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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第二章:バレンタイン戦線!

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2月3日、疑心暗鬼!

 2月3日。火曜日。放課後。

 今日は掃除当番だった。しかも、5人全員が同じ日に当たっている。

 こんな偶然もあるんだな、と思いながら、私たちは教室の掃除を始めた。


「よーし、さっさと終わらせよー」


 彩羽ちゃんがほうきを振り回しながら言った。


「彩羽、ほうき振り回さないの。ホコリが舞う」


 早紀がツッコんだ。いたって正しいツッコミだと思う。


「えー、気分気分。このメンバー揃うことなんてないんだから」

「気持ちはわかるけどホコリ散らかさないでよ」


 私は綺麗目の雑巾で机を拭きながら、2人のやり取りを聞いていた。

 詩織さんは黒板を消して、環さんは机を移動させている。

 いつもの光景だ。

 でも、前よりも——なんだか、空気が軽い。

 あの日、屋上で仲直りしてから、みんなの関係は前よりも良くなった気がする。

 一昨日のカラオケも楽しかったし、今日も自然に話せている。


「あ、そういえば」


 彩羽ちゃんが急に声を上げた。


「今日、節分じゃない?」

「節分?」


 私は机拭きの手を止めてカレンダーを見る。


「あ、そういえばそうだね。2月3日だ」

「たしかに。でもあんまり節分って印象強くないよね」


 早紀が言った。


「クリスマスとかバレンタインに比べると、地味っていうか」

「分かる」


 私も頷いた。


「豆まきとか、小さい頃はやったけど、最近はやってないなぁ」

「お豆はあるけど……」


 詩織さんがカバンから小さな袋を取り出した。


「今日、節分だから持ってきたの」

「なんで?」


 早紀が聞いた。


「なんでって……なんとなく?」


 詩織さんがかわいく首を傾げた。うん、詩織さんがそう言うならもうそれで正しいです。


「節分だから、お豆くらいは食べようかなって」

「じゃあさ、せっかくだし豆まきしておく?」


 彩羽ちゃんが目を輝かせた。


「掃除しておけばバレないでしょ」

「豆まきって……教室で?」


 私が聞くと、彩羽ちゃんが頷いた。


「うん。鬼は外、福は内、ってやつ」

「でも、鬼がいるわけでもないし」

「じゃあ誰かやる?」


 彩羽ちゃんがみんなを見回した。


「といってもまぁ、じゃんけんかな?」

「鬼の役なら私がやってもいい」


 環さんが言った。


「え!?」


 みんなが驚いた。

 環さんが自分から何かをやると言い出すのは珍しい。


「環さん、いいの?」

「うん。面白そう」


 その割には表情はピクリとも動いていないけど。


「じゃあ、私が鬼役をやる。みんなは豆を投げて」

「わー、環さんありがとう!」


 彩羽ちゃんが嬉しそうに言った。


「じゃあ、環さんは鬼のお面とか……ないわよね」


 豆を持ってきた詩織さんが持ってきてなかったら多分誰も持ってきてない。


「なくても大丈夫。ちょっと準備するから、待ってて」


 そう言って、環さんが教卓の後ろに身を隠した。


「準備? 何するんだろう」


 早紀が首を傾げた。


「分かんない。鬼っぽいポーズでも考えてるのかな」


 彩羽ちゃんが言った。

 しばらく待った。

 でも、環さんは出てこない。


「……遅くない?」


 早紀が言った。


「うん、ちょっと心配になってきた」


 私も頷いた。


「環さーん、大丈夫ー?」


 彩羽ちゃんが声をかけた。

 返事がない。


「……見に行きましょうか」


 詩織さんが言った。

 みんなで教卓の後ろを覗き込んだ。


「え……!?」


 そこには——縛られて口を塞がれた彩羽ちゃんの姿があった。


「彩羽ちゃん!?」


 私は驚いて声を上げた。

 思わず振り返ると、さっきまで一緒にいた彩羽ちゃんが、きょとんとした顔で立っている。


「あぇ、私?」


 彩羽ちゃんが、教卓の後ろを覗き込んで固まった。


「え、私が2人いる……?」


 彩羽ちゃんが2人。どっちが本物だ?


