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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第一章:灯された恋の火

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9/33

12月7日、ショッピングモールでの1日!

 日曜日。駅前の待ち合わせ場所に着いたのは、約束の10分前だった。

 12月の日曜日だからか、駅前は人でごった返している。クリスマスの飾り付けがあちこちに施されていて、なんだか浮かれた空気が漂っている。


「灯花ー!」


 声のする方を見ると、彩羽ちゃんが手を振っていた。その隣には早紀と詩織さんもいる。


「おはよう。みんな早いね」

「灯花が遅いんだよ」


 早紀がジト目で言った。時計を見ると、まだ9時53分。あれ、私の知らないうちに7分前行動って遅刻に分類されるようになった?


「まだ7分前じゃん」

「私は20分前に来てたの」

「は、早すぎない?」


 私はついていけるだろうか、早紀の生きる世界のスピードに。私がビビり散らかしていると彩羽ちゃんが笑いながら早紀の肩を叩く。


「さきっちが早く来すぎたんだよ。私と詩織ねぇもさっき来たわけだし」

「早く来て悪いことある?」

「ないけど、灯花いないでこの季節に外に20分でしょ? 大丈夫、どっか凍ってない?」

「そこまで寒くないわよ」


 いつもの掛け合い。うーん、安心する。たぶん布団の中にいるのと同じくらい安心感があるとすら思う。


「花輪さんはまだかしら?」


 詩織さんが周りを見回しながら言った。

 私もつられて辺りを見回す。たしかにまだ来てないみたいだ。とはいえ時間にルーズな感じもしないし、もう少しすれば来るんじゃないだろうか。環さんが時間にルーズだったらそれはそれでちょっとかわいいし。


