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第2話 王都グリーンシティに吹く、冷たい風


グリーンシティは森とは違う顔を持っていた。

白い石で造られた街路、整えられた並木、そして――視線。


「……王都って、落ち着かないですね」


カインが小さく呟く。

少年は馬車の後方を歩きながら、きょろきょろと周囲を見回していた。


「無理もない。森と違って、人の思惑が渦巻いているからな」


ダニエルはそう答えつつ、無意識に王城の方角へ目を向ける。


今回の目的は、

グリーンフォレスト公国とルミナ王国の合同報告。

先日の魔獣討伐に関する正式な協議だった。


――だが、ダニエルの胸には別の緊張があった。


(また……会える)


その思いを自覚した瞬間、

自分が騎士であることを思い出し、苦く笑う。




王城の謁見室では、すでに人が揃っていた。


公爵エリオット。

その隣に、公爵夫人リアナ。

そして、凛と背筋を伸ばして立つ王女メリーナ。


視線が合う。


一瞬。

ほんの一瞬だが、確かに互いを見た。


「ルミナ王国騎士団副団長、ダニエル。

 此度の件、誠に感謝する」


公爵の言葉に、ダニエルは膝をつく。


「身に余るお言葉です」


形式ばったやり取りが続く中、

空気が変わったのは、騎士団長セドリックが一歩前に出たときだった。


「一点、進言があります」


その声は静かだが、鋭い。


「先日の戦闘において、

 王女殿下が前線に近づきすぎた件です」


メリーナの肩が、わずかに揺れる。


「もし、ルミナ王国の騎士がいなければ――

 結果は違っていた可能性もある」


それは称賛にも聞こえる。

だが、同時に責任の所在を探る言葉でもあった。


リアナが、ゆっくりと口を開く。


「……つまり?」


「人間の騎士が、

 王女殿下の心を惑わせたのではないか、と」


謁見室が静まり返る。


ダニエルは、息を吸った。


「そのような意図は一切ありません」


即座に答える。

だが、否定すればするほど、

周囲の視線が鋭くなるのを感じた。


「副団長殿」


リアナの目は、母のものだった。

だが、王族のものでもある。


「あなたは優秀な騎士です。

 だからこそ、距離を保っていただきたい」


メリーナが一歩踏み出す。


「母上、それは――」


「メリーナ」


名前を呼ぶだけで、言葉は封じられた。


ダニエルは理解した。


(これが……反対勢力か)


剣も、魔法もいらない。

立場と常識が、最も鋭い刃になる。




謁見が終わり、廊下を歩くダニエルの背中に、

セドリックが声をかけた。


「恨むなよ」


「……恨んでいません」


「ならいい」


セドリックは一瞬だけ、視線を逸らした。


「だが、覚悟がないなら――

 最初から近づくべきではない」


それだけ言って、去っていく。




王城の中庭で、メリーナは一人立ち尽くしていた。


「……ごめんなさい」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。


だが、そのとき。


「王女殿下」


振り向くと、ダニエルがいた。


「私は……距離を取るつもりはありません」


驚きに目を見開くメリーナに、

彼はまっすぐ告げる。


「反対されるのなら、正面から向き合います。

 それが、騎士のやり方ですから」


森では芽生えただけの恋が、

王都で初めて試される。


静かな戦いは、もう始まっていた。



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