第3話 若すぎる副団長に向けられる視線
ルミナシティは、光の都と呼ばれている。
白い城壁と大通り、整然とした建物群。
だがその明るさは、ときに人の影を際立たせた。
「……相変わらず、居心地が悪いな」
ダニエルは城門をくぐりながら、小さく息を吐いた。
副団長就任から一年。
それでも周囲の視線は変わらない。
――若すぎる。
――人望が足りない。
――実力より、運がよかっただけだ。
そんな声が、聞こえないはずもなかった。
王国騎士団本部。
会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
「グリーンフォレスト公国での行動について説明してもらおうか」
騎士団長バルトが腕を組んで言う。
十七歳。年齢だけを見れば、ダニエルと大差はない。
だが彼は王家に連なる血を引き、
生まれながらに「信頼される側」だった。
「魔獣討伐は成功しています。
連携にも問題はありませんでした」
「問題はそこじゃない」
机を指で叩く音が響く。
「エルフの王女に、
個人的に近づきすぎたという報告がある」
ダニエルの喉が、わずかに鳴った。
「誤解です」
即答だった。
「護衛任務の範囲内で――」
「そう言えば済む話か?」
副団長室の扉近くで、
王国冒険者ギルド長ギレンが静かに口を挟んだ。
「外交問題になりかねん。
感情で動く立場ではないだろう」
正論だった。
だからこそ、反論は難しい。
「……承知しています」
ダニエルは拳を握りしめた。
(分かっている。分かっているからこそ……)
会議の後、城内の回廊で
ダニエルは足を止められた。
「ダニエル様」
柔らかな声。
教会聖女ミレーヌだった。
「お疲れでしょう?」
「いえ……」
「無理をしてはいけません」
彼女は微笑む。
慈愛に満ちた、誰にでも向けられる笑みだ。
「あなたは、王国にとって大切な騎士です。
個人の感情で、立場を危うくしてはいけない」
それは忠告であり、
同時に釘を刺す言葉でもあった。
「……ご心配ありがとうございます」
それ以上、何も言えなかった。
その夜、宿屋の一室。
ダニエルは一人、椅子に座っていた。
(俺は……何を守りたい?)
王国か。
騎士団か。
それとも――
脳裏に浮かぶのは、
森の中で不安そうに微笑ったメリーナの顔だった。
「……逃げないって、言ったんだ」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
そのとき、扉がノックされた。
「副団長」
入ってきたのは、若い騎士ダニエルの部下だった。
「王女殿下から、書簡が届いています」
一瞬、世界が静止したように感じた。
封を切る。
短い文だった。
――
「私は、簡単に諦めるつもりはありません。
あなたが迷うなら、私は待ちます」
――
ダニエルは、目を閉じた。
(……待たせてはいけない)
反対は、確実に広がっている。
だが同時に、
引き返せない場所まで来ていることも、
はっきりと分かっていた。
若すぎる副団長は、
初めて“剣以外の戦い”に立たされていた。