「んー! んんー!」


 縛られた彩羽ちゃんが暴れて、口を塞いでいたものが外れた。


「ちょっと環さん、ひどい!」


 縛られた彩羽ちゃんが叫んだ。


「私のこと縛って私に変装して、私のフリして!」

「え、ちょっと待って」


 私たちと一緒にいた彩羽ちゃんが混乱している。


「私は何もしてないよ!? ずっとここにいたじゃん!」

「嘘! 環さんが私を縛ったの!」


 縛られていた彩羽ちゃんが反論する。


「どっちが本物の彩羽……?」


 早紀が困惑した顔で言った。普通に考えればこれまで一緒にいたんだし、縛られてないほうの彩羽ちゃんが本物なんだけど。


「分かんない……2人とも彩羽ちゃんにしか見えない……」


 そんな常識的な考えをぶっ飛ばしてくるくらい、縛られていた彩羽ちゃんも本物っぽかった。声も、顔も、仕草も、あまりに彩羽ちゃんすぎる。


「私が本物だよ!」

「私が本物だよ!」


 2人の彩羽ちゃんが同時に言った。


「……」


 詩織さんも2人を見比べている。常識とかそういうのを凌駕している2人のそっくり具合に混乱しているのだろう。


「本当に、どちらが本物か分からないわ……」


 その時——縛られていた彩羽ちゃんが、ふっと笑った。

 そして、姿が変わった。


「環さん!?」


 そこにいたのは、環さんだった。

 縄をするりと抜けて、立ち上がる。


「どう?」


 環さんが言った。


「疑心暗鬼」

「……え?」


 みんなが固まった。


「疑心暗鬼。鬼でしょ?」


 環さんが淡々と言った。


「いや、そんなこと……そう、そうかも……?」

「節分の鬼って、そういうことじゃないでしょ」


 説得されかける私とは裏腹に、早紀はそれは違うと主張している。


「でも、鬼は煩悩のメタファーでしょ。疑心暗鬼も煩悩の一種」

「まぁ、そうかもしれないけれど……」


 詩織さんが苦笑した。


「普通は赤鬼とか青鬼とかを想像するわよね」

「普通じゃつまらない」


 環さんが言った。


「ていうか、環さん変装できたの……?」


 本物の彩羽ちゃんが呆然と言った。


「彩羽の変装を参考にした」

「参考にしたって……異才って見ただけで真似できるものじゃないと思うんだけど……」


 彩羽ちゃんが困惑している。


「火を使えば、大抵のことはできる」


 環さんがさらりと言った。


「環さん、何者なの……?」


 彩羽ちゃんが戦慄していた。実際そうだ。異才を見ただけで真似できるなんて、聞いたことがない。

 とはいえ環さんならさもありなん、ともちょっと思えるのが環さんの底知れなさ。

 それよりも。


「環さん、一昨日のカラオケの時も思ったけど、実はお茶目?」


 私は思わず笑った。


「そう?」

「うん。こういうサプライズするんだなって」


 環さんは少し考えてから、言った。


「……たまにはいいかと思って。みんなが楽しそうにしてたから、私も何かしたくなった」


 環さんの言葉に、みんなが顔を見合わせた。


「……ねぇ、環さん」


 そして彩羽ちゃんが何かを思いついたような顔で、環さんに近づいた。

 そして、耳元で何かを囁く。


「別に構わないけど」


 環さんが答えた。


「やったー!」


 彩羽ちゃんが嬉しそうに振り返った。


「みんな、せっかくだからゲームしない?」

「ゲーム?」


 早紀が聞いた。