「まだみたい。でも時間前だし、もう少し待てば――」

「みんな」


 声がして振り返ると、環さんが立っていた。いつの間に来たんだろう。気配が全然なかった。


「あ、環さん。おはよう」

「おはよう」


 環さんは私に挨拶してから、他の3人にも小さく頭を下げた。


「おはよう」

「おはよー、花輪さん!」


 彩羽ちゃんが元気よく返事をした。早紀は軽く手を挙げて、詩織さんはにっこり微笑んだ。


「じゃあ、全員揃ったし行こっか!」


 彩羽ちゃんの号令で、私たちは歩き出した。


 ◇◇◇


 向かったのは、駅から少し歩いたところにあるショッピングモールだ。いろんな店が入っていて、たぶん住める。ゾンビパンデミックとか起きたら有力な避難場所。


「まずどこ行く?」


 彩羽ちゃんが入り口でフロアマップを見ている。


「クリスマスプレゼント見たいんでしょ? だったら雑貨じゃない?」


 早紀が提案した。


「そうねぇ。アクセサリーのお店も見たいわ」


 詩織さんが付け加えた。


「花輪さんは? 見たいところある?」


 彩羽ちゃんが環さんに聞いた。


「みんなに合わせる」


 環さんが穏やかに答えた。


「えー、せっかくだから花輪さんの行きたいところも行こうよ」

「ありがとう。でも本当にどこでも」


 環さんが小さく笑った。それを見て、彩羽ちゃんが目を輝かせる。


「あ、花輪さん笑った! レアだ!」

「そう?」

「そうだよ! じゃあ今日はいっぱい笑わせてあげる、たまにくすぐりとかも織り交ぜながら!」

「やめて」


 彩羽ちゃんが環さんの腕を取った。当然のことではあったけど、環さんはされるがままに歩き出す。

 環さん、嫌なことは嫌だって言ったほうがいいよ、私はまだ難しいけど。


「……じゃあまず、雑貨屋からね」


 早紀が彩羽ちゃんたちに続いて歩き出す。私たちはその後をついていった。


 ◇◇◇


 雑貨屋には、クリスマス関連の商品がたくさん並んでいた。


「かわいー! 見て見て、このサンタさん!」


 彩羽ちゃんが小さなサンタクロースの置物を手に取った。サンタクロースの置物なんてだいたいみんな同じだと思うんだけど、見る人が見たら違うのかな。


「彩羽、それ買うの?」

「んー、迷う。かわいいけど置く場所ないんだよね」

「じゃあ買わなくていいでしょ」

「でもかわいい……」


 彩羽ちゃんと早紀がいつものように話している。私は店内を見回した。

 詩織さんはキャンドルのコーナーにいた。いろんな香りのキャンドルを手に取って、香りを確かめている。詩織さんらしいチョイスだ。


 環さんは――あれ、どこだろう。

 きょろきょろ探すと、環さんは店の隅っこにいた。何かを見ている。

 近づいてみると、環さんが見ていたのはスノードームだった。振ると雪が舞う、あのおもちゃ。


「環さん、それ気になる?」


 声をかけると、環さんが振り返った。


「綺麗だと思う」


 環さんがスノードームを手に取った。中には小さな街並みが入っていて、振ると白い雪がひらひらと舞う。


「スノードーム、好きなの?」

「嫌いじゃない。雪が降るの、見てると落ち着く」


 環さんがスノードームを静かに揺らした。白い粒が舞い上がって、ゆっくりと降りていく。


「買う?」

「別に。見てるだけで満足」


 環さんがスノードームを棚に戻した。


「環さんって、物欲ないの?」

「あんまり。物より、こうやって見てる時間の方が好き」


 環さんがそう言って、私を見た。


「灯花の欲しいものは?」

「私? んー、特にないかなぁ。強いて言えば、暖かい毛布とか?」

「灯花らしい」


 環さんの表情が緩む。


「え、私らしいってどういうこと?」

「暖かいものが好きそう」

「それは否定できない……」


 私も思わず笑ってしまった。


「灯花ー、花輪さーん、こっち来てー!」


 彩羽ちゃんの声が聞こえた。


「行こう」


 私たちは彩羽ちゃんの方に歩いていった。


 ◇◇◇


 彩羽ちゃんがマフラーを手に持っていた。


「ねぇねぇ、これ灯花に似合うと思わない?」


 オレンジ色のマフラーだった。私の火と同じ色。


「えー、派手じゃない?」

「派手じゃないよ! 灯花の目の色と合ってていいと思う!」

「そうかなぁ……」


 その理屈で物を買うと全身オレンジ色の擬人化(ぎじんか)したみかんみたいにならないかなぁ。


「似合うと思うわ」


 詩織さんがいつの間にか隣に来ていた。


「灯花ちゃん、暖色系が似合うもの」

「詩織さんもそう思う?」

「ええ。灯花ちゃんの雰囲気にぴったりよ」

「似合う」


 環さんも言った。


「灯花は暖かい色が似合う」


 3人に言われると、なんだか買わないといけない気がしてきた。全身オレンジ色の怪異になって友だちを失ったらみんなに責任を取ってもらおう。


「じゃあ、買おうかな……」

「やったー! 私のセンス認められた!」


 彩羽ちゃんがガッツポーズをした。


 ◇◇◇


 灯花がマフラーを買うことになった。彩羽が選んで、詩織が後押しして、転校生が決め手を入れた。

 私は何も言わなかった。

 売り場の隅で、灯花と転校生が話しているのが見えた。二人でスノードームを見ていた。転校生が何か言って、灯花が笑っている。

 胸がざわつく。


「さきっち、どしたの?」


 彩羽が隣に来た。


「なんでもない」

「なんでもない顔じゃないけど」

「うるさい」


 それ以上彩羽は何も言わなかった。ただ、私と同じ方向を見ていた。

 灯花と転校生。二人で並んでいる姿。


 ◇◇◇


 お昼は、モール内のフードコートで食べることにした。


「何食べる? 私ラーメンかな~」


 彩羽ちゃんがメニューを見ながら言った。


「私、パスタがいい」

「私はうどん」

「私はサンドイッチにしようかしら」


 私と早紀と詩織さんがそれぞれ答える。どうでもいいけどみんな小麦粉チョイス。


「花輪さんは?」


 彩羽ちゃんが環さんに聞いた。環さんはメニューを見て、少し考えた。


「うーん、何にしようかな」

「好きなものないの?」

「特に。おすすめは?」


 環さんが彩羽ちゃんに聞いた。


「私? んー、オムライスとかどう? ここの美味しいよ」

「じゃあそれで」

「決まり! じゃあ買ってくるね!」


 彩羽ちゃんが走っていった。早紀と詩織さんも、それぞれ自分の分を買いに行く。

 席には環さんと私だけが残った。


「環さん、好きな食べものないの?」

「特に。でも嫌いなものもない」

「じゃあ普段どういう風に食べるもの決めてるの?」


 私の言葉を聞いた環さんが少し口角を上げる。


「目の前にあったものをなんでも。雑草でも、カエルでも」

「え”!?」

「冗談」


 こえー! 環さんにまで弄られるのか私は!

