青いバッジの重さ
警視庁捜査一課の刑事、浜田誠。刑事歴十五年のベテランである彼に、ある日特別な任務が下された。三ヶ月前から続く連続強盗殺人事件の特別捜査班リーダーに任命されたのだ。
被害者は三名。全て都内の富裕層。犯行手口は同一で、指紋も足跡も残さないプロの仕業。だが、この事件には奇妙な共通点があった——被害者全員が、警察の内部告発を検討していたのだ。
捜査班には、ベテランの木下刑事、科捜研の佐藤主任、若手の田所刑事、そして公安部から派遣された北川警部補が加わった。なぜ一般刑事の事件に公安が介入するのか。浜田の疑問は、すぐに答えを得ることになる。
「この捜査班に、十年前の証拠捏造事件に関与した刑事がいます」
北川が暴露したのは、衝撃の事実だった。十年前、警視庁で大規模な証拠捏造が行われ、無実の人間が刑務所送りにされていた。そして今回の被害者たちは、その真実を告発しようとしていた——つまり、これは口封じのための殺人。
疑惑の目は、尊敬するベテラン刑事・木下に向けられた。「確かに関わっていた。だが、正義のためだった」苦悩する木下。だが、状況証拠は彼を犯人として指し示す。自宅からは被害者の指紋が検出され、アリバイもない。木下は逮捕された。
しかし浜田は違和感を覚えていた。「完璧すぎる。まるで誰かが木下を犯人に仕立て上げたように見える」
深夜、浜田は証拠保管室で北川と遭遇する。北川が密かに持ち出そうとしていたUSBメモリ——それには十年前の真実が記録されていた。
「犯人は警察内部の人間です。木下はスケープゴートに過ぎません」
真実を暴こうとする二人の前に現れたのは、警視・栗原。そして彼は拳銃を向けた。
「お前たちは、知りすぎた」
栗原こそが、十年前の証拠捏造を指示した張本人。そして今回の連続殺人も、彼の命令によるものだった。隠蔽のために三人を殺害させた真犯人。
さらに衝撃の事実——実行犯は、浜田の部下である田所だった。「出世のためです。この組織で上に行くには、上層部に忠誠を示すしかない」冷たく言い放つ若手刑事。
「選択しろ、浜田。この事件を木下の単独犯行として処理するか、それとも死ぬか」
組織への忠誠か、真実への忠誠か。究極の選択を迫られる浜田。だが実は、全ては公安の罠だった。証拠保管室での会話は全て録音されており、武装警察官が突入。栗原と田所は逮捕される。
事件は解決したが、警視庁は崩壊寸前に追い込まれた。国民の信頼は失墜し、組織は大混乱。木下は釈放されたが、懲戒処分を受けて警察を去った。
新しく着任した桐山警視は、浜田に告げる。「自分の信念を貫け。だが組織も大切にしろ。その両方を背負うのが、警察官だ」
青いバッジ——警察官の証。その重さは、権力であり、責任であり、誇りでもある。
浜田は決意する。これからも真実を追い求め、正義を貫くと。組織の腐敗と戦いながら、市民を守り続けると。
これは、組織と個人、権力と正義の狭間で苦悩する一人の刑事の物語。警察の闇を暴き、それでも警察官であり続ける男の選択の記録である。
第一章 消えた証拠
俺の名前は浜田誠。警視庁捜査一課の刑事だ。年齢は三十八歳。刑事歴は十五年になる。
十一月の寒い朝、俺は本庁の会議室に呼ばれていた。
「浜田、お前を特別捜査班のリーダーに任命する」
警視の栗原が、重々しく告げた。五十代後半、白髪交じりの髪に深い皺。長年の警察人生が刻まれた顔だ。
「特別捜査班?」
「ああ。三ヶ月前から続いている連続強盗殺人事件の捜査だ」
俺は資料に目を通した。
被害者は三名。全て都内の高級住宅街に住む富裕層。犯行手口は同一で、深夜に侵入し、金品を奪った後に被害者を殺害している。
「犯人の目星は?」
「ない」栗原は苦い表情だった。「指紋も足跡も残していない。監視カメラの映像も巧妙に避けている。プロの仕業だ」
「で、俺がリーダーですか」
「お前の実績を買ってのことだ。期待している」
会議室を出ると、廊下で一人の男が待っていた。
「浜田先輩、お疲れ様です」
声をかけてきたのは、部下の若手刑事、田所健太。二十八歳の優秀な男だが、少し生意気なところがある。
「田所、お前も特別捜査班に入るのか」
「はい。あと、三人のメンバーが追加されます」
「誰だ?」
「ベテランの木下刑事、科捜研の佐藤主任、そして......」
田所が言いよどんだ。
「そして?」