「うん。名付けて『どっちが本物?ゲーム』!」

「っていうと?」

「ルールはね、私か環さんが誰かに変装して、『同じ人が2人いる』状態を作るの」


 彩羽ちゃんが説明を始めた。


「で、残りの人が質問をして、どっちが本物か当てるの」

「なるほど」


 詩織さんが頷いた。


「さっきの状況をゲームにするのね」

「そう! まずは環さんが私に変装して、『私が2人』からやってみよ」


 ◇◇◇


 ラウンド1。彩羽ちゃんが2人。

 彩羽ちゃんと環さんがいったん廊下に出て、戻ってきたら彩羽ちゃんが2人になっていた。

 見た目は完全に同じ。どっちが本物か分からない。


「じゃあ、質問していいよー」

「じゃあ、質問していいよー」


 2人の彩羽ちゃんが同時に言った。声まで同じだ。


「えっと……」


 私は考えた。


「彩羽ちゃん、私に初めて話しかけた時、なんて言った?」


 左の彩羽ちゃんが答えた。


「『灯花ちゃんって、火の異才なんだよね? 見せて見せて!』って言った」


 右の彩羽ちゃんも答えた。


「『灯花ちゃんって、火の異才なんだよね? 見せて見せて!』」


 ……同じ答えだ。


「じゃあ、私から。次は私たちから見て右の彩羽から答えて」


 早紀が言った。あ、賢い。確かに答える順番を指摘しなかったら、環さんがあとから答えて本物の彩羽ちゃんと答えを一致させられ続けるから。


「彩羽、私に初めてイタズラした時、何した?」


 右の彩羽ちゃんが首を傾げた。


「机のなかにおもちゃのゴキブリ入れたやつじゃないっけ?」


 左の彩羽ちゃんが答えた。


「さきっちの椅子に座った時に結構音大きめのブーブークッション入れたやつ」


「右が偽物」

「えー、バレたぁ」


 右の彩羽ちゃん——環さんが変装を解いた。


「環さん、そのエピソード知らなかったの?」

「知るわけない。彩羽のイタズラは日々更新されるのに」

「私のイタズラ、そんなに多くないよ」

「多いでしょ」


 早紀が呆れ顔で言った。普通の高校生が同級生からどれだけいたずらとかされるのか分からないせいで、何と言うべきか少し迷う。彩羽ちゃんに慣らされすぎたなぁ。


 ◇◇◇


 ラウンド2。環さんが2人。

 今度は彩羽ちゃんが環さんに変装した。

 2人の環さんが並んで立っている。


「……」

「……」


 2人とも黙っている。……環さんっぽい。


「質問していい?」


 私が言うと、2人が同時に頷いた。


「環さん、私の火を初めて見た時、なんて言った?」

「暖かい火」

「暖かい火」


 2人の環さんが同時に答えた。

 どっちも環さんっぽい。


「じゃあ、次は私から」


 詩織さんが言った。


「環さん、好きな食べ物は?」


 左の環さんが答えた。


「特にない」

「甘いもの」


 2人の環さんが同時に答えた。


「……割れたわね」

「うん。でもよく考えたら私たち花輪さんの好きな食べ物って知らないかも」


 それもそうだし、結局どっちも環さんっぽい答え――いや、待てよ?


「わかった、甘いものって答えた左の環さんが偽物!」

「どうして?」


 その聞き方も環さんっぽいけど。


「たしか前好きな食べ物聞いた時に好きなものも嫌いなものも特にないって言ってた!」

「……そうなの?」


 左の環さんが右の環さんに聞いた。


「うん」

「だゃ~、そんな話してたの?」

 

