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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第二章:バレンタイン戦線!

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29/29

2月1日、熱唱!

 2月1日。日曜日。

 約束通り、5人でカラオケに来た。

 駅前のカラオケ店。3時間パックで部屋を借りて、みんなで入った。


「よーし、歌うぞー!」


 彩羽ちゃんが真っ先に端末とマイクをセットで手に取った。


「彩羽、早い」


 早紀が呆れたように言った。早紀がせっかちを(たしな)めることなんて早々ない。レアケースだ。


「だってフリータイムじゃなくて3時間だよ? 同じせっかちなら歌わなにゃソンソン!」


 彩羽ちゃんがリモコンを操作して、曲を入れる。

 アップテンポな曲のイントロが流れ始めた。


「あ、この曲知ってる」


 私が言うと、彩羽ちゃんがウインクで応える。


「でしょ? 流行ってるやつ」


 そして、彩羽ちゃんが歌い始めた。


「すご」


 思わず声が出た。

 実は彩羽ちゃんとカラオケに来るのは初めてで、その歌を聞くのも初めてだ。

 彩羽ちゃんの歌声は、想像以上に上手かった。声量があって、音程も正確で、リズム感も抜群。

 というか何より声が歌手と同じなんだよね。変身の応用なんだろうけど、ここまで歌えたらカラオケも楽しいだろうなぁ。


「彩羽、歌上手いんだよね」


 早紀が身体でリズムを取りながら、端末を操作しつつ呟く。


「カラオケ来ると、いつも点数高いし」

「へへ、まあね」


 間奏で彩羽ちゃんが得意げに笑った。

 曲が終わって、画面に点数が表示された。97点。


「すごい……」

「にゃー、今日は調子悪いね」


 調子悪くて97点なの? 空の上の話をいきなり地上に展開しないで。


「じゃあ次、私」


 早紀がマイクを取った。


「何歌うの?」

「秘密」


 いや、数秒後にはわかることじゃない?

 流れてきたのは、バラード曲だった。


「あ、この曲好きよ」


 詩織さんが言った。


「私も」


 私も頷いた。有名なバラードで、私もよく聴く曲だ。

 早紀が歌い始めた。

 彩羽ちゃんとは違う、落ち着いた歌声。でも、ちゃんと上手い。感情がこもっていて、聴いていて心地いい。


「早紀も上手いね」

「まあ、普通でしょ」


 早紀が照れたように言った。

 曲が終わって、点数が表示された。92点。


「あー、96いかなかった」

「十分高いでしょ」


 90点ってそんなポンポン超えるものじゃないと思うんだけど。


「彩羽に負けてる」

「もうちょっと歌う時間長いやつ歌えばテクニック加点で96点とかすぐだって」


 彩羽ちゃんがさっそく次の曲を端末で探しながら笑った。


「試しにほら、これとかあとでどう? 知ってるでしょ」

「……じゃあ、後で」


 早紀が端末を詩織さんに渡した。


「次は……詩織かな?」

「私?」


 詩織さんが少し驚いた顔をした。


「あまり歌は得意じゃないのだけれど……」

「いいからいいから。カラオケなんだし、上手い下手関係ないよ」


 彩羽ちゃんが言った。歌が上手い人にそれ言われてもちょっと釈然としないところがあります、私は。詩織さんと環さんは分からないけど、少なくとも私はその域まで達してないです。


「……じゃあ、1曲だけ」


 詩織さんがリモコンを操作した。

 流れてきたのは——。


「え、この曲?」


 彩羽ちゃんが目を丸くした。

 私も驚いた。詩織さんが選んだのは、かなり激しいロック曲だった。


「詩織さん、こういうの聴くんだ」

「意外でしょう?」


 詩織さんが微笑んだ。


「実は好きなの。こういう激しい曲」


 前奏が終わり、詩織さんが歌い始める。

 普段のふわふわした雰囲気とは全然違う、力強い歌声。

 上手さという観点では彩羽ちゃんや早紀ほどではないかもしれない。でも、なんというか——迫力がある。


「詩織ねぇ、ギャップ……」


 彩羽ちゃんが呟いた。


「ね」


 早紀も頷く。早紀が驚いていないところを見ると早紀は詩織さんともカラオケに来たことがあるのだろうか。

 曲が終わって、詩織さんが息をついた。


「ふぅ……久しぶりに歌ったわ」

「詩織さん、かっこよかった」


 私が言うと、詩織さんが照れたように笑った。


「ありがとう」


 点数は85点。彩羽ちゃんと早紀が埒外なだけで十分高得点だった。ここ歌ウマしかいないの?