「公安部から、北川警部補が派遣されます」
俺は眉をひそめた。
「公安? なぜこの事件に公安が?」
「分かりません。でも、上からの指示だそうです」
嫌な予感がした。
公安部との合同捜査は、過去に何度か経験がある。だが、どれも良い思い出ではない。彼らは独自の情報網を持ち、一般の刑事とは協力しない傾向がある。
午後、特別捜査班のメンバーが集まった。
木下刑事は五十代のベテラン。口数は少ないが、現場叩き上げの実力者だ。
佐藤主任は三十代の女性。科捜研でトップクラスの分析能力を持つ。
そして、北川警部補。
四十代前半の鋭い目つきの男。公安部の敏腕刑事として知られている。
「初めまして、浜田さん。北川です」
彼は握手を求めてきた。だが、その目には何の感情も浮かんでいなかった。
「なぜ、公安がこの事件に?」俺は単刀直入に聞いた。
「それは、追々分かります」北川は曖昧に答えた。
会議が始まった。
俺は、これまでの捜査状況を説明した。
「三件の事件現場に共通点はありません。被害者同士の接点もない。唯一の共通点は、全員が富裕層だということだけです」
木下が口を開いた。
「犯人は金目当ての強盗だが、殺害方法が冷酷だ。まるで、殺すこと自体が目的のようだ」
佐藤が資料を見せた。
「現場から採取された繊維の分析結果です。特殊な素材で、一般には流通していません。おそらく、警察や軍隊で使用される装備品の可能性があります」
その言葉に、室内の空気が張り詰めた。
「つまり、犯人は警察か自衛隊の関係者?」田所が尋ねた。
「可能性としては、あります」
北川が、冷静に言った。
「実は、この事件には別の側面があります」
「どういうことだ?」
「三人の被害者は、全員、過去に警察の内部告発を検討していました」
俺は息を呑んだ。
「内部告発?」
「ええ。十年前、警視庁で大規模な証拠捏造事件がありました。その事件に関与した刑事たちを、被害者たちは告発しようとしていたんです」
「待て」俺は立ち上がった。「それは本当か?」
「本当です。そして......」
北川は俺を見つめた。
「その証拠捏造事件に関与した刑事の一人が、この捜査班にいます」
全員の視線が、一人の人物に集中した。
第二章 疑惑の刑事
視線が集中したのは、木下刑事だった。
「木下さん......」田所が驚愕の声を上げた。
木下は、静かに立ち上がった。
「確かに、俺は十年前のあの事件に関わっていた」
彼の声は、重かった。
「だが、証拠を捏造したわけじゃない。上からの命令で、証拠を『整理』しただけだ」
「整理?」俺は問い詰めた。「それは、捏造と何が違う?」
「違う」木下は強く否定した。「俺は、犯人が確実に有罪になるように、証拠を整えただけだ。犯人は本当に犯罪を犯していた。ただ、証拠が不十分だったから、補強したんだ」
「それが捏造だろう」田所が言った。
「違う!」木下が怒鳴った。「俺は、正義のためにやったんだ」
北川が割って入った。
「木下さん、その事件で有罪になった被告は、後に無実だったことが判明しました。あなたが『整理』した証拠は、無実の人間を刑務所に送ったんです」
木下の顔が青ざめた。
「そんな......嘘だ」
「本当です。そして、その被告は刑務所で病死しました。あなたは、人を殺したも同然です」
俺は、頭が混乱した。
木下刑事は、俺が尊敬していた先輩だ。彼が、そんなことをしていたなんて。
「では、木下さんが犯人だと?」佐藤が尋ねた。
「その可能性は高い」北川は言った。「被害者たちは、木下さんを告発しようとしていた。だから、口封じのために殺害した」
「待ってくれ」俺は言った。「それだけで、木下さんを犯人と決めつけるのは早計だ」
「では、アリバイは?」
木下が答えた。
「三件とも、休日だった。家にいたが、証明する者はいない」
「独り暮らしですか?」
「ああ」
北川が続けた。
「さらに、木下さんの自宅から、被害者の一人の指紋が検出されました」
「何だと!?」
木下が激しく反応した。
「そんなはずはない! 俺は被害者と会ったこともない!」
「では、なぜ指紋が?」
「知らない......誰かが仕組んだんだ」
北川は、木下に手錠をかけた。
「木下刑事、あなたを連続殺人の容疑で逮捕します」
「待て!」俺が叫んだ。「まだ証拠が不十分だろう!」
「十分です」北川は冷たく言った。「これ以上の捜査は、混乱を招くだけです」