 どっから出してるのか分からない声をあげて左の環さんが変装を解いた。彩羽ちゃんだ。


「私にクレープくれなかったし甘いもの好きだと思ってたのに!」


 ショッピングモールに行った時の話だろう。私が好きな食べ物について聞いたのもたしかその時だったはず。


「要らないって言ったのは彩羽」

「え、あれ取られたくなくて圧かけられてるんだと思ってたのに」

「別に欲しいと言われてたらあげてた」


 やさし! 1つしか買ってないドーナツあげられる人なんだ、環さんって。


 ◇◇◇


「灯花」


 2ラウンド終わって、環さんが私に声をかけてきた。


「次、灯花に変装してもいい?」

「え、私に?」

「うん。『灯花が2人』をやってみたい」


 環さんが私を見つめた。


「いいけど、なんで?」

「みんなが灯花のことをどれだけ知ってるか、知りたくない?」


 それはかなり。


「……知りたいかも」


 環さんが頷いた。


「みんな、環さんが私になるからそれで当てられるかやってみようって」

「面白そう!」


 まず彩羽ちゃんは乗ってきた。そもそも提案者だし、こういうの答える側も好きそうだもんね。


「いいわね、頑張るわ」


 詩織さんも参加するようで。


「それ外せないやつじゃない?」


 唯一難を示すような反応をした早紀も、乗り気ではあるよう様子。


「じゃあ一回廊下に」


 一度私と環さんが廊下に出た。


「じゃあ行くよ」


 環さんの身体の周りを蒼い火のようなものが一瞬覆って、その火がなくなった時にはすでに環さんは私の姿をしていた。

 鏡を見ているみたいだ。私と同じ顔、同じ髪型、同じ制服。


「……すごい」


 思わず声が出た。


「本当に私だ」

「じゃあ入ろっか」


 声もしゃべり方も私だ。

 スライド式の扉を開けて教室に入れば3人が座ってこちらを見ている。


「ほんとに灯花が2人いる……」


 いや、片方は環さんだけど? だ、大丈夫だよね?

 私と環さんが並んで立った。

 そして、早紀と彩羽ちゃんと詩織さんの方を向いた。


 ◇◇◇


 灯花が2人、並んで立っている。

 見た目は完全に同じ。どっちが本物か、見た目だけじゃ分からない。


「じゃあ、質問していいよ」


 右に座った灯花が言った。今のが本物の灯花なのかは分からないけど、声は確実に灯花のものだ。


「……」


 私は2人をじっと見た。

 6年間、灯花のそばにいた。誰よりも長く、灯花と一緒にいた。

 だから、分かるはず。どっちが本物の灯花か。


「左の灯花」


 私は左の灯花に聞いた。


「私たちが初めて会った時のこと、覚えてる?」


 左の灯花が答えた。


「小学5年生の時。クラス替えで同じクラスになって、早紀が話しかけてくれた」

「なんて話しかけた?」

「『隣の席だね、よろしく』って。その時の私は……その、あんまりいい反応じゃなかった思うけど」


 合ってる。

 右の灯花にも聞いた。


「右の灯花、中学生のころ私とよくコンビニに寄ってアイス食べてたけど、私は何のアイス買ってたっけ?」


 右の灯花が少し考えてから答えた。


「バニラじゃなかった? で、私がいちごばっかり買ってるの見ていつも信じられないもの見る顔してたよね」


 正解だ。灯花がいちごをよく買っていたのも含めて、正解。でも、そんな信じられないもの見る顔で見てはいないと思うけど……?


「さきっち、分かった?」


 彩羽が聞いてきた。


「まぁなんとなく程度には」


 確定まではしてない、というニュアンスを込めて正直に答えた。


 ◇◇◇


 灯花が2人。

 うーん、本当に分かんない。環さんの変装は私の目から見ても完璧。どっちも灯花に見える。


「左の灯花! 私が初めて灯花に変装した時、灯花なんて言った?」


 左の灯花が答えた。


「『えっ、私が2人いる!?』って驚いた……と思う!」

「右の灯花、私が灯花にした一番最初のいたずら!」

「覚えてないよ!」


 ごもっとも。正直、私も覚えてない。これで即答でもしようものなら即決だったんだけど。


「ねぇ灯花、これは2人とも。私のこと好き?」


 直球で聞いてみた。

 左の灯花が答えた。


「好きだよ。彩羽ちゃんは大切な友達」


 右の灯花も答えた。


「うん、好き。彩羽ちゃんといると楽しい」


 どっちも灯花っぽい。


「じゃあ、私のどこが好き?」


 左の灯花が答えた。


「明るいところ。いつも笑ってて、一緒にいると元気になる」


 右の灯花が答えた。


「元気なところ。ムードメーカーっていうか」


 なんだか左の方が、それっぽい気がする。

 右は、なんかふわっとしてる、かも。そもそも灯花ってふわってしてない? って言われたらそうかもしれないけど、そうじゃなくて!


