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第6話 恋は、席に着かされる


王城・白の会議室。

普段は条約や交易の話し合いに使われるその場に、

今日は異様な沈黙が満ちていた。


長い卓の中央。

グリーンフォレスト公国とルミナ王国の紋章が並ぶ。


公爵エリオット。

その隣に公爵夫人リアナ。

王女メリーナは、背筋を伸ばして座っていた。


対面には、

ルミナ王国国王アルベルト、女王イザベラ、

そして騎士団副団長ダニエル。


「――本日の議題は一つ」


国王アルベルトが口を開く。


「両国間で噂されている、

 王女メリーナ殿下と騎士ダニエル副団長の関係についてだ」


空気が、さらに重くなる。


これは裁判ではない。

だが、審問に近い。



「先に申し上げます」


エリオット公爵が低く言った。


「我が娘は、軽率な行動を取る者ではありません。

 だが、王女である以上、

 私情が国に影響を与える可能性も否定できない」


リアナは黙っている。

その沈黙が、彼女の立場を示していた。


「ルミナ王国としてはどう考える?」


アルベルトの視線が、ダニエルに向く。


「副団長。

 あなたはこの件を、どう捉えている?」


ダニエルは立ち上がった。


「……私は、

 王女殿下に特別な感情を抱いています」


会議室がざわめく。


逃げなかった。

否定もしなかった。


「ですが、それを理由に

 職務を疎かにしたことはありません」


「感情は、いずれ行動に影響する」


騎士団長バルトが冷たく言う。


「若さゆえの過ちでは?」


「過ちだとは思っていません」


即答だった。


「ただし――」


ダニエルは一度、深く頭を下げた。


「もし、この想いが

 両国の関係を損なうのであれば、

 私は騎士として、然るべき責任を取ります」


その言葉に、

メリーナの指先がわずかに震えた。



「では、王女殿下」


今度は女王イザベラが問いかける。


「あなたは?」


メリーナは立ち上がる。


「私は、ダニエル様を想っています」


はっきりとした声だった。


「ですが、

 それ以上に、

 私はこの国の王女です」


一同が、彼女を見る。


「だからこそ、

 この恋を隠しません。

 逃げません。

 私的な関係にもしません」


「……つまり?」


リアナが、静かに問う。


「正式に、両国の監督のもとで

 関係を続けることを望みます」


会議室が静まり返る。


それは前例のない提案だった。


恋を、

政治の席に座らせるという選択。



「面白い」


国王アルベルトが、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「感情を隠すより、

 管理下に置くというわけか」


「王女としての判断です」


メリーナは視線を逸らさない。


「ダニエル副団長」


アルベルトは続ける。


「その覚悟はあるか?」


ダニエルは一瞬も迷わなかった。


「あります」


「立場を失う可能性があっても?」


「はい」


「将来を保証されなくても?」


「それでも構いません」


その答えに、

イザベラ女王が小さく息を吐いた。


「……本気ね」



沈黙ののち。


「結論を出そう」


アルベルトが言った。


「現時点で、

 両者の関係を不問とする」


ざわめきが走る。


「ただし」


声が引き締まる。


「正式な婚約、あるいは破談までは、

 すべて両国の監視下とする」


それは猶予であり、

試練だった。


「異議は?」


誰も、口を開かなかった。



会談後、

中庭で二人は並んで立っていた。


「……大事になりましたね」


メリーナが苦笑する。


「俺が、

 もっと上手く立ち回れていれば」


「いいえ」


メリーナは首を振った。


「正面から向き合ってくれました。

 それで十分です」


ダニエルは、空を見上げた。


「恋が、

 こんな場所に座らされるとは思いませんでした」


「でも」


メリーナは微笑む。


「席を与えられた、ということです」


二人の間に、

まだ距離はある。


だがそれは、

引き裂かれる距離ではなく、

試される距離だった。


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