木下は連行されていった。
会議室に残された俺たちは、沈黙していた。
田所が口を開いた。
「浜田先輩、木下さんは本当に犯人だと思いますか?」
「分からない」俺は正直に答えた。「だが、何かがおかしい」
佐藤が言った。
「確かに、状況証拠は全て木下さんを指していますが......あまりにも完璧すぎます」
「完璧すぎる?」
「ええ。まるで、誰かが木下さんを犯人に仕立て上げたように見えます」
その夜、俺は一人で証拠を見直していた。
木下の自宅から発見された被害者の指紋。
現場から採取された特殊繊維。
そして、被害者たちの内部告発の計画。
全てが、木下を犯人として指し示している。
だが、俺の直感が、何かが違うと告げていた。
俺は、証拠保管室に向かった。
深夜の警視庁は、静まり返っている。
証拠保管室の扉を開けると、そこには——
誰かがいた。
第三章 組織の闇
証拠保管室にいたのは、北川だった。
「浜田さん、こんな時間に何をしているんですか」
彼は、俺を見て微笑んだ。だが、その笑顔は冷たかった。
「こちらのセリフだ。何をしている?」
「証拠の確認ですよ。明日の取り調べの準備です」
俺は、彼の手元を見た。そこには、木下の自宅から押収された証拠品があった。
「それを、今確認する必要があるのか?」
「ええ。念には念を入れないと」
だが、俺は気づいていた。
北川の手には、ビニール袋が握られている。中には、何か小さなものが入っているようだ。
「北川さん、その袋の中身は?」
「これですか?」北川は袋を見せた。「何でもありません。ただのゴミです」
「見せてくれ」
「必要ありません」
俺は、北川から袋を奪い取った。
中には、小さなUSBメモリが入っていた。
「これは......」
「返してください」北川の声が、鋭くなった。
「これは証拠品じゃないのか?」
「違います。私物です」
俺はUSBメモリを確認した。ラベルには「証拠10-23」と書かれている。
これは、十年前の証拠捏造事件の証拠だ。
「北川さん、あんたは何を隠している?」
北川は、深く息を吐いた。
「浜田さん、あなたは知らない方がいい」
「何を?」
「この組織の闇を」
彼は、俺を見つめた。
「十年前の証拠捏造事件。あれは、木下だけの仕業じゃない。警視庁の上層部が関与していた。そして、その事実を隠蔽するために、今回の連続殺人が起きた」
俺は、言葉を失った。
「つまり、犯人は......」
「警察内部の人間です」北川は言った。「木下を犯人に仕立て上げ、真実を隠蔽しようとしている」
「では、木下は無実なのか?」
「ええ。彼は、スケープゴートです」
俺は、拳を握り締めた。
「なぜ、それを最初から言わなかった」
「言えるわけがない」北川は苦笑した。「相手は警視庁の上層部です。下手に動けば、私も消される」
「では、どうするつもりだ」
「このUSBメモリには、十年前の真実が全て記録されています。これを公開すれば、隠蔽工作は失敗する」
「だが、それを公開すれば、あんたも危険だ」
「分かっています」北川は頷いた。「だから、あなたに協力してほしい」
俺は考えた。
警察組織の上層部を敵に回す。それは、自分のキャリアを終わらせることを意味する。
だが、真実を隠蔽したまま、木下を犯人にするのは正義ではない。
「分かった。協力する」
北川は、安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます」
だが、その時。
証拠保管室のドアが開いた。
入ってきたのは、警視の栗原だった。
「浜田、北川。二人とも、ここで何をしている」
栗原の目には、怒りが宿っていた。
「警視、実は——」
「黙れ」栗原は俺を遮った。「二人とも、証拠品を持ち出そうとしていたな」
「違います」北川が言った。「これは——」
「北川警部補、お前は公安の人間だ。捜査一課の証拠保管室に無断で入るとは、どういうつもりだ」
栗原は、俺たちから証拠品を取り上げた。
そして、USBメモリを見た。
「これは......十年前の」
栗原の表情が変わった。
「お前たち、まさか」
栗原は、拳銃を取り出した。
第四章 選択
「栗原警視、何をするつもりですか」
俺は、両手を上げた。
栗原の拳銃は、俺と北川に向けられている。
「お前たちは、知りすぎた」