「じゃあ次は……環さんか……!」


 彩羽ちゃんがマイクを環さんに差し出した。


「私?」

「うん。環さんも歌ってよ」

「私は……」


 環さんが少し考えるような顔をする。


「嫌なら歌わなくて大丈夫」

「えー、せっかくカラオケ来たのに」

「彩羽、無理強いしないの」


 再び早紀が彩羽ちゃんを窘める。


「歌いたくない人もいるでしょ」

「でもぉ~」

「いいよ」


 環さんが短く答えた。


「1曲なら」

「ほんと!?」


 彩羽ちゃんが目を輝かせた。

 正直なところ、環さんの歌は……かなり聴きたい。憎まれ役を買って出てくれた(?)彩羽ちゃんに感謝する。

 環さんが端末を操作した。

 流れてきたのは、最近かなり流行っているJ-POP。


「あ、これ」


 私も当然に知っている。というか大好き。よく聴いてる。

 みんなも……多分知っていると思う。動画配信サービスで1億再生とか超えてたし。

 どちらかと言うと静かな曲調で、たしかに環さんが歌うのは似合うかも。

 というか環さんってそういうのも押さえてるんだ。


 そんなことを考えていると短い前奏が終わり、環さんが歌い始めた。

 静かな声。感情が抑えられた、淡々とした歌い方。

 でも、静かでちょっと明るい曲調を環さんが歌うと、どこか——切ない。


「……」


 みんな、黙って聴いていた。

 環さんの歌声には、胸に迫る何かが確かにあった。

 曲が終わって少しの沈黙の後、早紀がお手洗いで席を外して、彩羽ちゃんが口を開いた。


「……環さん。わたし、泣きそう」

「そう?」


 環さんが首を傾げた。


「普通に歌っただけ」

「いや、普通じゃないと思う、今のは」


 私もかなり、なんというか胸に来た。彩羽ちゃんに同意する。


「なんか……すごく切なかった」

「そうね。心に響いたわ」


 詩織さんも言った。


「そう、ありがとう。前はよく聴いてた」


 環さんは、少しだけ表情を緩めた。

 でもその言葉に私は少し違和感を覚える。

 ちなみにその間に彩羽ちゃんは「私もあれを目指す!」と意気込んで一曲入れている。本当にカラオケを楽しみ倒すつもりらしい。

 

「前は、って言ってもこの曲結構最近の曲じゃない?」


 たしかに1年前くらいの曲だから前は、とも言えなくはないのかもしれないけど。


「そう? もっと昔の曲かと思ってた。年を取ると時間が過ぎるのも早い」


 私たちの年齢でそれ言っちゃうといろいろな年齢の人に怒られそうだけど。


「そういえば環さんの昔話って聞いたことないわよね」

「たしかに」


 本人が話したがっていないならこちらから聞くのも、と思っていたけど今ならどうだろう。ちょっと教えてくれたりとか。


「まぁ、聞きたいなら」

「ほ、ほんと?」

 

 前にそれっぽい話題になった時は、はぐらかされた気がするけど。


「ねぇ、灯花~、みんな歌ったんだし灯花も歌わない?」


 一曲歌い終わった彩羽ちゃんが私に声をかけてくるけれど、正直今は歌うよりも環さんの過去の話を聞きたいかも。


「彩羽ちゃん、私の歌と環さんの昔の話どっちが聞きたい?」

「え、それはちょっと一世一代の二択かも!?」


 そう叫んだ彩羽ちゃんは日光を浴びた吸血鬼のようなうめき声をあげながら悩み始めた。

 

