゃあ、その証拠は!…ほら俺、さっきだって箸を使ってご飯食べて…」
…味だって分かっていたのに。
「…私ね、ちょっとした能力を持ってるの。」
“ほらこんな風に。”と幽々子さんは言い、黒いアゲハ蝶が現れる。
「この蝶、私が能力を使ったときに現れるものなのだけど…見覚えない?」
あぁ、確か俺が寝ているところで見たような…
「『死を操る程度の能力』…これが私の能力よ。
ま、もう一つあるんだけどもね。
…コレで私が何をしたのか…分かった?」
“ま、あなたに私の能力を打ち消す力があるのなら別だけど…”
と言って待ち遠しい様子で幽々子さんは机の上に肘をつく。
なるほど…
一気に熱が冷めてきた。
「…俺に能力を使ったんですか…」
と俺が言ったところで妖夢さんが“幽々子様、出来ました”と言いながら部屋に入ってくる。
幽々子さんは“ココに置いてー”とのんきに、また“頂きまーす♪”と言い食べ始める。
「…んぐ。ま、あなたが生きてないって分かったのだけど……問題はそこじゃないのよ。」
今度は箸の代わりにスプーンを口に咥えながら困り顔になる幽々子さん。
「…なんですか?」
段々と落ち着いてきた。
なんたって今だって手や足、五感だってちゃんとある。
亡霊らしい幽々子さんも食事をするくらいだから生活には問題なのだろう。
正直なところ、生きていたときと何の遜色変わりないからどっちでも良い感じが…。
「私のもう一つの能力…『死霊を操る程度の能力』なんだけどね。
…コレもあなたに効かないのよ。」
と幽々子さんは、また一口パフェをすくい、口に運ぶ。
ん?だけどそれって、
「矛盾…して無いですか?
…俺、死んでいるんですよね。なら霊を操るような能力、効くはずじゃないですか。」
「…正確には死んだ人の霊…死霊だけどね。
でも確かにそうなのよ~…どうなってるのかしらね?」
と、いつの間にかあと一口になっていたパフェに止めを刺し、
“ご馳走様でした…”と言い机の横に寄せる。
そして幽々子さんは、
「…とりあえずしばらく此処にいなさいな。
美味しいご飯も有るのだし、なにより大勢で食事した方が楽しいわ~♪」
“…ね?”と首をかしげながら、花が綻ぶような笑顔で俺はここに居ることを勧められた。
「…そういえば亡霊なんでしたっけ、西行寺さん。」
「えぇ、そうよ~。で、妖夢は半人半霊。あ、私のことは幽々子でもユユちゃんでも良いわよ…?」
「…じゃあ幽々子さんで。で、結局俺ってなんになるんですかね?」
「…物に触れたりするから亡霊か何かじゃないんですか?坂井さん。」
「つれないわね~。でもそれって私と同じ?」
「んー…俺にはわかんないです。」
「…斬れば分かりますよ?」
「…それはマジで勘弁して下さい!」