 私を盛大にビビらせて満足したのか、環さんは窓の外を見た。私もつられてそちらを見るとモールの中庭が見える。噴水があって、子供たちが走り回っていた。


「……平和」

「え?」

「こうやってみんなで出かけたり、いいよね」


 環さんの声が、少し柔らかかった。


「環さん、前の学校では友達とお出かけとかは?」

「あんまり。転校が多かった」

「そっか……大変だったんだね」

「ううん、大変じゃない」


 でも慣れてるとも言わなかった。それがなんとなく寂しい気がして。


「……ここではゆっくりできるといいね」

「うん」


 環さんが頷いた。


「買ってきたよー!」


 彩羽ちゃんがトレーを持って戻ってきた。ラーメンのトレーとオムライスのトレーを器用に持っている。私のパスタは詩織さんが持ってきてくれたみたいだ。


「はい、花輪さんの分!」

「ありがとう」

「灯花ちゃんもどうぞ~」

「ありがとう、詩織さん」


「いただきます」

「いただきます」

「いただきます」

「いただきます」

「いただきます」


 環さんがスプーンを手に取って、一口食べた。


「美味しい」

「でしょー? 私のおすすめなんだから!」


 彩羽ちゃんが得意げに言った。環さんは頷いて、また一口食べた。


「彩羽、センスいい」

「えへへ、でしょー?」


 彩羽ちゃんが嬉しそうに笑った。環さんも、つられたように表情を緩ませた。


 ◇◇◇


 私は少し離れた場所から、その光景を見ていた。

 灯花ちゃんと花輪さんが、向かい合って座っている。彩羽ちゃんが花輪さんにオムライスを勧めて、花輪さんが「美味しい」と言って、彩羽ちゃんを褒める。

 花輪さんは笑っている。小さく、控えめに。

 でも、その笑顔がどこか——なんだろう、上手く言えない。

 本物じゃない、というわけではない。花輪さんは確かに笑っている。でも、その奥に何かがある気がする。

 本当に笑っている人と、笑おうとしている人は、微妙に違う。

 花輪さんは後者に見える。笑顔を作ることには慣れているけど、心から笑っているわけではない、みたいな。

 でも、それを指摘するのは違う気がした。花輪さんなりに、この場に馴染もうとしているのかもしれなかったから。


「詩織さん、どうしたの?」


 灯花ちゃんが私を見ていた。心配そうな顔で。


「なんでもないわ。ちょっとぼんやりしてただけ」


 私は微笑んだ。いつもの微笑みを。


「早く食べないとスープ冷めちゃうよ」

「そうね。いただきましょうか」


 スープに口をつける。暖かさが口の中に広がる。

 花輪さんを見る。灯花ちゃんと何か話している。灯花ちゃんが笑って、花輪さんも微笑む。

 仲がいい。それは間違いない。

 でも――。


「詩織ねぇ、何見てるの?」


 彩羽ちゃんが隣に来た。


「灯花ちゃんたち、仲良さそうねって思って」

「だねー」


 彩羽ちゃんの声が、いつものように明るい。

 私たちは、何も言わなかった。ただ、同じ方向を見ていた。


 ◇◇◇


 午後は、アクセサリーショップを見て回った。


「かわいー! 見て見て、このピアス!」


 彩羽ちゃんがショーケースに張り付いている。


「彩羽、さっきから『かわいい』しか言ってないね。あとピアス穴どうするの」

「変身できるんだから穴なんて100個くらい開けられるよ、今開けてみよっか100個」

「ホラー映画の死体じゃないんだから……」


 早紀がため息をついた。私は店内を見回した。

 詩織さんはブレスレットを見ている。環さんは――また店の隅っこにいる。何見てるのかな。

 近づいてみると、環さんが見ていたのはヘアピンだった。小さな花の形をした、オレンジ色のヘアピン。


「それ、かわいいね」

「灯花に似合いそう」

「え、私?」

「灯花の色だし」


 環さんがヘアピンを手に取って、私の髪に当ててみた。


「やっぱり似合う」

「そうかな……」