「で、良かったら聞きたいな、環さんの昔の話」

「彩羽は放っておくの?」

「話始めてくれればきっとこっちくるよ」


 そのタイミングで早紀が帰ってきた。


「何の話? というか彩羽はどうしたの?」

「おかえりなさい。環さんの昔話が聞けるかもしれないのだけど、灯花ちゃんの歌も聴きたくてあんな風に」


 詩織さんが簡潔に状況説明をしてくれた。


「どっちも聞けばいいじゃんそんなん……」


 呆れながら早紀はソファに座った。端末に手を伸ばさないところを見ると、早紀はもう環さんの昔話を聞く気満々のようだ。


「というか、灯花がそっち聞く気なら私が灯花の歌聴きたいって思っても泣きながら土下座するくらいしかないじゃん、私も環さんの昔話聞きたい~!」


 真理に気がついた彩羽ちゃんも合流して、私たちは全員で環さんの昔の話を聞く体制になった。


「そんな目を輝かせながら聞くような話じゃない」


 そう言って環さんが話し始める。


「そう、あれは82億年前の――」

「ちょっと待ってもらっていい?」


 「ちょっと待てや」ボタンがあったらぶっ壊すくらいの勢いで押してたと思うけど、そんなものはないので手で制するだけに留める。


「え、環さんって真顔で急にそういう」

「どうして嘘だと?」

「いや、だってまだ地球も太陽もないでしょ、その時期、時期であってる?」


 82億年前って、それはもう時代と言うべきか時期と言うべきかもわからない……なに、『時』? だ。


「私が別に地球で生まれたとはこれまで一回も言ってないし、聞かれもしなかった」

「転校生を何の脈絡もなく宇宙人かもしれないとは普通思わないからだねそれは」

「おかしいとは思わなかった? 異才の強さには才能の差があるとはいえ、同じ火の異才で、同い年でここまで出力に差があることを」


 それはちょっと気にはなったけど! いや、でもまぁそうか……。宇宙人ならあの異才の強さにも納得がいくかもしれない……。というか宇宙人にも異才ってあるんだ。


「なに若干納得してるの」


 早紀が私をジト目で刺してきた。


「いやだって一人暮らしなのとかもなんか説明つく気がするじゃん?」


 否定する材料も特にないわけだしさ。

 そんなことを言うと環さんは少し微笑んだ。


「早紀はごまかされないか」

「灯花以外誰も信じてないよ」


 宇宙人説を否定する特大の材料が環さんから投下された。早紀の言葉と合わせて、純真な私の心に999ダメージ!


「え、全部嘘?」

「転校生を何の脈絡もなく宇宙人かもしれないと考えないのと同じくらい普通に嘘だと気が付いてほしい、心配だよ灯花」


 早紀と彩羽ちゃんから心配そうな顔をされてしまった。詩織さんはいつも通り微笑んでいるけど、その微笑みの裏では果たして何を考えているのか。


「私とて別に何も考えずに信じたわけじゃないんですがぁ!? 常識以外の否定材料がなかったからそういうこともあるかなって思っただけで!」

「でも私はれっきとした地球生まれ」

「環さんが梯子外すのが早いんだよね!」


 嘘つくならもうちょっとついてよね!


「で、環さん、Youはどこからこの学校へ?」


 彩羽ちゃんがそう言ってマイクを向けた。カラオケだからマイクを向けるフリじゃなくてガチマイク。


「遠くから越してきた。親がもういないから一人暮らしをしてて、異才に関しては才能と努力の結果。それだけ」


 そう言って環さんはドリンクに口をつけた。話は終わり、ということだろうか。


「うーん、結局はぐらかされたような」


 マイクを向けていた彩羽ちゃんが首を傾げながらマイクを下ろした。


 「やっぱり聞きたい? あれは3兆――」とまた大きな数字が口にした環さんを苦笑いした早紀が制止する。

 さっきは82億じゃなかった? 数字増えてるし。

 

「じゃあ環さんの話も聞いたわけだし、次は灯花が歌う番だよね?」


 環さんに向けられていたマイクが彩羽ちゃんによって私に向けられた。


「え、私?」

「みんな歌ったでしょ。灯花もよかったら」


 早紀に促される。


「う、うん……」


 私はリモコンを手に取った。何を歌おう。

 みんな上手いから、緊張する。


「灯花、何歌うの?」


 彩羽ちゃんが聞いてくる。ちょっと待ってねそれを今考えてるから!


