殺し合いましょう。
「さぁ、殺し合いましょう」
学校の昼休み、付き合って半年くらいの彼女が、突然そんなことを呟いた。
ん?独り言?と思ったが、僕を見て言っている。
彼女の性格ってこんなんだっけ、と呆然としていると、突然彼女がナイフを懐から出した。
「え、どういうこと……?」
太陽で照らされているナイフは、見る限りは本物だ。
あれ、おかしいな。
彼女ってこんな性格だったっけ。
ツンデレのデレをとったような性格だったはずじゃなかったか。
心の中でもう一人の自分に呼びかけてみても、それは結局自問自答なわけで
勿論返答はない。
「私、考えたのよ。どうやったら君とずっと一緒にいられるか」
「は、はい?」
夢でも見てるのかなぁ、と頬をつねってみる。
痛い!
これって夢でも現実でも結局痛いから意味ないよね!
「で、私は君を殺すっていう結論に至ったのよ。でも、殺したら私は取り残されちゃうじゃない」
「うんうん。」
ついでに、僕と彼女は正式には付き合っていないと思う。
告白した時、「これは仮契約よ」とかなんとか言っていた。
そうか!つまり彼女は厨2病なんだ、ナイフとか演出いいなぁ。
さらについでに、彼女のチャームポイントは長い黒髪にアーモンド型の目である。
睨みつけられるとマゾ心をくすぐるのである。たまらないのである。
「だから、殺し合いよ。殺し合えば、どっちもしねるわ。天国で永遠に一緒よ。」
「なるほど、それは良い案だ!」
君の頭ってカエルより小さそうよね。
彼女に言われた印象にのこる言葉といえば、残念ながら罵声しかない。
市立高校のこの学校では、最底辺の馬鹿から超エリートなやつまで幅広く通学している。
お金の力は偉大ということが分かる。
僕が最底辺で、彼女が超エリートである。
天と地の差である。
だけど付き合えたのだ、男に学力は関係ないと悟ったよ。
で、かのj、ブンッ。
「ってうわぁ!ちょっと、どうしたの……?」
突然僕の前にナイフが現れたと思えば、まるでチーズを切るかの如く僕の顔に迫ってきていた。
何の躊躇もなく、むしろその一撃をかわされて舌うちをしている。
危ない、間一髪だ。…なんてことだ、あんなに愛し合っていたのに、彼女はどういうつもりなんだ!
そうか、わかったぞ。わかってしまったぞ……。
彼女って、ヤンデレじゃん。
「さぁ、殺し合いましょう」
*****
午後の授業はもちろんサボりました。
とりあえず制服はボロボロで、なのに体には傷一つないという不可思議な現象。
彼女は服だけを切るのがうまいなぁ、などと関心していると、足音が聞こえてくる。
くそ、ここ屋上にも長くは留まれないか……。
ケガなんてしてない右腕を深刻そうに押さえつけ、こちらもケガしてない左足を意味もなくひきづりながら歩く。
こういうのにはノリってものが大切なのだ。
「アナタも正々堂々と戦いなさい、男でしょう。私の彼氏でしょう」
見てみろ、彼女のナイフ。
何も切ってないのに血がついてやがる!
すさまじい適応能力である。ノリがよすぎる。
等々追い詰められた僕、さてどうしたものか。
彼女としぬのも悪くないな、と。
この先何か特別なことがある訳じゃないし、彼女とも十分楽しんだ。
学校行事の体育祭、文化祭、いつも通りの日常でも、彼女といれば楽しかった。
休みの日だって……そういえば休みの日の記憶はないなぁ。
「今日は何日かしら?」
「え?えーっと、今日は11月の8日だよ」
「何の日?」
な、何の日?11月8日は火曜日だから…。火曜日はTuesdayだ!
月曜日と水曜日にはさまれた曜日だ。
いや、まてよ。僕の推理が正しければ大事なのは火曜日じゃなくて11月8日ということだ。
やばい、彼女がナイフを持ちながらせまってくる!早く答えよう。
「そ、そうだ、11月8日は…良い歯の日だよ!」
「私達、天国でも一緒になれると良いわね」
*****
僕の制服は原型をとどめてはいなかった。
ただの布きれである。ご愁傷様である。南無。
あの後僕はパンツ一丁で校舎2階に吊るしあげられるという羞恥プレイを受けた。
サドスティックな彼女とマゾヒストの僕だからこそ成せる共同作業である。ちなみに初めての共同作業だ。
11月8日は付き合って一周年記念であった。
正直なところ、彼女はそういうの興味ないと思っていたが、この出来事でその潔白がなされた。
彼女はツンデレではないという事を、付き合いはじめて半年たってから気づいた。
うすうす感づいていたけど、彼女が僕に中々デレないあたりから。
彼女はヤンデレだったのである。クールなヤンデレ娘なのである。ただしデレは究極に少ない。
結論を5文字以内でまとめろと言われれば
「かわいい」のである。
今でも僕は彼女と付き合っている。
毎日がグヘヘで、とても楽しい!
たまにはコメディー小説もいいなぁと思い書きました。
でもやっぱり難しいです。