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第9話 王女は、先に老いない
グリーンフォレスト公国の森に、秋が来ていた。
葉は色づき、風は少しだけ冷たい。
だが、メリーナは変わらない。
彼女の隣を歩く男だけが、変わっていく。
「……最近、膝がな」
ダニエルは笑って言った。
白髪が増え、背は少し丸くなったが、声は穏やかだった。
「無理をなさらないでください」
「まだ、君の隣は歩ける」
それだけで、十分だった。
人間の時間は短い。
最初から分かっていた。
それでも、二人は選んだ。
共に生きる時間を。
その日が来るのは、
ある朝、あまりにも静かだった。
「……メリーナ」
寝台で、ダニエルは微笑った。
「先に行くのは……ずるいな」
「ええ」
メリーナは手を握った。
「だから、行ってください。
私は、ここにいます」
最後まで、彼は彼女の手を離さなかった。
森が、静かに息をする。
人間の命が、終わった。