「えっと……」


 迷った末に、なんとなくみんなが知ってそうな曲を選んだ。1人で歌ってもあまり違和感のない合唱曲。


「あ、懐かし! 中学の時にどこかのクラスが歌ってた気がするこれ」


 良かった、彩羽ちゃんは知ってるっぽい。


 イントロが流れて、私は歌い始めた。

 ちょっと緊張してて声が震える。音程も、たぶん少しずれてる。

 でも、最後まで歌いきった。


「お疲れ、いいじゃん灯花! 合唱曲ってソロでも案外いいもんだね」


 彩羽ちゃんが拍手してくれた。


「灯花、緊張してた?」

「う、うん……みんな上手いから」

「別に上手くなくていいんだよ。カラオケなんだから。楽しく歌えればいいの」


 早紀が言うけど、緊張しないのは無理だって。こんだけ歌ウマに囲まれたら!

 点数は76点。まあ、こんなものかな。


「ねぇ、みんなで歌える曲入れようよ」


 彩羽ちゃんが言った。


「みんなで?」

「うん。5人で歌えるやつ」


 彩羽ちゃんがリモコンを操作した。


「これとか、どう?」


 画面に表示されたのは、これもまた超有名なアップテンポのJ-POPだった。たぶんみんな知ってる曲。


「いいね」


 早紀が頷いた。


「私も歌えるわよ」


 詩織さんも言った。


「環さんは?」

「……知ってる」


 環さんも頷いた。


「灯花は知ってるよね? じゃあ、決まり!」


 彩羽ちゃんが曲を入れた。

 全員で歌うと言ってもマイクは2本しかないから、回しながら歌うことになった。

 イントロが流れて、彩羽ちゃんが歌い始める。歌詞表示が切り替わったら早紀が歌って、詩織さんにマイクが渡って、次の歌詞表示では詩織さんが歌って――本来はたぶん2人で歌詞表示ごとに交互に歌うみたいなやつを5人で回したせいで歌ってるんだか何かと戦っているんだか若干分からなかったけど。

 最後のサビは、みんなで歌った。

 マイクを持ってない人も、一緒に声を出して。


「——!」


 曲が終わって、みんなで笑い合った。


「え、待ってめっちゃ楽しい!」


 彩羽ちゃんが言った。


「ね、もう1曲みんなで歌おうよ」

「いいね」


 早紀も笑っていた。


「次は何にする?」


 1曲だけと言っていた詩織さんや環さんも含めて、みんなで曲を選んで、また歌った。

 そしてまた選んで、また歌って。

 3時間はあっという間に過ぎた。


 ◇◇◇


 カラオケを出て、みんなで駅に向かった。


「楽しかったぁ」


 彩羽ちゃんが伸びをした。


「楽しかったね」


 私も頷いた。


「また来ようよ!」

「うん」


 早紀も頷いた。


「今度は採点で勝負しよう」

「いいよ。負けないから」


 彩羽ちゃんがにやりと笑った。あ、その勝負私は抜きでお願いします。


「2人とも、負けず嫌いね」


 詩織さんが苦笑した。


「でも、そういうところも2人のいいところよね」


 みんなで笑った。


「環さんも、また歌ってね」


 彩羽ちゃんが環さんに話を向ける。


「環さんの歌、すごく良かったから」

「気が向いたら」


 環さんが答えた。でも、少しだけ嬉しそうに見えた。

 駅に着いて、改札の前で立ち止まった。


「じゃあ、また明日」


 早紀が微笑んだ。


「また明日~」


 彩羽ちゃんも大きく手を振った。


「また明日ね」


 詩織さんも手を振る。


「また明日」


 環さんも言った。


「うん、また明日」


 私も手を振った。

 また明日と言っても環さんと早紀とは同じ電車に乗るんだけども。

 窓の外を見ながら、今日のことを思い出していた。

 楽しかった。

 みんなで歌って、笑って、楽しかった。

 あの日——私が屋上でべしょべしょに泣いた日から、まだ数日しか経っていない。

 でも、もう前より仲良くなれた気がする。

 仲直りして、一緒に遊んで、また笑い合えるようになった。

 それが、すごく嬉しい。

 これからも、こうやってみんなで過ごしたい。

 でも、ちょっと気になることもある。

 環さんの過去の話に関しては、なんだか煙に巻かれた気がする。

 82億年前がどうだとか、宇宙人については冗談だと言われたけど、あの歌の時の切なさは——なんだったんだろう。

 ……まあ、いいか。今日は楽しかったし。

 5人で笑って、楽しい時間を過ごしたい。

 そう思いながら、私は家に帰った。

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