栗原の声は、冷たかった。
「十年前の事件の真実を、世間に晒すつもりか」
「真実は明らかにされるべきです」北川が言った。
「馬鹿なことを」栗原は吐き捨てた。「真実が明らかになれば、警視庁は崩壊する。国民の信頼は失われ、犯罪は蔓延する」
「それでも、隠蔽は許されない」
「許されないだと?」栗原は笑った。「正義とは何だ。法とは何だ。それは、社会の秩序を守るための道具に過ぎない。真実など、二の次だ」
俺は、栗原の言葉に怒りを覚えた。
「あなたは、警察官として恥ずかしくないのか」
「恥ずかしい?」栗原は俺を睨んだ。「浜田、お前は若い。理想に燃えている。だが、現実を知らない」
「現実?」
「この組織で生き残るには、時に汚れ仕事も必要だ。証拠を捏造し、真実を隠蔽し、秩序を守る。それが、俺たちの仕事だ」
「そんなものは、警察じゃない」
「では、何だ?」栗原は一歩近づいた。「お前が理想とする警察は、どこにある? 全ての犯罪を解決し、全ての犯人を捕まえる? そんなものは、絵空事だ」
北川が口を開いた。
「栗原警視、あなたも十年前の事件に関与していたんですね」
栗原は沈黙した。
「そうです」彼は認めた。「俺が、全ての指示を出した。証拠を捏造し、無実の人間を刑務所に送った」
「なぜ、そんなことを」
「当時、政治家からの圧力があった。ある事件を、早急に解決しろと。犯人を捕まえろと。だが、真犯人は見つからなかった。だから、俺は代わりの犯人を作った」
栗原の目には、後悔の色が浮かんでいた。
「それが、間違いだったことは分かっている。だが、もう戻れない。だから、隠蔽するしかなかった」
「では、今回の連続殺人も......」
「ああ。俺が指示した」
衝撃の告白だった。
「被害者たちは、十年前の真実を知っていた。彼らを消さなければ、全てが明るみに出る。だから、殺した」
「あなた自身が?」
「いや、実行犯は別にいる」
栗原は、壁に掛けられた時計を見た。
「もうすぐ、ここに来るだろう」
その言葉と同時に、証拠保管室のドアが開いた。
入ってきたのは——田所だった。
「田所......お前が......」
俺は、信じられなかった。
田所は、冷たい目で俺を見ていた。
「浜田先輩、残念です。あなたまで、巻き込むことになるなんて」
「お前が、実行犯か」
「はい」田所は躊躇なく答えた。「栗原警視の命令で、三人を殺しました」
「なぜ、そんなことを」
「出世のためです」田所は笑った。「この組織で上に行くには、上層部に忠誠を示すしかない。だから、俺は汚れ仕事を引き受けた」
俺は、怒りで震えた。
「お前は、警察官の誇りを捨てたのか」
「誇り?」田所は鼻で笑った。「そんなものは、飯の種にもなりません」
栗原が言った。
「浜田、北川。お前たちには、選択肢を与える」
「選択肢?」
「この事件を、木下の単独犯行として処理しろ。そうすれば、お前たちは助かる。出世も約束しよう」
「断る」俺は即答した。
「では、死ぬか」栗原は拳銃の安全装置を外した。
緊迫した空気。
だが、その時。
証拠保管室の外から、多数の足音が聞こえた。
ドアが開き、武装した警察官たちが突入してきた。
「動くな! 警察だ!」
栗原と田所は、武装警察官たちに取り囲まれた。
「何だ、これは......」
先頭に立っていたのは、佐藤だった。
「佐藤さん......」
彼女は、俺に微笑んだ。
「浜田さん、無事でよかったです」
「どういうことだ」
「実は、私も公安の人間です。北川警部補と共に、この事件を内偵していました」
北川が頷いた。
「最初から、栗原警視が怪しいと思っていました。だから、罠を仕掛けたんです」
「罠?」
「ええ。証拠保管室での会話は、全て録音されています」
佐藤がレコーダーを見せた。
栗原は、絶望の表情を浮かべた。
「くそ......」
田所は、逃げようとしたが、すぐに取り押さえられた。
こうして、警視庁を揺るがす大事件は、幕を閉じた。
第五章 青いバッジの重さ
翌日、警視庁は大混乱だった。
栗原警視と田所刑事の逮捕。そして、十年前の証拠捏造事件の真実が明らかになった。
メディアは連日、この事件を報道した。
警視庁のトップが、連続殺人を指示していた。国民の信頼は、地に落ちた。
木下刑事は釈放された。
彼は、俺の前で深く頭を下げた。
「浜田、ありがとう。お前が信じてくれなければ、俺は一生犯罪者だった」