 ◇◇◇


 灯花ちゃんが2人。

 私は2人をじっと見つめた。

 見た目は完全に同じ。声も同じ。仕草も似ている。


「灯花ちゃん」


 私は2人に聞いた。


「私があなたにあげた詩、覚えてる?」

「覚えてる」

「覚えてる」


 2人が同時に答えた。


「最後のページは、何が書いてあった?」


 左の灯花ちゃんが答えた。


「白紙だった。詩織さんがまだ言葉を探してるって」


 右の灯花ちゃんも答えた。


「何も書いてなかった。まだ完成してないって言ってた」


 どっちも正解。

 でも、答え方が違う。

 左は「詩織さんがまだ言葉を探してる」と言った。

 右は「まだ完成してない」と言った。

 灯花ちゃんは——私が言葉を探していることを、覚えていてくれているはず。


「もう一つ聞いていい?」


 2人が頷いた。


「私の詩を読んで、どう思った?」

「嬉しかった。詩織さんが私のことをこんな風に見てくれてるんだって。あと、最後のページに何が書かれるのか、楽しみにしてる」


 左の灯花ちゃんが答えた。


「綺麗だと思った。詩織さんらしい、優しい詩だった」


 右の灯花ちゃんが答えた。


 分かったと思う。

 私が言葉を探していることを覚えていて、それを楽しみにしていると言ってくれた。

 それは——私が一番嬉しい言葉。


「私は決めたわ」


 私は言った。


 ◇◇◇


「じゃあ、答え合わせしよう」


 彩羽が言った。


「せーので、どっちが本物か指さす。いい?」

「いいよ」


 私は頷いた。


「せーの」


 3人同時に——左の灯花を指さした。


「……全員一致したわね?」


 詩織が言った。

 左の灯花が、ふわっと笑った。

 その笑顔を見て、確信した。

 これが本物の灯花だ。

 灯花の笑顔は、こうだ。見ているだけで、心が暖かくなる笑顔。

 右の灯花——花輪さんが変装を解いた。


「お見事」

「環さん、すごく上手だったよ」


 灯花が言った。


「でも、みんな当ててくれたね、嬉しい!」

「当然でしょ? 灯花のことは分かるよ」


 まるでなんでもないことかのように私は言うけど。ちょっと一安心。花輪さんがあそこまで答えてくるとは思っていなかった。


「私もちゃんと灯花のことは見てるつもりだもん。分かるよ!」


 彩羽も言った。


「私も灯花ちゃんのことは、ちゃんと見ているわ」


 詩織も微笑む。

 灯花も嬉しそうに笑った。


「……ありがとう。みんな、私のこと分かってくれて」


 その笑顔を見て——ああ、やっぱり灯花だな、と思った。

 この笑顔が好きだ。

 この笑顔を、誰よりも近くで見ていたい。


 ◇◇◇


「いやー、楽しかった」


 彩羽ちゃんが笑った。


「またやろうね、どっちが本物ゲーム」

「もういいよ……」


 私は苦笑した。自分が2人いる状況は、なんだか変な気分だった。


「でも、やっぱりみんな当ててくれて嬉しかった、まだ嬉しい」


 正直な気持ち。


「みんな、私のこと分かってくれてるんだなって」


 でもちょっと気になることもある。


「環さん、なんで私のことそんな知ってるの? ほら、アイスの話とか」

「別に知ってたわけじゃない」


 え、そうなの?