「買ってあげる」

「え、いいよそんな」

「いいの」


 環さんがレジに向かっていった。止める間もなかった。

 なんで私に? と思ったけど、環さんは「灯花の色だから」と言っていた。単純にそれだけの理由なのかもしれない。


「灯花、何買ってもらってんの」


 振り返ると、早紀が立っていた。


「買ってもらったんじゃなくて、環さんが勝手に……」

「ふーん」


 早紀が環さんの方を見た。環さんはレジで会計をしている。


「仲いいんだね、転校生と」

「そうかな。普通だと思うけど」

「普通ねぇ」


 早紀がそれだけ言って、離れていった。なんだったんだろう。


「はい」


 環さんが戻ってきて、小さな袋を差し出した。


「ありがとう、環さん。でも本当によかったの?」

「うん。似合うと思ったから」


 環さんが小さく笑った。


「大切にするね」

「うん」


 私は袋を受け取った。中には、さっきのオレンジ色のヘアピン。


 ◇◇◇


 見てた。全部見てた。

 環さんが灯花にヘアピンを買ってあげるところ。灯花が嬉しそうに受け取るところ。

 もやもやする。

 嫉妬だって分かってる。分かってるけど、止められない。

 私だって灯花にプレゼントあげたことある。でも灯花、今みたいに照れてなかった。いや、喜んではくれたけど、なんか違う。


「彩羽ちゃん」


 詩織ねぇが隣に来た。


「どうしたの、難しい顔して」

「してないよー。いつも通りの七瀬彩羽でーす」

「そう?」


 詩織ねぇがにっこり笑う。嘘だって分かってるくせに。でも私だって負けない。


「元気だよー。ていうか、さっきのフードコートにドーナツあったよね? 行きたい! デザート食べようよ!」

「いいわね。みんな呼んでくる?」

「うん!」


 私は明るく返事をした。いつも通りに。いつも通りの七瀬彩羽。

 灯花と環さんのところに向かう。二人で何か話してた。


「灯花ー、花輪さーん、ドーナツ食べに行こー!」

「ドーナツ! いいね!」


 灯花が目を輝かせた。


「環さんも行くでしょ?」

「行く」


 環さんが頷いた。

 よし。みんなで行けば、灯花と環さんが二人きりになることはない。

 ……なんか、自分で自分が嫌になる。

 でも、しょうがないじゃん。好きなんだもん、灯花のこと。


 ◇◇◇


 ドーナツ屋は、フードコートに併設されている。今日かなりいろいろ食べてるなぁ。明日以降ちょっと食べる量減らして運動しないと。


「何にするー?」


 彩羽ちゃんがメニューを見ながら言った。


「私、いちごチョコのやつ」

「私はプレーンでいいよ」

「私は抹茶にしようかしら」


 私と早紀と詩織さんがそれぞれ答える。


「え、1個でいいの?」


 それを聞いて私たち3人はジト目を向ける。彩羽ちゃん、あなたと違って私たちは太ったら見た目に出るんです。


「べ、べつに私も変身解いたって太ってねーし! ウエスト129.3cmの体重129.3kgだし!」


 それが本当なら太ってないとは言えないと思うけど。というかそう考えるとすごい体型してるな、22世紀のネコ型ロボット。

 ぷんすかしている彩羽ちゃんをいったん無視して環さんに尋ねる。


「花輪さんは?」

「私もいちごチョコがいい」

「おっ、灯花と一緒だね!」


 いつの間にか機嫌を直した彩羽ちゃんが騒ぐ。ぷんすかしててもそうじゃなくても彩羽ちゃんは元気だ。

 ドーナツを受け取って、近くのベンチに座った。


「美味しい……!」


 一口食べて、幸せな気持ちになる。甘いものは正義だ。絶対善はここにあった。


「うん、美味しい」


 環さんが頷いた。


「環さん、さっき好きなものは特にないって言ってたけど――」

「えっ!? そうなの!」


 私の言葉を遮って彩羽ちゃんが目を輝かせた。結局4つくらい買ってたのに1個しか買ってない環さんからドーナツを取る気かこの子!?


