9話 小さな運転手「ブーブー」くん
ひなたくんの一番のお気に入りなのは、木でできた素朴な車のおもちゃです。
口にくわえて木の感触を確かめたり、手で力強く押し引きしたり。時にはひっくり返して、指先で器用にタイヤを回しては、その動きをじっと見つめて楽しんでいます。
外の世界では、パパが目を細めて笑っています。
『ひなたは、本当にブーブーが好きだなぁ』
その声に合わせるように、ひなたくんがおもちゃを走らせながら呟きました。
「ブーブー。ブーブー」
その瞬間、木のおもちゃがボウッと淡い光を放ちました。
「あら? 新しい子が生まれるかしら!」
コトハおねえさんが駆け寄りますが、光はすぐに収まり、そこにはいつも通りの木のおもちゃがあるだけでした。
おねえさんとおにいさんが不思議そうにキョロキョロしていると、足元から元気な声が響きました。
「ブーブー!」
「……あっ! 見つけたよ」
ゲンジおにいさんが指さした先。なんと、木のおもちゃの運転席に、豆粒みたいに小さな男の子がちょこんと座っていました。
ゴーグルを頭に乗せた、新しい園児のブーブーくんです。
「ブーブー! ブーブー!」
ブーブーくんが小さな手でハンドルを握ると、木のおもちゃはまるで生きているかのように、園内を縦横無尽に走り回ります。
ひなたくんは、車が元気に走り出したのを見て、大喜びで声を上げました。
「キャッキャッ! キャッキャッ!」
『おっ、そんなに嬉しいかい?よしよし、今度パパが新しいブーブーを買ってきてあげるよ!』
外界からのパパの太っ腹な宣言を聞いて、ゲンジおにいさんは少しだけ苦笑いしました。
「これは……。言霊園が車のおもちゃで埋め尽くされる日も、そう遠くないかもしれないね」
「いいじゃない、賑やかで! 安全運転でお願いね、ブーブーくん!」
コトハおねえさんの応援を受けて、小さな運転手は言霊園を元気いっぱいにドライブするのでした。




