12話 バイバイ「まんま」ちゃん
ひなたくんの喋れる言葉が少なかった頃から、そばにいて、仲良しな「まんま」ちゃん。
でも、最近のまんまちゃんは、どこか寂しそうです。
ひなたくんは甘えたくなったら「ママ!」と呼べるし、お腹が空いたら「おっぱい!」と言えます。
ひなたくんが色んな言葉をしゃべれるようになるたびに、一番の仲良しだったまんまちゃんの出番は、少しずつ減っていったのです。
「まんまちゃん。最近、あまり呼ばれなくて少し寂しいわね」
コトハおねえさんが、元気がなくなってしまったまんまちゃんを優しく抱きしめました。
ゲンジおにいさんも、その小さな頭を撫でながら、静かに語りかけます。
「でもね、ひなたくんを見てごらん。まんまちゃんがずっとそばにいてくれたおかげで、ひなたくんはこんなにたくさん、自分の気持ちを伝えられるようになったんだよ。ありがとう、まんまちゃん」
その言葉を聞いて、まんまちゃんは大きな瞳を開いて、静かに考えました。
そして、おねえさんの腕からぴょんと飛び降りると、迷いのない足取りで「言葉の街」へと続く扉に向かって走り出したのです。
扉の前で立ち止まったまんまちゃんは、振り返って元気いっぱいに手を振りました。
「まんま!」
「……街へ行くのね。バイバイ、まんまちゃん。元気でね」
コトハおねえさんは、こらえきれず涙ぐみながら手を振ります。
「またいつでも、園に遊びにおいで」
ゲンジおにいさんも、寂しさをこらえながら笑顔で見送りました。
その時、ひなたくんが街へ向かうまんまちゃんを見つけました。
ひなたくんは笑顔であの言葉を言います。
「まんま!バイバーイ!」
まんまちゃんは、ひなたくんの笑顔を胸に焼き付けるようにニッコリ笑うと、光り輝く街の中へと消えていきました。
数日が過ぎた、ある日のこと。空からママの明るい声が降ってきました。
『ひなたー。離乳食もよく食べられるようになったし、今日からは柔らかい「ご飯」に挑戦してみようか!』
その時、言葉の街への扉の前で、少し大人びた表情のまんまちゃんが、自分によく似た小さな男の子を抱っこして立っていました。
「まんまちゃん! 来てくれたのね!」
コトハおねえさんが、ひなたくんを抱っこして駆け寄ります。
「その子は……新しいお友達かい?」
ゲンジおにいさんが尋ねると、まんまちゃんは誇らしげにその子を高く抱き上げて紹介します。
まだ生まれたばかりの、頭にお茶碗を被った「ごはん」くんです。
ひなたくんは、まんまちゃんを見て、最高の笑顔で言いました。
「まんま!」
そして、生まれたばかりの「ご飯」くんに向かって元気に言います。
「…ごはん!」




