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第5話 微笑みの裏で糸を引く者


王都グリーンシティの社交界は、

剣よりも言葉が鋭い。


「最近、聞きました?

 王女殿下のお話」


午後の茶会。

柔らかな笑顔と、甘い菓子の香り。

その中央に座る少女が、アンジェリカだった。


十四歳。

まだ幼さを残しながらも、

侯爵家の令嬢として早くから社交を学ばされている。


「人間の騎士ですって」


彼女は、困ったように眉を下げる。


「王女殿下が責められないか、心配で……」


その言葉は、

誰もが「善意」だと受け取る形をしていた。


だが、聞いた者は必ず続ける。


「それは……問題では?」

「公国の威信に関わるのでは?」


アンジェリカは否定しない。

ただ、否定しきらない。


それが、噂を育てる最良の方法だった。



その夜、王城の一室で、

公爵エリオットは報告書に目を通していた。


「社交界で、話が広がり始めています」


報告するのは、ギルド長ヴィオラ。


「誰が?」


「侯爵令嬢アンジェリカです。

 直接的な中傷はありませんが……

 『王女殿下を案じる声』として」


エリオットは眉をひそめた。


「厄介だな」


「ええ。止めれば逆効果になります」



一方、アンジェリカは自室で、

一通の手紙を書いていた。


宛先は、ルミナ王国。


「……これで、両国が動くわ」


彼女は、鏡に向かって微笑む。


「王女殿下が悪いわけじゃない。

 でも――

 利用しない理由も、ないでしょう?」


その手紙は、

「両国の関係を憂慮する貴族の声」として書かれていた。


署名は、していない。



翌日、王城の廊下。


メリーナは、視線を感じて足を止めた。


囁き声。

探るような目。


(……始まった)


恐れていた展開だった。

だが、逃げるつもりはない。


「王女殿下」


振り向くと、アンジェリカが立っていた。


「ご心労、お察しします」


深く頭を下げる。

完璧な礼儀。


「ご安心ください。

 私は、殿下の味方ですから」


その言葉に、

メリーナは一瞬、何も言えなかった。


(味方……?)


だが、瞳の奥に宿る計算を、

見逃すほど幼くはない。


「ありがとう」


メリーナは微笑んだ。


「ですが、噂に心配されるほど、

 私は弱くありません」


アンジェリカの目が、わずかに細くなる。


「……それは、失礼いたしました」



その頃、ルミナ王国では。


「グリーンフォレスト公国の王女が、

 人間の副団長を政治的に利用している、だと?」


国王アルベルトは、手紙を机に置いた。


「真偽は不明ですが……」


側近は言葉を濁す。


「だが、無視もできん」


国と国の問題になりつつある。

それが、アンジェリカの狙いだった。



夜。

メリーナは私室で、静かに拳を握った。


(恋をしただけなのに……)


だが、分かっている。


王女である以上、

恋は政治になる。


それでも。


「……負けない」


噂は刃となり、

少女はその柄を握った。


知らぬ間に張り巡らされた糸は、

もう誰かが切らねばならない。


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