「木下さん、あなたも十年前の件で、責任があります」
「分かっている」木下は苦い表情だった。「俺も、処分を受ける覚悟だ」
後日、木下は懲戒処分を受け、警察を去った。
彼は、俺にこう言った。
「浜田、警察官としての誇りを忘れるな。俺は、それを忘れて、人生を台無しにした」
北川と佐藤は、公安部に戻った。
別れ際、北川が言った。
「浜田さん、あなたは正しい選択をしました。組織に逆らうことは、簡単ではない。だが、あなたは真実を選んだ」
「当然のことをしただけです」
「いいえ」佐藤が言った。「多くの人間は、組織を選びます。真実より、保身を。あなたは、勇気がある」
彼らは去っていった。
俺は、一人で警視庁の屋上に立った。
東京の街並みが、眼下に広がっている。
この街を守るために、俺は警察官になった。
だが、その警察組織自体が腐敗していた。
「俺は、これからどうすればいいんだ」
背後から、声が聞こえた。
「悩んでいるのか、浜田」
振り向くと、新しく着任した警視、桐山が立っていた。
五十代の厳格な顔つきの男だ。
「桐山警視......」
「今回の事件、お前の働きは見事だった」
「ありがとうございます」
桐山は、俺の隣に立った。
「浜田、お前は組織と真実の間で悩んでいる」
「はい」
「当然だ」桐山は言った。「警察官は、常にその狭間にいる。組織の命令と、自分の正義。どちらを選ぶかは、難しい問題だ」
「では、どうすれば」
「簡単だ」桐山は笑った。「自分の信念を貫け」
「信念?」
「そうだ。お前は、真実を選んだ。それは、正しい選択だ。だが、これからも同じ選択を迫られるだろう。その時、お前は何を選ぶ?」
俺は考えた。
「俺は......真実を選びます。何度でも」
「その覚悟があれば、お前は立派な刑事だ」
桐山は、俺の肩を叩いた。
「だが、忘れるな。組織も大切だ。組織がなければ、個人では何もできない。組織と個人、その両方を大切にしろ」
「はい」
桐山は去っていった。
俺は、胸のバッジに手を当てた。
青いバッジ。警察官の証。
このバッジの重さを、俺は今、痛感している。
権力、正義、真実。それらを全て背負って、俺は生きていく。
一週間後
俺は、新しい事件の捜査を開始していた。
今度は、単純な窃盗事件だ。だが、俺は全力で取り組んだ。
どんな小さな事件でも、被害者がいる。その被害者のために、俺は働く。
それが、警察官の使命だ。
取り調べ室で、容疑者と向き合う。
「なぜ、盗みをしたんだ」
「金が必要だったんです......」
容疑者の目には、後悔と絶望が浮かんでいた。
俺は、彼に言った。
「罪を償え。そして、やり直せ。人生は、一度の過ちで終わりじゃない」
容疑者は、涙を流した。
取り調べを終え、俺は外に出た。
夕暮れの空が、オレンジ色に染まっている。
俺は、深く息を吸った。
「これからも、俺は刑事を続ける」
真実を追い求め、正義を貫く。
それが、俺の選んだ道だ。
青いバッジの重さを、俺は誇りを持って背負っていく。
エピローグ:組織の未来
それから一年が経った。
警視庁は、大規模な改革を行った。
内部告発制度の強化、証拠管理の厳格化、そして上層部の刷新。
だが、完全に腐敗が消えたわけではない。
組織とは、人間の集まりだ。人間がいる限り、腐敗のリスクは常にある。
だからこそ、俺たち一人一人が、常に正義を問い続けなければならない。
俺は今、後輩の指導を任されている。
若い刑事たちに、俺は言う。
「警察官は、権力を持っている。だが、その権力は、市民のためにある。自分のためではない」
「組織に従うことも大切だ。だが、組織が間違っていると思ったら、声を上げろ」
「青いバッジは、誇りだ。だが、同時に責任でもある。その重さを、忘れるな」
若い刑事たちは、真剣な目で俺の言葉を聞いている。
彼らが、次の世代の警察を作っていく。
俺は、彼らを信じている。
夜、俺は一人で街をパトロールした。
静かな住宅街。平和な光景。
この平和を守るために、俺は警察官でいる。
そして、これからもそうあり続ける。
青いバッジの重さと共に。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
読者の皆様には、感謝いたします。
ラプ太郎先生の次回作にも乞うご期待ください。




