3話 おしゃべりのタネ「あーうー」くん
今日のひなたくんは、なんだか朝から落ち着きません。
じーっと天井の一点を見つめていたかと思えば、キョロキョロと周りを見渡して、不思議そうに自分の手を眺めています。
「ふふっ、今日のひなたくんは、いろんなものに興味津々ね。」
コトハおねえさんが、楽しそうに箒を止めました。
「少しずつ外の世界が見えやすくなってきたんだね。」
ゲンジおにいさんも、成長を感じて嬉しそうに頷きます。
その時でした。
ひなたくんが、小さな丸い口をぽかんと開けました。
「あー……、うー」
それは、今までのような泣き声とは違う、鈴が転がるような優しい音。
すると、口元からキラキラした光が溢れ出し、手のひらサイズの小さな子が飛び出してきました。
「あーうー! あーうー!」
背中に透明な羽が生えた、妖精のような男の子。「あーうー」くんです。
あーうーくんは、生まれたばかりだというのに、元気いっぱいに園内をパタパタと走り回り始めました。
「わっ! なんて可愛い子が生まれたの!」
コトハおねえさんが、驚きながらも手を叩いて喜びます。
「ひなたくん、声が出せるようになったんだね!」
ゲンジおにいさんも、その小さな新しい仲間の姿を眩しそうに見守ります。
「あーうー!」
あーうーくんが園庭のベンチを跳ね回り、ひなたくんもそれを見て、喉を「くーくー」と鳴らして喜びます。
その瞬間、空からママ・パパが大騒ぎしてる声が聞こえてきました。
『……っ! パパ! パパ来て! 今、ひなたがしゃべった! 』
『えっ、本当か!? ちょっと待って、カメラ! カメラどこだっけ!?』
ママとパパの慌てふためく声が、園全体に響き渡ります。
ですが、当の本人たちは……。
「……。」
ひなたくんは、何事もなかったかのようにぷいっと横を向き、あーうーくんもひなたくんの膝の上で、すとんと座り込んでしまいました。
「あーあ、あんなに慌てちゃって」
コトハおねえさんが、クスクスと笑い出します。
「ママとパパが次に声を聞けるのはいつかな?」
ゲンジおにいさんも優しく微笑みます。
言霊園に、新しい友達が増えました。
外の世界では、パパがビデオカメラを構えたまま、ひなたくんが次のお喋りをしてくれるのを今か今かと待っています。




