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第7話 剣を置く覚悟


夜明け前のルミナシティは静かだった。

白い石畳に、まだ人の気配はない。


ダニエルは城壁の上に立ち、

薄明るい空を見つめていた。


(監視下、か……)


会談の結論は、猶予。

だがそれは同時に、

「いつ切られてもおかしくない糸」でもあった。


「副団長」


背後から声がする。


振り返ると、騎士団長バルトが立っていた。


「こんな時間に、珍しいな」


「眠れなくて」


バルトは隣に立ち、同じ空を見上げる。


「正直に言おう」


低い声。


「俺は、この話に賛成じゃない」


「……分かっています」


「お前は優秀だ。

 だが、感情を優先すれば、

 組織はお前を守らない」


それは忠告であり、

最後の警告だった。


「だから、選べ」


バルトはダニエルを見る。


「地位か。

 恋か」


風が吹いた。


ダニエルは、ゆっくりと息を吐く。


「……俺は」


答えは、もう決まっていた。



午前。

騎士団本部・執務室。


ダニエルは、書類を机に置いた。


「これは……?」


事務官が目を見開く。


「辞表だ」


副団長職の辞任届。

正式な書式だった。


「副団長!

 い、いきなり……」


「理由は書いてある」


『私情により、

 公務に影響を及ぼす可能性があるため』


それ以上でも、以下でもない。



その知らせは、

すぐに王城にも届いた。


「……本気なのね」


女王イザベラは、書面を閉じる。


「若さゆえ、ではないわね」


国王アルベルトは、しばらく黙っていた。


「逃げ道を、

 自分で塞いだか」


それは、評価だった。



同じ頃。

グリーンフォレスト公国。


メリーナは、

急報を聞いて立ち上がった。


「……副団長職を、辞した?」


胸が、締めつけられる。


(そこまで……)


喜びよりも、

恐れが先に来た。


――私のせいで。



その夜。

王城の温室。


メリーナは、ダニエルと向き合っていた。


「どうして……」


声が震える。


「私は、

 そこまで望んでいません」


「分かってる」


ダニエルは、静かに答える。


「でも、半端な立場のままでは、

 誰も守れない」


「地位を失えば、

 あなたは……」


「自由になる」


そう言って、微笑んだ。


「騎士である前に、

 一人の男として立ちたかった」


メリーナは、言葉を失った。


(重い……)


その選択が、

どれほど重いか分かるから。


「……私は」


涙が滲む。


「あなたに、

 何も差し出せていない」


ダニエルは首を振る。


「十分だ」


彼女の手を取る。


「俺は、

 自分で選んだ」



翌日。

騎士団内では動揺が広がっていた。


「副団長が、自ら辞めた?」

「王女のためだって?」


噂は、再び広がる。


だが、今度は質が違った。


「……そこまで覚悟してるのか」

「本気、なんだな」


評価が、変わり始めていた。



夜。

ダニエルは、宿屋の一室で剣を見つめていた。


剣は、

彼のすべてだった。


だが。


「……まだ、置かない」


鞘に収める。


地位は捨てた。

誇りは、捨てない。


この決断が、

二人の恋を救うのか、

それとも――


答えは、

次の場所にある。


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