「ほしい?」

「……うっ、大丈夫です、すんませんナマ言いました」


 環さんに見つめられ、無表情で首を傾げられると彩羽ちゃんがたじろいだ。じっと見つめられると美人だし迫力あるんだよな、環さん。


「わかった」


 環さんは引き続きドーナツをかじった。これが完全勝利か……。

 なんだかんだ言って、環さんは普通に楽しそうに見える。最初に会った時よりも、表情が柔らかくなった気がする。


 ドーナツを食べ終わって一休みしていたら、彩羽ちゃんが突然声を上げる。


「ねぇ、今度みんなでクリスマスパーティーしない?」

「クリスマスパーティー?」

「うん! プレゼント交換とか、ケーキ食べたりとか!」

「いいね、楽しそう」


 私が賛成すると、早紀と詩織さんも頷いた。


「花輪さんも来るでしょ?」


 彩羽ちゃんが環さんに聞いた。

 環さんは少し考えてから、頷いた。


「うん、行きたい」

「やったー! じゃあ日程決めよう!」


 彩羽ちゃんがスマホを取り出した。みんなでカレンダーを見ながら、クリスマスパーティーの日程を決める。

 こうやってみんなで何かを計画するの、楽しいな。

 環さんも輪に入って、一緒に相談している。転校してきたばかりの頃よりも、随分馴染んできた気がする。


 ◇◇◇


 夕方、私たちはモールを出た。


「楽しかったねー!」


 彩羽ちゃんが伸びをしながら言った。


「うん、楽しかった」


 私も頷いた。実際、楽しかった。いろんな店を見て、いろんなものを買って、ドーナツも食べて。


「花輪さん、どうだった?」


 彩羽ちゃんが環さんに聞いた。


「楽しかった。ありがとう」


 環さんが答えた。その声は穏やかで、嘘を言っているようには聞こえなかった。


「また行こうね!」

「うん」


 環さんが頷いた。


「じゃあ、駅で解散かな」


 早紀が言った。


「そうね。みんな、今日はありがとう」


 詩織さんがにっこり笑った。

 駅に着いて、それぞれの帰る方向に別れる。


「じゃあね、また明日!」


 彩羽ちゃんが手を振った。


「また明日」


 早紀も手を振る。


「また明日ね、灯花ちゃん。花輪さんも」


 詩織さんが優しく言った。

 3人が去っていく。彩羽ちゃんと詩織さんは駅の方へ。早紀は別方向。残ったのは私と環さんだけ。途中まで同じ方向だから。


「今日、楽しかった?」


 歩きながら、私は環さんに聞いた。


「楽しかった」


 環さんが答えた。


「みんな優しいね。灯花も、灯花の友達も」

「そうかな? みんなはともかく私は普通だと思うけど……」

「はぁ」


 環さんが溜息らしきものをついて空を見上げた。夕焼けが、空を茜色に染めている。

 え、なんですか? なんか変なこと言っちゃいました?


「こういう普通の日々は大切」

「……環さんは、あんまりこういう経験なかったの?」

「転校が多かったから」


 環さんの声は淡々としていた。


「そっか、じゃあここで色々しようよ。クリスマスパーティーもあるし」

「うん」


 環さんが頷いた。

 分かれ道に着いた。


「じゃあ、また明日ね」


 私が言うと、環さんが頷いた。


「また明日」


 私は手を振った。環さんも小さく手を振り返してくれた。

 環さんの背中が遠ざかっていく。夕陽に照らされて、黒い髪が光っている。

 今日は楽しかった。5人で出かけて、いろんな話をして、いろんなものを見て。

 環さんも楽しんでくれたみたいでよかった。

 最近なんというか、ちょっと雰囲気がぎくしゃくしていた気がしていて、それが何なのかとか、なぜなのかとか分からなかったけど、今日は楽しかった。

 楽しかったのも良かったけど、また環さんと仲良くなれた気がしたのも、私は嬉しかった。

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