「アイスの件は推測。ドーナツを一緒に食べた時に灯花はいちごを、早紀はプレーンを頼んでた」


 そうだっけ? 私はたぶんいちごがあったらいちごを頼むだろうけど、早紀は――いや、早紀も多分プレーン頼むだろうな。シンプルなの好きだし。


「だからアイスでもそうじゃないかと思った」


 す、すご~。探偵みたい。


「そうだったんだ。でも私はいちごを頼む灯花を信じられないものを見るような目では見てない」

「そうだと思う。でも完璧にしたら誰も分からない」

「それは完璧に灯花を演じることもできたってこと?」

「さぁ、どうだろう?」


 環さんは少し微笑んでぼかした。

 でもやっぱり嬉しいな。

 みんなが、ちゃんと私のことを見てくれている。早紀も彩羽ちゃんも、詩織さんも。そしてたぶん環さんも。

 それが——すごく嬉しかった。


「じゃあ、豆まきして終わりにしよっか」

「節分だものね」


 詩織さんが豆の袋を開けた。


「環さん、鬼役お願いできる? 今度は普通に」

「分かった」


 環さんが教室の端に立つ。


「いくよー。鬼は外ー!」


 彩羽ちゃんが豆を投げた。

 環さんが豆を避けようともしない。

 けど。


「当たってなくない!?」


 彩羽ちゃんが叫ぶ。豆が環さんに当たる前に燃え尽きている。環さんって自動迎撃システムついてるんだ。


「鬼は外ー!」


 早紀も投げた。


「鬼は外ー」


 詩織さんも投げた。

 環さんはピクリとも動かないのに、誰の豆も当たらない。


「そんな豆が当たると思っているの?」


 え、なんかまた寸劇が始まったけど。


「私を傷つけることができるのは暖かく優しい火を持つ者の聖別を受けた豆だけ。それ以外の豆は意味を為さぬものと知れ」


 なんか鬼ってよりも魔王っぽいけど、結構ノリノリだなぁ。

 ……ん? もしかして暖かく優しい火を持つ者って私のこと?

 

「灯花、このままじゃ世界が危ないよ! 蒼炎の魔王を倒せるのは灯花だけなんだ!」

「……これって乗ったほうがいいのかな?」

「彩羽ちゃんと環さんに任せてもいいんじゃないかしら」


 早紀と詩織さんが小声でそんなことを話してるのが聞こえるけど、私も巻き込まれてます。早紀と詩織さんだけ蚊帳の外はずるいでしょ。


「くっ、でも私の力だけじゃ魔王を倒すことは……! 力を貸してくれる人が2人でもいれば」


 私はそれっぽいことを言いながら、ちらりと早紀と詩織さんを見る。どうだ。

 あ、彩羽ちゃんが言ったなんとかの魔王はちょっとよくわからなかったのでここでは魔王とだけ呼称します。


「力を貸すって言ったって……」


 早紀の表情からはどうすればいいのよ、という気持ちがありありとうかがえる。

 たしかに早紀と詩織さんを巻き込むこと重視でどうするのか全然考えてなかったけど。


「手……」

「て?」

「手を繋いで……ほしいな?」


 うん、それっぽいんじゃなかろうか! いい感じのセリフ回しを思いついて思わず笑顔の私。


「…………」

「…………」


 そしてなんか頭を抱えてる早紀と詩織さん。

 なんかミスった? 心配になって彩羽ちゃんと環さんのほうを見る。彩羽ちゃんは頬を膨らませていて、環さんはいつも通りの無表情に戻ってこちらを見ていた。


「……さきっち、詩織ねぇ、ずるい! 私も灯花に手を繋いでほしいって言われたい! あんな表情で! ずるい!」


 え、別に手くらい繋ごうよ。というか彩羽ちゃんはいつも抱き着いてくるじゃん。


「灯花」


 立ち直った(?)早紀が真剣な目で私を見つめて右手を握ってくる。


「な、なに?」

「絶対離さないから、手。安心して」


 それはちょっと重いかもです。


「灯花ちゃん、私もずっとそばにいるわ」


 詩織さんもそんなことを本気染みた口調で告げてくる。左手を握りながら。

 それはちょっと重いかもですその2。


「灯花~! もう一回さっきのやつ言って、私にも!」


 彩羽ちゃんは彩羽ちゃんでなんか怒ってる。いや、無理無理。あれはタイミングとかそういうやつの産物だって。

 助けを求めて環さんを見てみたら環さんはもう掃除を再開していた。ちょっと!?


「ちょっと環さん!? はしご外さないで!」

「魔王は暖かく優しい愛の力で斃れた。そういうことで」

「どういうことで!?」


 っていうかそろそろ早紀と詩織さんも手を放してくれていいよ? 両手塞がってるから2人から放してくれないとかなり心無い放し方というか振り払い方をしないといけないんだよね。

 あ、ダメだ全然放してくれる気配ない!

 結局それから私は早紀と詩織さんに手を握られ、彩羽ちゃんに抱き着かれ、1人で黙々と掃除を進める環さんを見つめることしかできないのだった。ありがとう、環さん。内心何を思っていたとしてもなんでもないことのように振る舞ってくれたのも本当にありがとう!

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